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第19回 子どもを取り巻く“二極化”問題について


皆さんこんにちは。2006年最初の連載更新です。本年も、どうぞよろしくお願い致します。読者の皆さん、関係者の皆さんにとって実り多い年となりますようお祈りしています。

少子化の時代、しかも「保護者ご自身が、きょうだいが少ない」中で育った世代になっている今の日本です。ご自分には姉妹しかいないのに、男の子を育てるシングルマザーなど、ご自分の子ども時代を思い出しても理解できないことに、子育ての中で直面する毎日を送っておられる方も多いと思います。また、保護者ご自身の子ども時代とあまりにも社会状況が変化しているので、ご自分が育てられてきた家庭の方針がそのまま当てはめられないことも多いでしょう。ですので、苦しんだり悩んだりしていらっしゃる方も多くお見かけします。

まだまだ私自身も勉強しなければならないことばかりですが、それでも、大学時代の塾でのアルバイトに始まり、もう15年ほど、子どもたちと接する仕事を続けてきております。お子さんの保護者は、ご自分のお子さんをしっかりと見つめる毎日だと思いますが、私のようなプロの端くれは、「多くの子どもたちを見つめ、その中で日々接し方や指導方法を考えている」毎日です。

そこで得たものを、「公開することで、読者の皆さんにとってお力になれば」と思い、私は日々発信をしております。思春期を迎えると、お金はかかり、言動も難しくなる頃ですが、ぜひおひとりで悩まれないで、プロの発信するものをご参考にしていただければ、と思っております。

そして、あつかましいお願いで恐縮なのですが、どうぞご寛容に読んで下さいますように。このweb連載を読んで下さっている皆さんの中に、この連載の内容など、気に入っていただけている点がある方がいらっしゃいましたら、ぜひ周りの方々にも「口コミ」で宣伝していただけたら、とてもありがたいのです。

口コミで情報、というのはアナログ的手法なのですが、実はこういった形で聞いた情報は「信頼できる」と思えるケースが、まだまだ多いようなのです。ですので、この連載や、つきのみどりとして発信することの全てを通して、教育問題のひとつの新しい指針を示していけるように一層頑張りますので、あつかましい話なのですが、お力添えをどうかよろしくお願い致します。

資料

さて、今回は、「子どもを取り巻く“二極化”問題について」考えます。 今年1/3付「朝日新聞」の1面トップの記事に、私は目を奪われ、お正月早々がく然とさせられました。「就学援助 4年で4割増」という見出しです。

就学援助、というのは、子どもが義務教育段階で生活保護を受けている家庭や、それに近い経済状況の家庭に、学校に行かせるための必要資金を支給する、というものです。生活保護家庭以外は、自治体ごとに基準が設けられているようです。この援助を受ける家庭が、この4年で40%も増加し、特に、東京・大阪では25%近くにも達している、というのが記事の主な内容です。

「こんな経済状況の家庭の生徒が多い地区の教員は、さぞ大変だろう」と、すぐに感じました。家庭の経済状況が悪ければ、学用品や食事にも困る子どもがいるはずです。記事にも、やはり、鉛筆やノートを持ってこない子どもを受け持つ教員の話が載っていました。また、朝食を食べてこない子どもがいるので、自腹で朝食を食べさせる教員がいるという話は、以前から私も聞いていました。

そして、同時に、「東京都内でも地域の経済格差が激しくなっている」と気づきました。私が勤務しているのは私立校ですから、在籍している生徒の自宅住所を見れば、おおむね、その地域の経済状態は想像できます。また、経済格差は、「学校間格差」にも直結しているとも言えます(「学校間格差」については、第5回連載で既に取り上げました)。

もちろん、学校の所在地近くの生徒は多いですが、遠方からの通学生も決して少なくありません。最近の首都圏の私立校では、湘南新宿ラインやつくばエクスプレスの開通、また、私鉄の相互乗り入れの拡大など、交通機関の発達で、以前では来なかった地域からの通学も大きく増えているのです。

