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第10回 「進路指導」について


皆さんこんにちは。本州の学校では夏休みがそろそろ終わる頃ですね。夏休みが明けると、精神的にも肉体的にも、ひと回りもふた回りもたくましくなった子どもたちに会うのが私は楽しみなのですが、中には、前回書いたように、びっくりするような変化をしている子どももいます。期間が長いぶん、夏休みの影響というのは良くも悪くも大きいのだと、改めて感じさせられる瞬間です。

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さて、今回は「進路指導」について取り上げます。この問題、普通科と職業科(商業科・工業科など)の学校の間には、大きな差があるはずです。職業科高校では、現実に即したさまざまな取り組みがされていると思いますが、私は職業科高校に勤務した経験がありませんので、ぜひこの点についてはご経験者の体験をうかがえたら、と思っているところです。ご意見がありましたら、下のコメント欄にぜひ書き込みをお願いします。

少し前に、村上龍『13歳のハローワーク』(幻冬舎)という本が話題になりました。「有名企業に入ったり、公務員になったからと言って、一生安泰だ、という時代はとっくに終わっている。だから、好きなことを仕事にしたほうがいい。それを見つけるのは早いうちに」という村上氏の考えのもと、現代の多くの職業がかわいいイラストとともに書かれています。公務員や教員でも、適性に欠けていればリストラに合う今の日本ですから、この考えは現在の日本の実態に即したものだと思います。

ですが、現実には、普通科高校などの教育現場では、この流れと逆行する進路指導をいまだに行なっているケースを数多く見ます。むしろ、少子化の中で、公・私立とも、「○○大学・□人合格」などの数字が先行し、毎週英単語テストや漢字テストを行ない、夏休みには夏期講習などでみっちり勉強させる「学校の予備校化」が進んでいる状況が加速している感があります。東京都でも、都立の「進学重点校」と呼ばれる高校では、土曜日の補習や、多くの課題を生徒に課しています。

公立・私立問わず、学校説明会で「本校では、○○大学に大量合格するような勉強を実践しています」、と強調する学校の進路指導は、「受かってくれさえすればいい」ということでもあります。だから、「その生徒に本当にその大学が向いているか」ということは無視されている可能性があります。また、「受かりそうな学部を受けなさい」ということでもあるので、「その学部に進んで、生徒には適性があるか」ということも無視されているかもしれません。更に、自分が「■■学部に行きたい」と言っても、受かりそうな学部に進路変更を要求されるかもしれないのです。このような状況が極端になれば、適性が乏しいまま、あるいは、イメージがつかめないまま進学するので、在学中から「この学部に自分はミスマッチだ」と思うと、結局やる気を出せず、フリーターになってしまうかもしれませんし、そこまで至らなくても、「自分の卒業した母校の高校は、生徒を“進学実績のための道具”としか思っていないから、愛着がわかない」ということにもなります。

事実、進学実績の素晴らしさをうたう、複数の私立高校の卒業生には、「あんな学校には愛着なんてない」という意見を口にする人がいます。自分の思春期の思い出を、そのような言葉でくくるしかないなんて、なんとかわいそうだと感じます。学校が勉強を細かく見てくれる、というメリットの裏には、このような「青春の犠牲」があるのかもしれません。「文化祭に高校3年生は参加してはならない」、「高校生の修学旅行はない」などと決めている学校もあります。学校としては、生徒に「そんな時間があったら勉強を」と言いたいので、だから、それ以外のことは無駄だ、という考えになるのでしょう。

別にそれでもいい、という人もいるかもしれませんが、人生において二度とない青春時代、そして、学校生活を楽しみたい、と思っている親子にとっては、こんな学校に通うのは非常に衝撃が大きいのではないでしょうか。学校を選ぶ際は、こういった点を、学校説明会の時、更に、卒業生や在校生などに確認しておく必要があります。

また、労働の大変さを、身を持ってわからせ、そして、将来、職業選択に具体的なイメージを持たせられるように、「職業体験」をする中学校が出ています。ただ、これも、「勉強の時間を削るなんてとんでもない」という考えから、行っていない学校も多くあります。

このような職業体験は、もちろん、何もしないよりは良いとは思いますが、1日だけでは「お客様」で終わってしまいます。せめて3日、できれば1週間くらい行かないと、その職業の良し悪しは見えにくいのではないでしょうか。

また、学校でそのような時間を設けていないのであれば、職場に協力してもらって、子どもに親の働く姿を見せる姿も大事なことではないでしょうか。官庁ではこのごろ夏休みにそのような機会を設けていますが、子どもは、親の働く姿を見て、社会への接点や、大人としてあるべき姿を学び取っていけるのではないかと思います。更に、自分の子どもだけ、というのではなく、上層部に訴えて、部署全体で、とか、職場全体で、などの流れを作っていくようにするのも良いことと思います。

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そして、今は子どもにキャリア教育をするNPO法人も現れています。親子でそういったNPOの活動に参加するなど、力を借りても良いでしょう。

学校が進学実績を競い合う今の日本では、「本人に適性があるかどうか」という進路指導は難しいかもしれません。心ある教員がそう考えても、「○○大学・□人合格」という数字を宣伝するのが優先される状態では、その考えはつぶされてしまうことも多いでしょう。

でも、冒頭でも書きましたが、有名企業に入ったり、公務員になったからと言って、一生安泰だ、という時代はとっくに終わりました。それならば、適性のある、やりがいのある進路に子どもを行かせるほうが、子どもにとって幸せなことにつながるのではないでしょうか。だからこそ、NPOや家庭、心ある教員などの力を借りて、「本人に適性がある」進路選びができるようアドバイスしていくべきだ、私はそう考えています。もちろん、私もそのために、この連載やメールなどで、できる限りのアドバイスはしたいと思います。そして、それが、ひいてはニートやフリーターを減らし、日本の未来を良い方向に導くことにつながるのではないでしょうか。

2005.8.25 掲載

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