ロゼッタストーン コミュニケーションをテーマにした総合出版社 サイトマップ ロゼッタストーンとは
ロゼッタストーンWEB連載
出版物の案内
会社案内

第12回 「国公立校と私立校の違い」について Part1


皆さんこんにちは。先日発表された、文部科学省(http://www.mext.go.jp/)の統計で、「小学生の校内暴力が過去最高」との話がありました。9/23付の各紙朝刊で大きく報道されたので、お気づきになった方も多いかと思います。私は、この記事を見て「キレやすい子ども」が増えていることの表れなのか、と不安がよぎりました。本人を取り巻く環境だけではなく、食生活や生活リズムなどの乱れからもキレやすくなる傾向がある、とも言われます。一人でも多くの大人が子どもの成長に手を貸して、心身ともに健康な状態を作り出していかなければ、と改めて感じました。

さて、今回は「国公立校と私立校の違い」について取り上げます。このテーマは書きたいことが多くあるので、複数に分けたいと思います。少子化にも関わらず、「ゆとり教育」への不安もあって、首都圏ではこの数年私立校ブームが続いています。特に激しくなっているのが中学受験で、ひとり平均3、4校を受けるのですが、あまりに厳しい競争の結果、「どこにも受からない」子どもも増えています。更に、女子の場合、高校での募集を実施しない「完全中高一貫教育校」が増えている関係で、「高校で入れる私立校」も人気が上昇しています。

写真

また、先日私が見つけたあるブログでは、「地方に住んでいたのだが、一度も見に行かないまま、自分(母)の憧れていた学校を、イチかバチかで娘に(※東京の私立中学)受験をさせた。まさかの合格をもらい、一家で東京に移り住んだけれど、イメージと違うことばかり。教育内容にも不満がある」という趣旨のことが書かれていました。

このブログをはじめて見た時、「なぜ子どもの学校を、そんなギャンブルみたいに選ぶのか」と、私は、開いた口がふさがりませんでした。思春期の大事な人格形成に関わる学校を、一度も見ないで、そして、今の実態も知らないで受けるなんて、子どもがあまりにもかわいそうです。学校に通うのは母親ではないのですから、子どもが行きたいかどうか、子どもの目線で考えさせることは大変重要なのです。今は、大学受験さえも「オープンキャンパス」(大学公開日)に行って、志望校を決めるように教員は指導しています。これでは万が一、子どもが「この学校に自分は合わない」と思う事態になったら、「お母さんのせいだ」と子どもが訴えても、弁解の余地のないケースです。

東京生まれ、第2次ベビーブーム世代の私でさえ、子どもの頃と現在とでは学校勢力図が激変しているのに驚くのですから、それ以上の世代、まして、地方出身の方からすれば昔のイメージなどほとんど当てになりません。

このケースは極端だとは思いますが、「公立校の教育内容は不安だ」ということで、私立校に行かせる家庭が増えています。少し前までは、私立校に子どもを行かせるのは、少なくとも両親のどちらかが私立校出身だった、など、事情に明るい人が多かったはずです。でも、最近のブームの中で、両親とも公立校出身だったり、地方出身の方がお子さんを通わせるケースも増えています。その場合、細かい教育事情がわからず、入ってみてショックを受けることも多くあるようです。

たとえば、もっとも大きな違いとしては、「私立校には公立校の教育委員会にあたる機関がない」ということがあります。公立校ですと、学校の対応に不満がある場合、教育委員会に相談するというのが最終手段です。でも、私立校にはそのような機関がありません。

例をあげます。「どうもわが子が、部活動の顧問教員に体罰を受けているらしい」という事態になったとします。公立校と私立校での相談の手法の違いを下に示します。

  公立校 私立校
相談する機関 担任、学年主任(共通)
教頭、校長(共通)
 