さらに、記事を読み進めていくうち、もっとショックを受けたのは、「ある小学校の卒業文集で、将来の夢を作文させようとしたら、3分の1の生徒が何も書けなかった」、「ある中学校では、お昼頃登校し、給食を食べたらまたいなくなる生徒がいる」という内容でした。

夢多い子ども時代のはずなのに、何も夢を描くことができない。こんな小学生が中学生になると、義務教育を終えた、その先の進路が描けない。だから、給食だけ食べに来て、あとはまたどこかでぶらぶらしているのでしょうか。なんともやりきれない話です。

こういう子どもが中学を卒業して、いったいその先はどうなるのでしょうか。現在でも、中学卒業後すぐに働く子どもも存在しますが、そのほとんどは「立派な大工になる」など、目的を持っているのではないでしょうか。

ですが、この子たちは違います。夢も希望もない生活では、フリーターになるか、働きにも行かないでニートになってしまうのではないでしょうか。ここから抜け出せるようになるのは、大変困難なことではないかと思います。

こういった若者の中には、「必死に働いて国民年金を払うくらいなら、生活保護を受けるほうが楽だ」という話が蔓延している、とも聞きます。二十歳そこそこで「生活保護」です!

もしもこのような若者の数が増え続ければ、確実に日本経済を圧迫します。お考えになってみて下さい。少子化なのに、働かない若者が増えていくのです。どんな異常事態かおわかりいただけますでしょうか。また、彼らは生活保護を受けるだけでなく、自暴自棄になって、富裕層から金品を奪う犯罪に手を染める者が現れるかもしれません。

資料

こういう現実にも胸が痛むのですが、私は、この連載でも繰り返し書いている通り、「良い教育を受けたからと言って、幸せになれるとは限らない」と常に考えています。私の生徒の中にも、「楽してお金をもうけたい」、「必死に努力するのはばからしい」などと考えている生徒が存在します。こういう子は、「最低限だけ努力して、ゆるく生きていきたい」と思っているようです。彼らの多くは、生活の心配のない家庭に育っています。

ですが、今の日本社会の進む方向性から見れば、「そういう子どもがそのまま大人になれば、安定した生活は望めないかもしれない」のではないでしょうか。現在の日本社会では、正規雇用を受けられる人はひと握り、あとは非正規雇用となっています(もちろん、これが好ましいこととは思っておりません)。

そのような社会の中で、ゆるく生きてきた子どもは、就職活動をしても、インターンシップなどを積んできた、意識の高い子どもに勝てるはずなどありません。たとえ、名門と言われる大学を出ても、フリーターや派遣社員しか道が残されていないのです。

不動産をありあまるほど保有している家庭の子ども、とでも言うのなら話は別でしょうが、それにしても少子化の進む今後、投資用マンションを所有していても、住んでくれる人がいなくなり、家賃収入にも不足するようなことになるかもしれません。

今の日本をくくる言葉は「二極化」ではないか、と感じます。生徒の家庭の経済状態はもちろんですが、生徒たちにも、非常に意識を高く持ち、こちらの指導にも素直にこたえる、まじめな子がいる一方で、上に挙げたような子がいるのです。また、「将来が見えない」から、あるいは、「まじめに世の中を見ていない」からフリーター予備軍になる子がいるようにも感じています。

いずれにせよ、夢の描けない、また、フリーター予備軍などの子どもを生み出すことは、日本にとって決してプラスに働くことはありません。こういった状況を改善したい、私は心からそう考えています。

まずは、子どもを取り巻く大人全てが、「必死に努力した者が、幸せな未来に進める、どこかでまじめに努力しなければ幸せな未来をつかむことはできない。また、親の時代に“幸せだ”とされたレールはもはや通用しない」ということを認識すべきではないでしょうか。大学に行っていてもフリーターになる子どもが多くいるのです。無論、社会のシステムにも問題があるとは思いますが、このままでは日本は、「大卒のフリーター」を大量に生み出す、世界にも例を見ない無能国家と言われても仕方ありません。

