第83回 「インターネットとの関わり方の教え方」について
皆さんこんにちは。今回も連載をご覧下さりありがとうございます。
猛暑、豪雨と天災に悩まされることの多い今年の夏、被害に遭われた皆様には心よりお見舞い申し上げます。
災害や暑さなど、日ごろから備えられることは対策をしたいものです。洪水などは日ごろからその地域のハザードマップなど確認する(※)ことで備えられると思います。また、この暑さは人が耐えられるものでもないと思いますので、無理せず外に出ない、28℃前後でエアコンを使うなどの対策を行ないたいです。
(※ハザードマップは国土交通省のwebで確認できます)
特にご年配の方は「昔はエアコンなど使わなくても平気だったから」とエアコンを使いたがらないことも多いようですが、アスファルトの照り返しなどで、夜になっても都市の熱が下がらない現代は、昔とは暑さが違います。ご年配の方には「命を守るために必要」と話していただけたら、と思います。
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今回は、「インターネットとの関わり方の教え方」について考えます。同様の問題は、第68回「携帯電話」について、でも書いたのですが、今は携帯電話ではなくスマートフォンが若者を中心に急速に普及しています。生徒たちでも従来の携帯電話を持っている者はごくわずか、スマートフォンが一般的になりました。そのことにより、新たな問題も発生していますので、改めて取り上げます。なお、第68回連載も、併せてご覧下さいますようお願い致します。
今年6月くらいから、コンビニやファーストフードなどのアルバイト店員が、店内で「冷蔵ケースに入って寝た」「パンなどの食材の上に寝た(食材を食べた)」などの画像がtwitterやfacebookなどを通じて流出し、その後企業が謝罪する、というケースが後を絶ちません。海外でプレー中の日本人サッカー選手がコンビニに来店した際、防犯カメラの画像もtwitterに公開したケースもありました。
このような事件が相次いで起こったことに、大人世代から疑問の声が多く上がりました。そこで、今回は、10代の学生・生徒と教育現場で関わる者として、現在のインターネットとの関わり方の教育の問題点を取り上げ、改善点を提案します。
そもそも、現在の教育制度では「twitterなどを通じた、インターネットとの関わり方を体系的に指導するシステムは存在しない」のです。もちろん最低限のこと、プライバシーを明かしてはならない、友人の悪口などを書いてはならない、などの指導は行なわれているはずです。ただ、指導を受けても、生徒たちのtwitterなどとの関わり方はもっと身近な話題が中心で、通りいっぺんの話は彼らの心にきちんと整理されて届いていないように感じることがあります。そこで、聞いた話が自分の実際の行動に生かせず、問題を起こしてしまうのです。
もちろん、教員の話をきちんと聞き、やたらに書き込みしない生徒もいます。今の日本の子どもたちは、あらゆるものごとでの「格差」があり、学業成績や教養も大変素晴らしい者もいれば、本などほとんど読まない者もいるのが実態です。
高校では「情報」という教科があり、その中でも指導は受けています。なお、中学では「情報」という教科がなく、技術科の中で指導することになっています。
ただ、率直に言えば、学校の「情報」はパソコンソフトの使い方など、パソコンでの学習内容が中心ですが、生徒たちはスマートフォンで発信するので、同じように捉えられない場合もあるのではないでしょうか。
検索したり、思いがけないつながりを見つけることで、生徒たちのtwitterアカウントを見ることがあります。彼らの多くは、出身中学・現在のクラス・部活動などプライバシーに関わる話題を書いています。そして書く内容は友人たちとのおしゃべりの延長で、たとえば部活の合宿で泊まるホテルの様子、カラオケでの様子、テスト勉強の話題や宿題の進み具合などが中心です。身近な話題ですから、友人たちに面白いことを言いたい、面白いと思ってもらえる画像を撮りたい、ということも当然あるでしょう。
プライバシーを明かすのは危険だと指導しているにも関わらず、この状況なのです。このように、彼らは身近な人々とのコミュニケーションのツールとしてtwitterなどを使っているので、「これが全世界につながっている」ということは普段ほとんど認識できていないように感じます。
