第76回 3.11 東日本大震災後の世界で生き抜くために
皆さんこんにちは。今回も連載をご覧下さりありがとうございます。
街では、就職活動のスーツ姿の学生や、入社試験の案内をあちこちで見ます。今の就職活動は、採用が厳選化していると同時に、「留年した学生」や、「優秀な外国人」などライバルが多く、大変困難だと思います。また、新卒一括採用に偏る、就職活動の現状は改めるべきだとも感じます。
一方で、教育現場にいる者として、次のようなことも痛感しています。それは、「大学入学までの中で、厳しい競争にさらされた者はごく一部の難関校受験者しかいない。大多数の者は、推薦入試などで楽に大学にまで入ってきてしまい、試練や困難を乗り越えたことがない。また、大学生の総数も多く、その中でも教養や学力での格差が激しい。優秀な者や、困難を乗り越えた経験がある者ならともかく、そうではない者たちが突然、保護者の学生時代とはあまりにも隔たりのある、厳しい就職活動を勝ち抜け、と言われても、無理なのはある意味当然」ということです。
文部科学省の後先考えない政策により、少子化なのに大学生の数は大変多いのが、今の日本の実態です。1985年ごろの若者が1学年175万人くらいで、この頃の大学進学率は25%、つまり1学年で18万人が大学生になったのに比べ、現在は1学年125万人くらいで、大学進学率が約50%、60万人が大学生になっています。このように門は大変広いのですから、率直に言って、優秀な大学生もいる反面、「大学で学ぶ学力レベルに達していない」大学生が多くいると感じます(この問題は今後の連載でも関係するので、その際改めて触れます)。
就職活動中の学生とご家族の皆さんは、まず、大学生が大変多いということを認識し、その中を勝ち抜くためには、小手先のテクニックなどが通用することはなく、また、大企業だけ受けても採用は厳しいので、視野を広く持ち、専門家の堅実なアドバイスを受けながら、真剣に勉強して、決してあきらめないで欲しいです。
そして、就職活動にまださしかかっていない皆さんには、「困難や試練のない中で成長するのは、子どもの人生にとってマイナスにしかならない」ということを認識していただき、学問やスポーツ、どんなことでも良いので、試練になるような体験をし、親子で共に乗り越えていく経験をしていただけたら、と願います。
これは、団塊ジュニア世代の一人として、同学年200万人の中で、いつの時も厳しい競争にさらされ、何度も転んで再び立ち上がってきた私からの、切なるメッセージです。
先日も、中高一貫校にお子さんを通わせている知人に、私はこう話しました。
「お子さんは高校受験をしないのですから、大学も推薦などで入ってしまったら、就職活動で、今まで経験したことのない、とてつもなく高いハードルを越えなければならなくなります。そこで耐えられなくなることも出てくるでしょう。だから、大学は一般入試で入るほうが良いと思います。」
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今回のテーマは、東日本大震災後の世界で生き抜くために、です。大震災直後に発したメッセージは、第71回連載「2011年の学年末・新年度にあたってのメッセージ」をご参照願います。
日本の古典文学を大学・大学院で専攻してきた者として、強く感じるのは、「日本列島は昔から災害に何度も襲われ、そのたびに復興してきた」ことです。 分かりやすいのは、鴨長明の『方丈記』に出てくる元暦の大地震などの災害です。このことは昨年も授業で説明したのですが、まるで現代の様子と変わらないので、何も前置きの説明をしないで話すと、東日本大震災のことと思う生徒もいるようです。
その一部をここに示します。現代語訳は私が書きました。意訳してありますので、そのまま授業で訳を使うと、先生に注意されるはずです。
【本文】
「また、同じころかとよ。おびたたしく大地震ふること侍りき。そのさま、世の常ならず。山は崩れて、河を埋(うづ)み、海は傾きて、陸地をひたせり。土裂けて、水湧き出で、厳割れて、谷にまろび入る。なぎさ漕ぐ船は波にただよひ、道行く馬は足の立ちどをまどはす。都のほとりには、在所在所、堂舎塔廟、一つとして全からず。或いは崩れ、或いは倒れぬ。塵灰立ちのぼりて、盛りなる煙のごとし。地の動き、家の破るる音、雷にことならず。家の内にをれば、たちまちにひしげなんとす。走り出づれば、地割れ裂く。羽なければ、空をも飛ぶべからず。竜ならばや、雲にも乗らん。恐れの中に恐るべかりけるは、ただ地震なりけりとこそ覚え侍りしか。」
【現代語訳】
また、同じ頃(筆者注・元暦2〈1185〉年)の頃でしょうか。激しい大地震で、ひどく揺れることがあったのです。その様子は、尋常なものではありませんでした。山は崩れ、土砂が河を埋め、海は傾いて海水が陸地を襲い、水浸しにしました。大地は裂け、水が湧き出し、そびえ立つ岩石が割れ、谷に転がり落ちたのです。海に浮かぶ船は大波に揺られ、道を歩む馬は、足元が定まりません。都のあたりでは、あちこちで、寺院のお堂など、元の姿のままの物は、一つもなくなってしまいました。ある物は崩れ、またある物は倒れてしまいました。塵や灰があちこちから立ちのぼり、まるで勢いが激しい煙のようです。大地の動きや、家の壊れる音は、まるで雷と同じように聞こえます。家の中にいれば、あっという間に家ごとつぶされてしまいそうになります。走り出せば、地面が割れて裂けますので、とても走ることはできません。人間は、鳥のように羽がないので、空を飛ぶこともできません。竜なら雲にも乗れるでしょうが、人間にはそれもできません。恐れるべきことの中で、もっとも恐れるべきなのは、地震なのだと理解したのです。
