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第56回 「部活動」について

皆さんこんにちは。今回も連載をご覧下さりありがとうございます。
  「朝日新聞」2月15日付教育面の記事で、私のコメントを載せていただいた関係で、新たにご覧下さっている方も多いと思います。関連する話題は、第54回「経済危機下での教育費対策」で書いていますので、ぜひご覧下さいますようお願いします。

少子化・核家族化の進む現在、周りに相談する人がおらず、教育問題で悩む全ての方に、少しでもお役に立てることを目指して発信を続けてきました。これからも、この姿勢は変えるつもりはありません。末長くご支持をいただければ、大変嬉しいです。今後とも、どうぞよろしくお願い致します。

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今回は「部活動」について考えます。第39回「スポーツを習わせる時の注意」についても、併せてご参照下さい。

最近、私立校に子どもを行かせたい保護者の言葉で、
  「公立校だと部活動が不安定だから」
という意見を多く耳にします。「昨年度まであった部活動が、新年度は閉鎖されてしまう」というケースが当たり前になってきているからです。

  原因は、
 ・少子化で、1校で1チームを作る人数が集まらない
 ・顧問教員の転任で、新しい顧問が不在となる
などが主なものです。特に首都圏では、私立中学に子どもが多く進学すると、地域の公立中学に在籍する生徒が減ることも主な原因といえます。

閉鎖を避けようとすると、1校で単独チームが結成できず(=大会に出場できません)、隣接する学校同士で「連合チーム」を結成する、などの策を取ることになります。ただ、これも放課後に相手の学校に移動して練習するなど、悩みは尽きません。

先月、文部科学省の全国体力テストの結果が発表されましたが、「中学2年生の女子は運動時間が少ない」という話題が出ていたことをご記憶の方も多いと思います。このことも、私は「部活動の不安定さ」が関わっているのではないかと考えています。

特に、女子の場合は、男子に比べ、「○○ちゃんと同じ部活はイヤ、でも、他に入りたい部活がないから帰宅部(どこにも所属しない)でいい」など、部活動の不安定さに加え、人間関係の複雑さが拍車をかけているのではないでしょうか。少子化で部活動の数そのものが少なければ、選択肢が少なくなってしまうのです。これでは心身ともに成長期の大事な時期に、運動不足になることもやむを得ないと言えるのではないでしょうか。国は改善策を考えるべきです。

次に、私立校の部活動について考えます。
  この経済危機下で、私立中学受験者が過去最高とも言われています。私は、入学後の生活で、部活動の費用を見落としている、また、気づいていない保護者が多いことを心配しています。

私立校、特に部活動推薦で生徒を集めている学校では、部活動は「学校を有名にする」ために存在しているとも言えます。練習がハードなのはもちろん、顧問以外のコーチの複数在籍、また、夏休みなどには、国内・海外での合宿や遠征試合などもあります。

道具を買い揃えるだけでも多額の出費になる上に、コーチへの謝礼も部費に含まれて高額化します。遠征費なども、学校から補助が出る場合もあるでしょうが、当然保護者が大半を負担します。
  しかも、これは授業ではないのですから、授業の一環の修学旅行などの費用は当然別に必要になります。
そして、生徒は忙しいのでアルバイトをする時間もありません。保護者の金銭的負担は、恐らく入学前の想像をはるかに越えているのではないでしょうか。

また、見逃してはならないのは、どんな場合であれ強豪校なら、「部員が大人数で、上はレギュラーから下は4軍、5軍」というケースも珍しくないことです。
  つまり、3年間スポットライトを浴び続ける生徒がいる一方で、まったく日の目を見ずに引退する生徒も数多く存在します。

実力の世界ですのでやむを得ませんが、たいていの保護者は我が子にスポットライトの当たることは想像できても、ずっと5軍、という想像はしにくいはずです。でも、現実にそのような生徒もいるのです。