管轄の教育委員会
 

お分かりいただけますでしょうか。学校内で起きた事件に対し、校内での対応に不満があれば、公立校でしたら教育委員会に相談することができます。でも、私立校はそのような上部組織がないので、基本的に全て内部で処理します。ですので、マスコミ沙汰の事件になるまで、普通は話が発覚しません。この夏から秋にかけて、各地の高校の野球部で、暴力事件、裸でのランニングなどの問題行動があとあとになって発覚していますが、これらの事件は、ほぼ全て私立校で起きたものでした。

声を大にして訴えたいのですが、公立校と同様、もしかしたらそれ以上に、私立校には問題教員や体罰事件などが転がっています。私の現在までの教員生活の中でも、女子生徒に手を出したのに、クビにならずに仕事を続けている男性教員、答案を紛失したことのある教員、指導力に欠ける教員など、何人も問題教員を見てきました。でも、私立校では、外部に報告する義務もなく、警察沙汰にでもならなければマスコミにもかぎつけられないので、ただ「発覚していない」だけなのです。私立校には各校に、問題教員や問題体質が存在している、とみなしても言い過ぎではないのではないか、と私は考えています。

  少し前までは、私立校に子どもを行かせる家庭は、私立校の教育をよく知る方が大半でした。訴える上層機関がない、ということは、内部で全て解決しなければならないのですから、保護者、生徒、そして教員が深い信頼関係で結ばれていなければ適切な指導はできません。

でも、最近のように「私立校に縁のなかった方が子どもを通わせる」ことになると、そのような実態がよくわからなくて、学校に入ってから不満が山のように出ても、校外に適切な相談に乗ってくれる機関がないので、話がこじれることがあります。また(この話は回を改めますが)、生徒が問題行動を起こしているのに、「うちの子はそんなことしません!!」と言って、まったく保護者が聞く耳を持たなかった場合、話はいつまでたっても平行線のまま、最悪の場合は「学校に合わないので退学を」と宣告されることになります。 義務教育段階ですと、転入する学校を選ぶ余地はありません。勉強して、高いお金を払って、「行くのを避けた」はずの、地元の公立校に、「行かなければならなく」なるのです。

少子化で学校のイメージアップに多くの神経が注がれている現在、東京では私立中学の中退者が増えています。「友だちをいじめて退学」、「万引き1度で退学」、など、従来より退学の基準が厳しくなっている感もあります。このような場合、学期の途中でも即座に退学させられるので、公立中学では、たとえば6月や10月など学期の途中に、突然転入生を迎えることも珍しくなくなってきているのではないでしょうか。そういう子が私立校から公立校に転入しても、すぐになじめるかどうかは大いに疑問があります。あまりの増え方に、公立中学の校長会が今年2005年の春、「安易な退学処分はやめて、せめて中学卒業まで指導して」と訴え、私立中学がわが「安易に処分はしていない」と反論する、といった事態にまで発展しています。

教育委員会がない、ということは、教員も生徒も、「何か学校に不満があっても、基本的には自分たちで解決しなくてはならない」という意味なのです。ですので、私立校の教員をしていると、さまざまな意味で、もがいている親子をたくさん目にします。そのような方たちへの相談窓口になれれば、という思いもあり、私はメールマガジンやこの連載を書いているつもりです(私立校の現役教員が書いているweb連載やブログを、私は他にほとんど見たことがありません)。

公立校の教育に不満があるから、と、私立校を選ぶことを問題視するつもりはありません。でも、「何かあったらわが子を必ず自分たち親が守り通す」という意気込みと、事前の充分なリサーチがない限り、安易に「地元の学校が荒れているから」と、受験をするのはかえって危険なのです。「しつけや勉強、学校に全ておまかせ」という保護者も最近は目立ちますが、これは安易な「丸投げ」に過ぎないのです。

私立校ブームの中で、このようなことは見落とされてしまいがちですが、大変重要なことなのです。お子さんの私立校への受験を考えている方は、よく肝に銘じておいていただきたいものです。

2005.9.25 掲載

著者プロフィールバックナンバー
上に戻る▲
Copyright(c) ROSETTASTONE.All Rights Reserved.