教え子の進路選びの相談に乗りながら、「この子はこのまま大学に行っても、フリーターになりはしまいか」と危惧することがあります。もちろん、さまざまな形で意識を変えるよう指導はしていますが、家庭や社会全体の意識改革が必要ではないのでしょうか。

子どもの努力を見る場面は、日常に数多く存在します。部活動、アルバイト、ボランティア、そしてもちろん学校の授業。それらにまじめに取り組む中で、何かしらその子どもなりの適性が見えてくるものです。

私は、これからの世の中、適性のないことは仕事にできないと感じています。公務員や公立校の教員でさえ、新人時代に適性がないと判断されると、退職させられる時代なのです。もちろん、社会に出てから適性に気づく場合もあるでしょうが、早くからいろいろなことにチャレンジして、その過程で自分を見極めることこそが重要ではないでしょうか。

そして、「努力をすれば、すべての者に成功のチャンスが開かれるはずだ」ということも、認識しなければなりません。現在、IT関係で成功しているベンチャー企業の経営者を「(六本木)ヒルズ族」、と呼び、給料はいくら、愛車は何、など、とかく華やかな面ばかり取り上げてもてはやしていますが、彼らは恐らく休日もないほど、あるいは、早朝から深夜まで働いているはずです。

ヒルズ族に限りません。東京では、パティシェ(女性の場合、パティシエール)と呼ばれる有名ケーキ職人が名を馳せていますが、彼らの中には30代で店を構え、名を成す方もいます。この方たちも、おそらく、同世代の若者が大学に行っている間に、数十キロもの小麦粉を抱え、朝から晩まで重労働をした結果が今につながっているはずなのです。

若いにも関わらず、そのような身を粉にした努力があるからこそ、今の地位を得ているのではないでしょうか。この点に気づいていないと、うわべばかり見ていて、「楽しそう」、「有名でいいな」などというとんでもないカン違いをすることになりかねません。

そして、給食代にも事欠くような家庭の子どもにも、「努力すれば成功のチャンスがある」と教え、家庭の事情で進学費に困るようであれば、社会全体が受け皿になり、借りやすい奨学金を作る、などのことも必要ではないでしょうか。

ある私立大学では、「札束作戦」で、就職率のアップに効果が出ている、と聞いたことがあります。「フリーターの場合」、「正社員の場合」それぞれの生涯賃金を札束の模型で展示しているのだそうです。そのあまりにも莫大な差に、学生は驚き、必死に就職活動を始める、というのです。

このようなことを、それこそ、小学生段階から、年齢に応じて理解できるような指導をしていくことこそが、今後の日本にとって必要なことなのかもしれません。

ご家庭では、お子さんとぜひ機会を設けて「将来何をしたいのか」聞いてみて下さい。その際、よくお話をお聞きになって、例えば、「気象予報士になりたい」、「Jリーガーになりたい」などとお子さんが言うのなら、「どうしたらなれるのか、調べてみよう」と、ご一緒に調べてみられるのも良いでしょう。そのような中で、何が必要なのか気づき、また、なれそうなのか、はたまた厳しそうなのか見えてくるのではないでしょうか。間違っても「そんなのなれないよ」などとおっしゃらないように。子どもの意欲が全て吹き飛んでしまいますので。

思春期で、直接お話しするのが難しければ、親子間でもメールを活用したり、また、学校の教員にご遠慮なくお尋ねになってみて下さい。お子さんの志望のヒントが見えることもあります。

意欲のある者を育てたい。そして、彼らが、平等にチャンスをつかめる世の中に巣立って行ってほしい。未来ある生徒たちと接していて、今、私は強く感じています。

2006.1.26 掲載

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