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第80回 「2013年の教育に関する政治・注視したい点」について(前編)


皆さんこんにちは。今回も連載をご覧下さりありがとうございます。2013年最初の更新です。今後も、自分なりに世の中に訴えたいことを更新していきますので、どうぞよろしくお願い致します。ゆったりとしたペースになるかもしれませんが、お付き合いいただけましたら嬉しいです。

* * * * *

今回のテーマは、「2013年の教育に関する政治・注視したい点」についてです。話題が日を追うごとに増えていますので、複数に分けて書く予定です。
  民主党への政権交代から約3年、2012年12月の第46回総選挙で、自民党が第一党になりました。
  その結果、教育面を中心に大きく変わることが予測される政策について書き、同時に、政治に関して、注視したい点を考えます。

まず、民主党政権で高校授業料が無償化されました。2009年の政権交代後、2010年度からスタートした制度で、私立校は保護者の所得により、公立校とほぼ同額の約12万円から、最大で24万円の補助が出ていました。
  この制度により、経済的理由による高校中退者は実施前に比べ600人近く、約37%も減りました(2009年度:1647人→2010年度:1043人)。お子さんが高校生ではない方、また、高校教員以外の方には伝わりにくかった政策でしたが、私自身の実感としても、経済的理由で退学する生徒は大幅に減り、安心していたところでした。

ところが自民党の公約では、この補助は保護者の所得で線引きをすることになっています。学校が保護者の所得を把握しなくてはならないので今年4月の実施は困難、来年の2014年度の実施を目指しています。年収700万円あたりが境界だと想定されています。

確かに、じゅうぶん子どもを養育できる家庭の子には補助は不要かもしれません。ただ、この場合恐らく、課税などと同様に、前年度の保護者の所得によって補助の有無が決まると考えられます。つまり、保護者のリストラや離婚などで家計が急変した場合でも、「昨年までは所得がじゅうぶんあった」からと、授業料負担を強いられることが考えられます。このような場合に生徒を救済する仕組みを整えてから、自民党には政策を実行してもらわねばなりません。

高校授業料無償化で、経済的理由による中退者が減ったように、現在の日本では、保護者の経済的状況が不安定なので、社会のサポートが必要不可欠です。
  また、世界的に見ても、日本は、ユニセフやOECDから「子どもの貧困率が約14%」と指摘されているのが現状です。先進国ではアメリカに次ぎ2位、また、OECD平均の12%を上回る数字ということも報道されています。

その数字を側面から語るものとして、就学援助が過去最高となったという報道が昨年秋ありました。就学援助とは、生活保護とそれに準ずる世帯の子どもに、義務教育期間中、学用品や給食費を補助する制度ですが、2011年度は約157万人にも上り、前年度より1万7000人近く増え、過去最多を更新しています。ちなみに、この人数は過去16年間増え続けています。

このような数字もあるのですが、育児・介護なども含め、自民党の政策の基本は、社会のサポートではなく、「家庭がしっかり機能する」ことを前提に成り立っていると感じます。たとえば、「0歳児は家庭で基本的に育てる」、「多世代同居の推進」などです。「多世代同居の推進」は、政策パンフレットにも掲載されています。

ただ、多世代同居の推進に関しては、地方出身者で、都市部で子育てをしている世帯などは、いったいどうすれば良いのでしょうか。親を呼び寄せれば地方の過疎化は進行しますし、子どもが地方に戻るのであれば、仕事がないと生計が成り立ちません。IT化が進み、地方からもユニークな発信をしている方は多く見ますが、地方出身の方の大多数が地元に戻って生活できていれば、地方の過疎化は取りざたされないはずです。

また、たとえ都市部出身でも、親と仲が良ければ多世代同居も良いですが、仲が良くなければ同居は困難でしょう。そもそも、どこでどう住むか、ということは個人の自由であり、多世代同居を推進するというのは個人の価値観や生き方にまで政治が介入するという意味なのかと恐ろしささえ感じます。

さて、今回の総選挙にあたり、徴兵制の将来的復活を心配する声がありました。というのは、自民党の日本国憲法改正草案で、現在の憲法18条「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない」という条文が削除されており、そのことに関し、今のところじゅうぶんな説明がなされていないのです。ここから、憶測ではありますが、奴隷的拘束が許される、つまり、徴兵制を許容するものではないか、という話が出たようです。

安倍首相の「自衛隊の国防軍化」発言とも併せ、この草案はさまざまに議論を呼んでいます。ちなみに、第97条(基本的人権に関する条文)も全文削除されています。基本的人権を削除するのですから、個人の生き方に介入するのもある意味当然と言えるのかもしれません。
  自民党の草案のURLを紹介しますが、比較するサイトなども検索で出てきますので、気になる方はご覧下さい。

