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第85回   緑はよみがえる

1917年、冬。第一次世界大戦下の北イタリア・アルプス山中、アジア—ゴ高原。雪の中、イタリア、オーストリア両軍ともに塹壕を掘り戦況は膠着していた。オーストリア軍は姿こそ見えないが、すぐ近くに潜んでいるのが分かる。イタリアの兵士たちは、いつ落ちてくるかも知れない砲弾に怯え、戦意を失い、家路につくことだけを願っていた。そんな時、厳しい戦況を知らない平地の司令部が出した理不尽な命令を携え、少佐と若い中尉が前線へとやってくるが……。


イタリアが生んだ世界の巨匠
エルマンノ・オルミ監督の最新作。

オルミ監督は、
2006年に発表した『ポー川のひかり』をもって
長編映画からの引退を表明していたものの、
2011年には『楽園からの旅人』、そして本作が誕生しました。

この物語は、実際に第1次世界大戦に従軍した
監督の父への思いを込めた作品。

反戦という言葉だけでは到底語り切れない、
深い想いが込められているのを感じずには、いられません。

映像は美しく、シンプル。
静寂に満ちています。

だからこそ、
戦地の塹壕で身を潜める
兵士たちの心情が手に取るように伝わり、
自らがその場にいるかのような気持ちにさえもなりました。

人の命とは何か?
生きるとは、どういうことか?

監督作品に共通するテーマが
これまで以上に響いてくる感じがします。

戦地が舞台であり、苦手な方もいるでしょうから、
手放しにオススメすることはできません。

ただ、ぼくは見てよかった、と心底思っています。

戦争で、人は死に、自然は破壊されども、自然は蘇る。
しかし、人が語り継いでいくことによって
その記憶も生きていく。

この作品の意味は、日がたつにつれ、
じわじわ出てくる気がします。

そんな作品に出会えたことに感謝したいですね。

ちなみに監督は、
1976年にミラノから、このアジアーゴ高原に住居を移し、
今もなおこの地で暮らしているとのこと。

まもなく85歳を迎えるオルミ監督の
次なる新作がやってくることも心より願っています!


『緑はよみがえる』
2016年4月23日より公開中
■公式サイト: http://www.moviola.jp/midori/

2015.5.12 掲載

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