第81回 「2013年の教育に関する政治・注視したい点」について(後編)
皆さんこんにちは。今回も連載をご覧下さりありがとうございます。
前回更新後、安倍政権の教育政策に関する話題以外に、いじめ問題や体罰問題など、多くの痛ましく、また、気がかりなニュースがありました。伝えたいことは改めてこの場で書く予定でおります。恐れ入りますが、もう少々お待ち下さいますよう、よろしくお願いします。
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今回のテーマは、「2013年の教育に関する政治・注視したい点」についてです。前回に続き、今回が後編です。
まず、話題になっているのが、「孫への教育資金非課税制度」です。間もなく、4/1から信託銀行などで金融商品が発売されます。2015年12月末までの預け入れが必要で、1,500万円まで非課税となります。
ただし、孫が30歳までに使いきれずに預金が残っていた場合、贈与税が課税されます。使い道は、基本的には学校の入学金や授業料の支払いを想定しており、金融機関に領収書を提出する必要があります。
学校以外の塾などへの支出は、500万円までとされており、また、海外留学や金銭的負担の重い習い事などへの出費がどこまでが認められるかは、4月以降に文部科学省が指針を示すことになっています。
この制度は余裕のある高齢者とその子ども・孫のみが恩恵を受けられるものです。ですから、関心のある方とない方にはっきり分かれています。「複数の孫にそれぞれ1,500万円分け与えたい」という相談も、既に税理士などに寄せられているとも聞きます。
このような制度を作るのであれば、私は、このような提案をしたいです。
年収が一定額(300万円など)以下の収入の家庭の子どもが大学進学を希望した場合、学費を給付する奨学金の創設をしてほしいのです。学校の評定平均が4.0以上など、成績優秀な生徒に限っても良いですが、とにかくこのままでは教育格差が広がるばかりで、格差を広げるための制度だと言われても仕方がありません。
次に、いじめ問題などの悪質化を受けて、首相直属の教育再生実行会議により、道徳教育の教科化が提言されました。
現在は義務教育期間、担任が指導することになっています。きちんと授業を実施している教員と、進度が遅れている他の教科に振り替えるなどして、あまり実施していない教員との間の差が以前から指摘されていました。
教科化、ということは、成績で評価されることですし、また、教員免許制度の設立も視野に入るので、実行は簡単ではありません。まずは議論の行方を見守らねばなりません。
このことで気になるのは、授業を受ける児童・生徒が、習う道徳の内容に心から納得しなければ、何の意味もない、ということです。分かりやすく言えば、「感想文などで正統派の意見を書いても、周囲の同級生をいじめたり、弱者に差別的態度を取ったりしては、授業を実践した意味がない」ということです。子どもたちが、面と向かっては服従しているのに、腹の中では背反している「面従腹背(めんじゅうふくはい)」ではならないのです。
また、教育の内容も気になります。少数者(マイノリティ)への配慮に欠ける、画一化した価値観を押しつけるのでは、周囲への思いやりも育たないし、世界の多様な状況に目を向けられず、子どもたちが世界に出て活躍できなくなるのではないか、という危惧もあります。この価値観に関しては、後ほどまた述べます。
そして、道徳教育、の点で言えば、お伝えしたいこととして、昨年大きく問題になった滋賀県大津市でのいじめ事件があります。いじめで生徒が自殺に追い込まれた中学は、文部科学省の「道徳教育のモデル校」でした。その学校で生徒が悪質ないじめで自殺しているということは、「道徳教育が生徒たちの心にきちんと届いていなかった」ことを意味します。
まずはこの中学でのモデル校の教育内容を振り返り、なぜ生徒たちの心に響く道徳教育が行なわれなかったのかを検証し、有効な道徳教育とは何かを考えない限り、同じような過ちを繰り返すことは否定できないでしょう。
また、教育再生実行会議は、現在の「6・3・3・4」制の見直しを進めようとしているという報道も出ています。これは、教育の根幹に関わるので、国民に広く知られて、議論されたうえで結論を出すように、見守らねばなりません。
最後に、教育問題ではありませんが、安倍政権の価値観は少数者への視点が欠けている、という話題を取り上げます。内閣は、サンフランシスコ講和条約が発効した4/28を「主権回復の日」とし、記念式典を開催する予定だそうです。
本土の人々にとっては、この日は米国を中心とした連合国の占領から解放された日で、確かに「主権回復」なのですが、奄美・沖縄・小笠原各諸島の皆さんの中には、アメリカの占領となった屈辱の日、と捉えている方もいます。仲井真沖縄県知事は、3/23現在、「お祝いであれば記念式典には出席しにくい」という立場です。
また、同性愛者の団体が昨年の総選挙前に実施したアンケートでの、「人権問題として同性愛者や性同一性障害者らの性的少数者について取り組んでいくことをどう思うか?」という質問には、自民党は「人権問題として取り組まなくてよい」という回答だったとも聞いています。私は同性愛者ではありませんが、個人の自由として尊重すべきものだと考えています。
このようなことから、自民党の安倍政権は少数者への配慮に欠ける視点での態度が目立ち、この視点が多方面で政策に及ばないか、注視する必要があります。
どのような思想・立場であれ、日本を良くしたい、という思いは日本人の多くが持っている考えではないでしょうか。そのためには、広く議論がなされることが重要だと私は考えています。一部の人だけに任せていると、その人たちの主観が強く出た意見が採用され、他の意見を持つ人は我慢させられることにつながりかねないからです。
日本を良くするための、この連載もひとつのきっかけになってくれたら、私は嬉しいです。
※注) この原稿は2013/3/23時点の内容を含んでおり、最新の情報とは異なる場合があります。
【今回のまとめ】
- 孫への教育資金非課税制度を利用した金融商品が、今年4月から信託銀行などで発売される。2015年12月末までの預け入れが必要で、1,500万円まで非課税となる。孫が30歳までに使いきれずに預金が残っていた場合、贈与税が課税される。この制度は余裕のある高齢者とその子ども・孫のみが恩恵を受けられるもので、それ以外には何のメリットもない。富裕層のみを支援するのではなく、たとえば貧困家庭の子どもが大学進学を希望した場合、一定額まで学費を給付する奨学金の創設など、公的機関による支援も同時に考えるべきである
- 教育再生実行会議により、道徳教育の教科化が提言された。成績で評価されることになり、また、教員免許制度の設立も視野に入るので、実行は簡単ではないが、行方を見守りたい。教科化しても、児童・生徒が心から納得しなければ無意味であり、画一化した価値観を押しつけるのでは、周囲への思いやりも育たないし、世界の多様な状況に目を向けられず、子どもたちが世界に出て活躍できなくなるのではないか
- 教育再生実行会議は現在の「6・3・3・4」制の見直しを進めようとしているという指摘もある。教育の根幹に関わるので、国民に広く知られて、議論されたうえで結論を出すべきである
- 教育関連ではないが、安倍政権は4/28を「主権回復の日」とし、記念式典を開催予定で、この日は奄美・沖縄・小笠原各諸島にとってはアメリカ占領となった屈辱の日でもある。安倍政権は少数者(マイノリティ)への視点が欠けている部分があり、この視点が他の政策にも及ばないか、注視する必要がある
2013.3.28 掲載
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