    ※参考・自民党の日本国憲法改正草案(2012年4月27日決定)

なお、こういうことを現在自民党があまり宣伝しないのは、夏に実施される参院選まではあまりこのようなことは声高に言わず、安定多数を得てから一気に実現させるのが狙いではないか、という意見があります。

今回の総選挙後、生徒に憲法改正の動きがあると話すと、すぐに、
「徴兵制ですよね」
という声が挙がりました。間もなく成人になる彼らにとって、この問題は関心が高く、しかも、まだ未成年で選挙権もないので、自分たちの将来を大きく変えるかもしれないことが自分の手で決められず、しかも間近に迫っている、と不安な様子がよく伝わりました。

同時に彼らが、「大人たちが行なってこなかったことを、突然子どもに強いるのは卑怯だ」と強く思っていることもひしひし感じました。大人は子どもに、自分の通った道を話したりして、励ましたり叱ったりするものですが、突然法律を変えれば、大人たちがしてこなかったことをさせることになります。もし徴兵制と言うのであれば、そうさせたい大人たちが、まず手本を示されてはいかがでしょうか。

なお、徴兵制まで行きませんが、昨年末当選した猪瀬直樹東京都知事が、就任後すぐ「都立高校生を1ヶ月くらい自衛隊や消防署で訓練させたいが、場所がない」という趣旨の発言をされました。こういう発言は選挙期間中聞いた覚えがなく、突然のことで私も驚いています。この発言も注意して見ていきたいです。

この徴兵制に関し、現場で感じていることがあります。それは、「現在の子どもたちは少子化で大事に育てられており、また、家電の発達や生活環境の変化で、快適な生活が当たり前で、動かなくても済むのが当然となっている。そういう子どもたちに突然厳しい訓練をさせても、対応できるのはハイレベルなスポーツに取り組んでいる一部の者だけ」だということです。

今の親世代が小・中学生だった1985(昭和60年)が、子どもの体力はピークでした。最近は低下傾向に歯止めがかかっているものの、運動を定期的にしている子どもと、していない子どもの格差が激しく、また、運動していない子は、昭和60年の平均を大きく下回っているのです。

    ※参考・文部科学省
    平成23年度体力・運動能力調査結果の概要及び報告書について(調査結果の特徴)

でも、これはある意味当然ではないでしょうか。都会の高層住宅ではエレベーターが完備され、ほとんど歩かなくても高層の住まいから地上に出られます。地方では、交通機関が少ないので、自家用車で出かけるのが当たり前です。

少子化に伴い、ひとりで下校や塾・習い事から帰宅させるのは危険と、保護者が自家用車で送迎します。私の自宅のある沿線では、民間の学童保育で事業拡大している会社がありますが、その会社は、放課後の学校に送迎バスが巡回しています。また、保護者の自家用車の送迎は、交通の発達している大都市より地方都市で多く見られるのではないでしょうか。子どもがクリスマスに欲しがるのは室内ゲーム、という話や、子どもに「外で遊んできなさい」と保護者が言うと、ゲームを持って外へ行き、数人で遊んでいる、という話も聞きました。

昨年の東日本大震災後、都内を中心に、「歩いて自宅に帰れるだけの基礎体力がないと、生き残れない」という声が挙がりました。日ごろ運動をしていればたいしたことはなくても、運動が習慣になっていなければ、長距離を歩くなど想像を絶することだったのではないでしょうか。これは、運動をしていない子どもにそっくり当てはまるのです。

なお、快適な環境、ということで言えば、幼児教育や保育の専門家の方が、「子どもの汗腺の発達は3歳頃までで、この時期までにエアコン中心の快適な生活しかさせていないと、その後暑さや寒さに対応できにくい体になる」という意見を言われているのを見ます。これを保護者が知らなければ、「暑いから(寒いから)赤ちゃんがかわいそう」と言ってエアコンの効いた家庭で育てる生活をするほうが、のちのち子どもにとってはかわいそうなことになるのではないでしょうか。

話を戻します。子どもが動かないということは、食べすぎ=生活習慣病につながる恐れ、を意味します。そこで、今年4月から、給食のカロリーが20-30キロカロリー減ることが決まっているそうです。これは、「日本経済新聞」記事(2012年11月20日)で読みました。

また、猪瀬都知事の「子どもに訓練を」などという発言に対し、徴兵制と結びつけず、「今の子どもは生活習慣などだらしないから、精神を鍛えるために必要ではないか」という賛成意見は保護者からも出るようです。

