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第71回   楽園からの旅人

イタリアのある街。半世紀の間、市民が集ってきた教会堂が取り壊されようとしている。キリスト像も無残に下された。長い年月、老司祭(マイケル・ロンズデール)は神の愛を唱えてきたが、人々の望みは別のものに代わろうとしていた。
その夜、ひとりの男が司祭館の扉を叩く。男は技師で、不法入国の家族を連れている。そして教会堂には、アフリカからやってきた旅人たちが次々とやってくるが…。


『木靴の樹』、『ポー川のひかり』など数々の名作で知られる
イタリアの巨匠、エルマンノ・オルミ監督の最新作です。

前作『ポー川のひかり』を
自身の映画人生における最後の劇映画、
と語ったオルミ監督が、前言を翻してまで発表する最新作。
それだけでも十分見る価値があるのではないでしょうか。

今のこの時代に、どうしても伝えておきたい、
残さねばならない、と監督の心を奮い立たせたものとは?
そこから、この物語が始まると思います。


本作で一際印象的なのは、その絶妙な状況設定。

明日にも取り壊される教会堂にひとり残る老司祭と、
救いを求めてやってきたアフリカからの旅人たち。

老いて消される運命にあった司祭と教会堂が
皮肉なことに、不法入国者たちの存在によって
新たな使命を帯び、輝きを取り戻す。

堂内に、にわかに誕生したダンボールの村。

この「ダンボールの村」こそが本作の原題であり、
重要なカギです。

人々の交流から生まれるドラマの数々。

しかし、ダンボールが指し示すように、
あくまで一時的なものです。

それは次の夢への仮宿なのか、
それとも、吹けば飛ぶような脆さ、絶望の象徴なのか。
いや、今の時代こそがダンボールそのものなのか。

まだ希望の芽はあるのか。
もしあるとするなら、それは一体何か。

劇的な動きのない、シンプルな流れの中、
見る者の脳裏に、様々なものが去来することでしょう!

この物語の結末を決めるのは、あなたです。


『楽園の旅人』
2013年8月17日より公開中
■公式サイト: http://www.alcine-terran.com/rakuen/

2013.9.27 掲載

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