今の災害の様子と、なんら変わるところはありません。「海は傾いて海水が陸地を襲い、水浸しにした」というのは、津波であっただろうと考えられます。私は、生徒たちにこのような話をします。
「こんな時代に、緊急地震速報はあったのかしら?大津波が来ます、って気象庁や誰かが教えてくれたのかしら?もちろん、そのようなものはありません。でも、そのような中でも、日本人は困難をくぐり抜けて生きてきました。その後も何度も地震や台風、戦争などの災難に襲われながら、生き残った日本人で、今のような国を作り上げたのです。今は科学が発達しているから、科学を正しい方向に使い、知恵を集め、世の中をより良くすれば、災害にも負けない生き方ができるはずです」
そして、東日本大震災から1年経った今、マスメディアの情報だけ見ていては、残念ながら真実はわからない、というのが、この1年の私の率直な気持ちです。特に、福島第一原発に関する報道に関し、強くそう感じました。これは、マスメディアは原子力に関わる利権と密接に結びついており、真実を報道しようとすると圧力がかかる場合があるからです。
そのような中で、3/11に放送されたテレビ朝日系のスペシャル番組の最後に、古館伊知郎キャスターが「原子力村の根本を議論したい、そうしないと生活の場を根こそぎ奪われた福島の方々に申し訳が立たない。今後、日々の『報道ステーション』でそれを追求したい、圧力がかかって切られても本望だ」という趣旨の話をされたことが、今、話題になっています。新聞などの報道も、検証記事の形で、真実を書く動きも出てきています。
今後は、真実を伝えようという動きがマスメディアでも活発になるかも知れません。動きを注目していきたいです。
なお、新聞の中では、「東京新聞」が東日本大震災直後から、真実を追求しようと懸命な報道を続けています。生徒にも新聞記事を利用した課題を出すと、「東京新聞」を使う者が出てきており、震災前とは明らかに違うと感じています。
また、私は「ニコニコ動画」といったサイトもよく見ます。最近は独自ニュースも配信しており、既存のメディアにない存在として注目しています。まず無料登録してみて、どのような番組があるかご覧になることをおすすめします。プレミアム会員(会費・毎月525円)になると、ほとんどの番組を安定した状態で見ることができます。
それから、ぜひ多くの方に活用していただきたいのが、ラジオです。東日本大震災時も、携帯電話を使ってワンセグを見ようとすると、すぐバッテリーが減ってしまうので困った方が多かったのではないでしょうか。私はたまたま、父がラジオを買ってくれたことがきっかけで、10代の頃からラジオを聞くのが好きになり、今もテレビを見る時間に比べ、ラジオをよく聞きます。子ども時代も、部屋にテレビがある友人は多かったのですが、勉強のためには不要だと思い、私は部屋にテレビを置かず、ラジオだけでした。東日本大震災直後も、映像はない代わりに、必要な情報を多く届けてくれるので、大変助かりました。
非常時という視点を離れても、ラジオは地域密着で、リスナーに語りかけてくれるメディアであり、身近な話題が多いです。また、プレゼントも豊富で、今まで、私も多く商品をもらってきました。朝は「時計代わりにテレビを出している」というご家庭も多いと思いますが、実は見ているようで重要な話題を見ていないかもしれません。ラジオでも、もちろんニュースは聞けますし、こまめに「今、●時○分です」と言って下さるので、助かります。震度5強以上の時には、緊急地震速報も流れます。
なお、パソコン、スマートフォンでも、radiko(ラジコ)などの無料アプリがあり、聞くことができます。非常時に突然聞こうとすると、どこを聞いたら良いのか困ると思いますので、普段の生活で、テレビを消して、ラジオを聞く時間を増やすことをおすすめします。10代からご高齢の方まで、各世代をターゲットにした番組が存在しますので、きっとお好きなものが何か見つかると思います。
このような情報をさまざまに探して複合し、自分なりに判断していくことが今後の社会を生き抜くために求められます。Twitterなども、私は自分で発信していますが、中には自分では発信せず、情報収集のために使っている方もいるようで、そのような方法も有効でしょう。
なお、無料の情報やインターネットで流れる情報には、限界や事実誤認の場合もありますから、無料の情報を探した後、本で勉強するなどの段階を踏んで、ものごとを考えるようにしていっていただけたら、と願います。情報は「どこから出ているのか」、「類似の話が他にも発信されているか」など、さまざまな角度から確認をしてほしいです。
放射能に関しては、影響が出るとすれば、これから先のことなので、まだ油断していない方も多いでしょう。避難されている方、また、食品の買い方など、人によって判断が分かれますが、その人なりの考えに基づいているので、他人が批判するべきではない、というのが私の考えです。そもそも、国や東京電力が「国民が混乱する」ことを恐れ、東日本大震災発生直後から、福島第一原発に関し、正しい情報を出さなかったことから、このような判断の相違が起こるのではないでしょうか。