ただ、ここまで述べたように、今の子どもたちで厳しい訓練に耐えられるのは、恐らくごく一部の者だけです。それに、精神を鍛えるというなら、幼い時からテレビ・ゲームなどの時間は厳格にルールを決め、規則正しく生活させ、便利な生活をなるべくさせず、勉強以外に小学校時代から年齢に応じて学校付近の掃除やボランティアなどの社会貢献、また、家の手伝いなどもさせて、甘やかさずに社会の一員として、早くから自覚を持つように育てるほうが有効ではないでしょうか。

こうしていろいろ気になる点を挙げてきましたが、今回の総選挙を通じ、思い知らされたことがあります。それは、「少子化の現在、子どもを育てている保護者、また、子どもに関する仕事をしている人は、基本的に社会の少数派である。それを意識して声を挙げ、他の方に理解をしていただけるように発信・行動することが必要」だということです。

総選挙前、保護者世代と同世代でも、お子さんのいない方からの「若い人の徴兵制は賛成」という意見も目にしました。また、社会の助けがなくて子育てをしてきた祖父母世代から見れば、「社会からお金をもらうなんて甘えている、親の責任で育てるべきである」という声もあるのでしょう。

ですが、少子化で若者が少なく、しかも、使い物になるのが少数であれば、徴兵も40代前半くらいまでは現実に可能性があると私は考えています。私は団塊ジュニア世代、同学年が200万人もいます。現在の新成人の倍近い数字です。この数字を国家が黙って見過ごすとは到底考えられません。

また、祖父母世代はある程度の規模の企業に勤めれば、勤務先が住居から賃金まですべて保証してくれましたが、現代にはそのようなシステムはありません。大会社でもリストラが当たり前です。そういう意味で、厳しい環境下で、現在の子育て世代の皆さんは頑張っていらっしゃるのです。私自身、現在、一度結婚して、その後独身に戻りました。子どもはおりませんが、同じような境遇でお子さんを育てている方は、どれほど大変だろうと改めて実感する毎日です。母子家庭の子どもの貧困率は50%近いとも聞いたことがあります。

子育て世代の皆さんの中で、この記事をご覧になり、周りの保護者の皆さんに徴兵制などの危機感が感じられなかったら、この連載を見て、とおっしゃっていただきたいです。
  子どもを守るのは、他の誰でもない、子どもを取り巻く大人です。子どもを守りたいという親御さんに寄り添い、私も自分なりの発信をしていきたいと思っています。

※注) この原稿は2013/1/12時点の内容を含んでおり、最新の情報とは異なる場合があります。


【今回のまとめ】
  1. 2009年の政権交代で、民主党政権で高校授業料が無償化された(私立校は保護者の所得により最大24万円の補助)。これにより経済的理由による高校中退者も減少した。しかし、2012年12月の第46回総選挙で与党に復帰した自民党は2014年度から保護者の所得により補助を出す予定でいる(年収700万円と現在考えられる)。基本的に税金などと同じ仕組みで、前年度の所得に対しての補助が出るはずで、突然保護者がリストラされたりした場合、生徒を救う仕組みが手薄である。今後高校進学を控えたお子さんのいる家庭では制度の行方に注意して欲しい
  2. 自民党は基本的に「家庭を第一」とする理念で政策を立てている。確かに家庭は社会生活の最小単位ではあるが、ひとり親家庭の増加、また、保護者の経済的状況が不安定な中では、社会のサポートが必要不可欠。世界的に見ても、ユニセフやOECDから「日本の子どもの貧困率が約14%」と指摘されている。先進国ではアメリカに次ぎ2位、また、OECD平均の12%を上回る数字である
  3. 自民党の改憲案で憲法18条の「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない」という条文が削除されており、これを徴兵制復活への下敷きと見る動きがある。夏に実施される参院選まではあまりこのようなことは声高に言わず、安定多数を得てから一気に実現させるのが自民党の狙いではないか
  4. 現代の子どもは少子化で大事に育てられ、また、基本的に動かなくても生活できる。生活習慣病予防のため、今年4月から学校給食のカロリーが初めて減らされる。徴兵制を復活させても戦力になる子どもは限定されるのではないか
  5. 高校授業料無償化などは、今回の総選挙でほとんど争点にさえならなかった。少子化の現在、子どもを育てている保護者、また、子どもに関する仕事をしている人は、基本的に「少数派として声を挙げ、他の方に理解をしていただける努力をする」気持ちで発信・行動することが必要ではないか

2013.1.19 掲載

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