もちろん、ひとつのことを継続した結果、人生に自信が持てたり、仲間とのかけがえのない信頼関係が生まれたりします。それらのもたらす効果は絶大です。選手になれなくても、指導者やトレーナーになりたい、など、進路に結びつくこともあります。

ただ、現在の経済状況では、金銭的負担が想像以上となれば、お子さんに部活動をさせられず、高校生ならば、アルバイトをしてほしい場合もあるでしょう。
  そこで、お子さんの希望する部活動が既にある程度決まっているなら、新入生対象の説明会などで、毎月の部費などを質問なさっても良いと思います。
  また、今のうちに入学予定の学校に、「入学式までに、各部の毎月のおおよその部費」の一覧表を作ってもらう、など要望を出す手段もあります。
  なお、気をつけていただきたいのは、部費以外に最初は道具やユニフォーム代がかかることです。入学後は制服があれば、夏服の購入などもすぐにしなくてはなりませんから、入学後2ヶ月程度で金銭的負担が厳しくなることも考えられます。

そして、総合的に見て、その家庭で負担できる限度を越えそうな金額なら、たとえば、部活動ではなく、地域のサークルなどで活動する手段もあります。

お子さんと話し合い、経済的に厳しそうでも、お子さんが「部活動に取り組みたい」と言う場合もあるはずです。その場合、「経済的に厳しい中で許すのだから、真剣に取り組む」ことを親子間で決めてほしいです。ただ、「それは、退部してはいけない」ことではないことも伝えて下さい。「真剣にやる約束をしたから、やめたいと言えない」と、お子さんが悩むことも出てきますので。

最後に、このように「公立だと部活動が不安定、私立校だと充実しているが高額」といった日本の現状では、どんどん「勉強だけではなく、運動や趣味でも生徒間の格差が広がる」ことにつながり、私は、このまま放置すべきではないと考えます。

そして、「勉強も運動も手厚く見る」ことが教員に求められることが当たり前になれば、平日は授業、週末は練習か試合と、私生活を犠牲にするのはもちろんですし、授業準備にも影響が出ることもあります。教員志願者が減ることも考えられます。

そこで、たとえば、特に義務教育の間は、部活動を学校ごとの負担にするのではなく、市町村単位で振興を図り、優秀な成績をあげた生徒は種目ごとに文部科学省が中心に指導していくなど、根本から見直していかねばならないと考えています。

最後に、この連載で繰り返し指摘している通り、公立校は教育委員会が監督していますが、私立校にはそのような機関がありません。「マスコミなどにばれれば処罰、ばれなければ処分なし」ということがまかり通っているとも言えます。同じ学校の中でも対応が分かれることも珍しくないのです。このようなことに、矛盾を感じて私は勤務しています。

部活動の強豪校は、ほとんど私立校です。顧問の体罰、セクハラ…相談する機関がなく、傷ついている親子が多くいるはずです。同じ部活の保護者同士で相談できれば良いのですが、難しい場合もあると思います。

もしもお困りのことがありましたら、メールを下さい。秘密をお守りして、相談に乗らせていただきます。場合によっては信頼できるマスコミの方に相談申し上げます。

新入学後、部活を金銭的に続けられない、とか、対人関係のトラブルで退学に追い込まれる、といった事態になるケースが一つでも減ることを願っています。


【今回のまとめ】
  1. 公立校では少子化・私立中学受験者の増加などで部活動が不安定になっており、保護者や子どもにも不安を抱かせている。選択肢も減り、運動不足になることもやむを得ない状況がある。国は抜本的改革を考えるべき。
  2. 私立校で部活動の強豪校では、部活動に対し高額の費用がかかるので、入学前に、どの程度の金額が必要か確認する。
  3. レギュラーになれなくても、ひとつのことを継続した結果、人生に自信が持てたり、仲間とのかけがえのない信頼関係が生まれる。この効果は他では得がたい。
  4. 私立校では部活動のトラブルで仲裁する機関がない。保護者はそのことを忘れないでいただきたい。

2009.2.20 掲載

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