また、以前から私は、ジャーナリストや医師、科学者の情報だけを見るのではなく、あらゆる角度から「世の中を良くする」ことに関して発信されている方を探してきました。自身でも、おかしいことはおかしい、とこの場を通じて指摘してきたつもりです。
世の中を良くするために発信されている方で、私が個人的に長年注目しているのが、西洋占星術(星占い)の方です。○○の霊が取りついているから、取り除きなさい、などと言うのではなく、西洋占星術の占い師の方は、主な惑星の動き(これは国立天文台などが公表している、科学的に信頼できるものです)と、それらの惑星に意味を当てはめて、過去の同様の星の配置の時に起こったことから、読者へのメッセージを発しています。災害が起こりそうな時には、きちんとメッセージを出されていますし、その中でも、おかしいことはおかしい、と言われる皆さんは、これからの時代を見据え、「利権に絡め取られてはならない」、「自分自身の目と耳で判断できる力を」といったことも言われています。
もちろん、このメッセージに縛られたり、災害が起こるだろうとやみくもに恐れるのではなく、あくまでも「生きていく上でのヒント、参考」として私は受け止めています。もっと日常のレベルで言えば「今日は落し物などに注意」と書かれていれば、「だから外出しない」のではなく、「不注意になりやすい日だから、気をつけよう」と、私は捉えています。
そして、最近大きな問題になっているのは、がれきに関してです。受け入れしている自治体がある一方、受け入れに難色を示すところもあります。がれきに関しての基礎知識として、知っておいていただきたいのは、次のことです。
【厚生労働省が東日本大震災後の2011年8月末、「焼却灰の放射性濃度8,000ベクレル/kg以上、100,000ベクレル/kg以下の焼却灰等」までなら被災地以外でも受け入れ可、としたが、これは、国際的には「低レベル放射性廃棄物」となるものである。低レベル放射性廃棄物であれば、本来は厳重な管理が求められる。なお、「放射性セシウム濃度が1kg当たり100ベクレル以下」であれば、IAEA(国際原子力機関)が放射性物質として扱う必要がない区分の「クリアランスレベル」であり、特に問題はない。】
そもそもがれき処理は、被災地の首長の中には、「何年かかっても、地元で行ないたい。雇用も生み出せるし、保管する土地もある」という方もおいでです。にも関わらず遠隔地へ運ぶのは、そこにも利権が絡んでいるから、という話もあります。
がれき処理に限りませんが、被災地が本当に復興できるためには、雇用の創出などが欠かせません。特に女性の雇用がないのが深刻で、ひとり親家庭の母親を支援する団体も生まれています。住まいや仕事を失った方も多い被災地の皆さんが、安定して今後生活できるようにするのが本当の復興支援ではないのでしょうか。
最後に、昨年の東日本大震災によって、日本は本格的地震活動期に入ったという専門家の声が多くあります。この声を真剣に受け止め、家庭でも備えをし、また、特に新入学のお子さんには、学校で地震に遭った場合、特に、津波や地すべりなどの危険がありそうな地域では、どの方角に逃げるべきかといったことの確認をお願いします。
また、大人も同様ですが、通勤・通学などに時間がかかる場合、途中で被災した場合も考え、キャンディーやカロリーメイトのようなものを、常にかばんに入れておくこともおすすめします。
この連載は、来月で7周年を迎えます。皆様のご支援に感謝すると同時に、これからも、ささやかでも、悩める皆さんの希望のともしびとなれるような発信を続けてまいります。どうぞ今後もよろしくお願い致します。
【今回のまとめ】
- 日本は災害に何度も襲われながら、立ち上がってきた。古典文学には、科学の力のなかった時代、人々が恐れ、震えていた様子が書かれている。現代は、多くの知恵を集め、生き抜いていくことができる
- マスメディアの報道だけ見ていては、残念ながら、真実はわからない。マスメディア、ラジオ、本やネットでの情報、外国での取り上げ方など、さまざまな情報を見て、真実を知り、自分がどう行動するべきか考えて行かねばならない。なお、ラジオは小電力で聞くことができ、普段から聞く習慣を持つと、いざという時にも情報入手に役立つ
- 判断する時に、ジャーナリストや医師、科学者の情報だけを見るのではなく、あらゆる角度から「世の中を良くする」ことに関して発信している方を探したい
- 放射能についての危険性は、まだ安心できない。避難されている方、また、食品の買い方など、人によって判断が分かれるが、その人なりの考えに基づいているので、他人があれこれ言うべきではない
- 被災地の方の雇用、プラスになることを考えたい
- 日本は本格的地震活動期に入ったという専門家が多い、新入学のお子さんには通学路や地図で確認をしてほしい、また、キャンディーなどは非常食代わりにもなる
2012.3.28 掲載
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