第70回 「読書感想文・小論文の基本的書き方」について
皆さんこんにちは。今回も連載をご覧下さりありがとうございます。
2月に行なわれた京都大学などの入試問題が、試験時間中にYAHOO!知恵袋に投稿された事件は、受験した19歳の男子浪人生が、偽計業務妨害容疑で逮捕されました。
このYAHOO!知恵袋は、誰かがさまざまなことに関して質問をすると、第三者から回答の書き込みがあるものです。法に触れるものは即刻削除されるとのことですが、今回はそのようなことを暗示する書き込みがなく、投稿と回答が受け付けられてしまいました。
この知恵袋で、「○○の作品の感想文をどう書いたらよいのかわからない」、「□□の現代語訳を教えて欲しい」などという書き込みが多くあり、以前から気になっていました。感想文に関しての話は後ほど述べますが、今回の容疑者は、昨年夏から、予備校のテキストも多く投稿していたとのことです。自分で頭を悩ませなくても誰かが教えてくれる、という形が身に染み付いてしまった、最悪の結果だと感じています。
ただ、今回、ひとつだけ救いだと思ったのは、彼が浪人生で、高校生ではなかったことです。高校生なら在学中の高校から、退学などの処分も受けかねません。そうすると、高校卒業の資格取得からやり直さねばならなくなってしまいます。彼には過ちを悔い改め、勉学に励み、そして、来年、改めて自分の実力で受けられる大学にチャレンジしてほしいと願います。
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今回は「読書感想文・小論文の基本的書き方」について、考えます。
今年、ロゼッタストーン主催の「独立のすすめ」感想文コンクールが1月にあり、私も、2人のうちの1人として、1次審査を担当させていただきました。大変興味深い内容のものばかりで、普段の生徒の文章を読むのとは違う充実感がありました。
読書感想文の書き方について考えますが、これは、小論文の基本的な書き方にもあてはまることです。
まず、大前提として、感想文に限らず、文章を書く作業は、「自分の考えを他人に伝えること」だとしっかり意識して下さい。そして、文章には、その人の考えや日常が表れます。これは、大人になっても同じです。
感想文は、普段も、主に次の基準で私は見ています。
- 本の内容が簡潔に書けているか
- 内容と関連する、自分の経験や気持ちがきちんと書けているか
- 今後の自分についてどのように考えているか
- 文章の構成が正しく、文の破綻や、話し言葉などがなく、わかりやすく書けているか
- 誤字脱字がないか
- 改段の際に1マスあけるなど、原稿用紙の使い方を守っているか
特に重要なのは、あらすじをむやみに長く書くのではなく、「内容で深く感動したところ」が、自分のどのような経験と結びついているのか、書けていることです。
感想文に限らず、盛り込む話は多くてはいけません。話が短くて結局、「最も言いたいことが何か」が明確に読み手に伝わらないからです。600字程度なら、「内容1つ」に対して、「自分の経験1つ」でちょうど良いでしょう。自分の経験を書くのは、最初はとまどいや恥ずかしさもあるかもしれませんが、きちんと書くことができれば、文章は説得力を持つものになります。
面倒くさいなどと思うかもしれませんが、YAHOO!知恵袋などやインターネットの例文に頼らず、自分の経験を素直に書くことが重要です。何かを写してきた文章は、不自然で、その生徒らしくないので、たいていの教員は見抜いているのではないでしょうか。私は「自分で努力していないから、カンニングと同じ」と生徒には言っています。
それから、中学・高校生には特に意識して欲しいのですが、世の中への不満や改善を訴える際、「誰かに何かしてほしい」と書くのではなく、「自分ならこう行動したい、こう言いたい」と、自分がどうしたいのか、という視点で考えましょう。
中学・高校生はまだ子どもですが、いずれ成長し、社会人の一員となります。その時に突然、「大人としての自覚を持って行動して」と言われても、恐らく難しいでしょう。
その時に困らないためにも、「子どものうちから、大人になるための準備」をしてほしいのです。
そして、その主張が説得力を持つためには、日ごろからニュースなどを見て、世の中のことに関心を持ち、そして、深く考える習慣が大事です。頭の中でだけ考えても、実行できそうもない話に賛同してくれる人は恐らくいませんから。