そこから、「身近な人に受け狙いのつもりで載せた」ことが、全世界に発信されてしまい、本人たちは想定していなかった処罰をうけることになります。最初に挙げたコンビニのケースでは、掲載した者の親族が、コンビニのフランチャイズ契約を解除されるといった重い処分も受けました。身近な者への発信手段としてtwitterなどのツールを認識している限り、このような処分は想定できないでしょう。彼らの行動を擁護するつもりはありませんが、twitterなどでの発信は「世界とつながっている」ことを正しく認識させていれば、このような行動は起こさなかったかもしれません。その意味で、twitterなどのアカウントを持つことは「世界とつながっている」と認識させるべきだと感じます。
今回の報道を見ていて気づいたことがあります。それは、処分された者がほぼ全て「アルバイト=非正規雇用」であり、恐らく厳格な研修などは受けていないだろう、ということです。現代社会では非正規雇用で労働への第一歩を踏み出す者が一般的なのですから、企業は、アルバイトにもプライバシーの取り扱いについて厳格に指針を示す、学校や家庭でも指導するなどのことが求められると私は考えます。
「アルバイト先で、有名人が来たからってtwitterで公開したら大変なのよ」と私が言うと、生徒たちはそのことに潜んでいることの重大性に気づかないようで、最初は、きつねにつままれたような顔をします。ところが話をするにつれ、理解できると、納得した様子になります。大人がきちんと説明して、納得すれば発信はしない者もいるでしょうから、やはり大人が指導することは大前提として必要です。
最後に、現在の学校でこのような問題について指導する環境は、あまりにもお粗末で不十分だと感じます。プライバシーの取り扱いなどについて考えさせるためには、たとえば中学生でも「情報」を新設する、または道徳で、「学校の公式サイトの一部を生徒に担当」させても良いのではないでしょうか。中学2年生なら受験への負担も少ないですし、1年生よりは学校のことが理解できているので、大人が指導すれば対応できるはずです。
学校の公式サイトなどは、各校とも教員が工夫して作っています。生徒が特定できるような写真は掲載しない、あるいは写真を載せても名前などは掲載しないのが通例です。生徒にもその一翼を担わせることで、「webでの情報の取り扱い方」を理解させることができるのではないでしょうか。
今の若者たちは「デジタルネイキッド」世代と言われます。生まれながらにデジタル機器があるのが当たり前の状況ということです。ですが、大人たちの多くは、彼らがどのように発信するかを深く考えず、通りいっぺんの指導しかしていないのです。今回の事件を通じ、自分の子どもに、生徒に、アルバイト先の若者たちにどのように教育すべきか、大人たちに考えていただけたら、と願っています。
【今回のまとめ】
- スマートフォンの急激な普及、twitterやfacebookの登録が一般化し、問題ある使い方をする若者が話題になる。そもそも教科としては高校の「情報」しか主なものがなく、学校や家庭の指導に任せられており、正しい使い方を教わっていない者も多いのではないか
- 友人との連絡やコミュニケーションでスマホを当たり前に使う一方、友人たちとの閉じた関係で使うことが基本なので、その端末で発信すると「世界中にたちまち伝わる」ことが認識できていない者もいる。twitterなどでの発信は「世界とつながっている」ことを正しく認識させるべきである
- 問題となっている行動は大半がアルバイト、非正規雇用の者が起こしたことである。webでの発信に関する指導も行なわれていないケースもあるのではないか。現代ではアルバイトが社会経験の第一歩というのが一般的、社会に出す前に家庭も学校も、もちろん企業も毅然と指針を示すべきである
- 学校では、中学でも「情報」という教科を設ける、または、中学2年生で「学校の公式サイトを生徒に分担して発信させる」ことを「道徳」で取り入れてはどうか。発信すべきこと、発信してはならないこと、他者への気遣いやプライバシー配慮なども学ぶことができる
2013.8.15 掲載
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