はじめは、自分の関心のある分野だけで構いません。好きなスポーツが入り口でも良いのです。今はさまざまな競技で、日本出身のプロスポーツ選手が世界を舞台に活躍しています。語学、経済、使っている道具…スポーツ1つ取っても、さまざまな角度から考えることはできます。
そして、わからないことは、本やインターネットで調べる、また、周囲の大人に聞くなどして、疑問を放置しないで下さい。面倒くさいかもしれませんが、調べて身についたことは、必ず自分の知識となり、いずれ自分を助けてくれる存在になります。
内容以前のこととして、文章を読んでいると、たとえば、このような残念な文を見つけることがあります。
「この作品には、多くの子どもの夢が詰まっている話です。」
これは、
「この作品は、多くの子どもの夢が詰まっている話です。」
なら正しいのですが、元の文のままでは減点されます。
このように、正しく文が対応していないもの、「てにをは」がおかしい文を書いてもいけません。この頃はメールの影響なのか、きちんとした文章を書かないのが日常生活なので、「文章を書きなさい」、と言うと、どこかがおかしい文を書く生徒が目に付き、気になっています。
また、1文が長すぎるため、わかりにくくなっている文章があるのも残念です。1つの文は40字程度(原稿用紙2行)を目安にまとめましょう。
もちろん、文章全体の構成は、「起承転結」や「序破急」がきちんとできていることは、基本中の基本でもあります。
文の書き方の間違いは、他にも、たとえば、次のようなものも目に付きます。
- 男子生徒が、主語を「僕」と「私」を混ぜて使っている
- 「こうゆう理由で」、「そうゆう時には」などの誤字などを書いている
- 「聞いてた」、「持ってた」などの話し言葉を使っている
- 文末を「〜だ(である)」=常体、「です(ます)」=敬体のどちらかに統一せず、両方を混ぜた文章にしている
- 「間」、「関」などを略字にしている
- 原稿用紙の使い方のルールを守っていない
これらの、文章の書き方を守ることは、基本中の基本です。こういったものは、慣れて克服するしかありませんから、文章を書くことから逃げずに、間違えたら、「次は間違えない」という気持ちで取り組みましょう。
ちなみに、小論文の入試でも、こういう点があればひとつずつ減点されていきます。
そして、最後には必ず見直しです。「書けた!」と授業中に原稿用紙を持ってくる生徒には、必ず私は「見直ししなさい」と言って、席に戻らせます。
本人は間違いない、と思っても、落ち着いて読み直すと、誤字や脱字、また、わかりにくい文章があります。パソコンの場合は、必ず1度プリントアウトして、読む習慣をつけましょう。今回の「独立のすすめ」感想文コンクールでも、誤字などがある応募作品があり、残念でした。これも、もちろん、ひとつひとつ減点されていきます。
あれこれ書きましたが、文を書くことは一生ついてまわります。ですから、最初は大変でも、逃げずにこつこつ努力してほしいです。
深くものごとを考えて生き、文章を書くことは、その人の人生を豊かにし、大きく成長させてくれます。そのことだけは決して忘れないで下さい。
【今回のまとめ】
- 文章を書く作業は、「自分の考えを他人に伝えること」だと意識する。文章には、その人の考えや日常が表れる
- 読書感想文はあらすじを長く書くのではなく、「内容で深く感動したところ」が、自分のどのような経験と結びついているのか、書けていることが重要
- インターネットなどに掲載されている文に頼らず、自分の経験を素直に書く
- 「誰かに何かお願いする」という立場ではなく、「自分からこう行動したい」という立場で書く
- 自分から行動したい、という主張が説得力を持つには、普段からニュースなどに関心を持ち、同時に、深く考えていなければならない
- 誤字脱字や略字を書かない、原稿用紙の使い方のルールを守るなど、文章の基本の書き方を守る
- 完成したら見直しをする。PCで入力したものは必ず1度プリントアウトして読む
- 深くものごとを考えて生き、文章を書くことは、自らの人生を豊かにし、大きく成長させてくれる
2011.3.14 掲載
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