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第68回   ホーリー・モーターズ

ある日の早朝。大富豪の銀行家オスカー(ドニ・ラヴァン)が子どもたちに見送られ、スレンダーなブロンド女性セリーヌ(エディット・スコブ)が運転する白いリムジンに乗り込む。その日の予定を確認し、電話をかける。程なくして、彼は突如、白髪交じりの長髪カツラを取り出し、梳かし始める。リムジンは、パリで最も豪華なアレクサンドルⅢ世橋に到着。車から降りてきたのは、杖をつき、みすぼらしく腰の曲がった物乞い。それは変装したオスカーだった…


ん?
一体どういうこと!?


…本作を見て、最初に感じたことです。


上映が始まって、しばらくの間、
一体何が起きているのか、わかりませんでした。

それどころか、疑問が増すばかり。

冒頭のシーンは、何かの暗示だろうか?
一瞬挿入された動画には、どんな意図があるのか?
オスカーとは何者?

理解しがたい常軌を逸した行動が続く中、
だんだん見えてきます。


オスカーの姿は、
まさしく

「人生の象徴」

だと。


人は、誰しも自分を演じている。
人生を生きるということは、演じること。

家庭、職場、友人や恋人との間…
全てに異なる自分がいる。

そして、長く生きていくうちに、
そんな自分に疲れてくる。

自分は一体、誰なのか?
何なのか?

そのとき、人はどうするのだろう。

「芝居」を演じ続けるのか。
それとも、新たな自分を築いていくのか。

非現実的な形でありながらも、
次々提示される“人生の1場面”に、
いろいろ考えさせられます。

最後の最後まで。


劇中に出てくる印象的な言葉、
オスカーが父親として娘に語る、

「おまえの罰は、おまえがおまえとして生きることだ」

が、大きなカギとなることでしょう。


また、本作をご覧になる前、
いや、むしろ、ご覧になった後に、

前回コラムの
カラックス監督会見」の模様を参照していただけると
より楽しみのポイントが増すことと思います。

後から、じわじわ効いてくるタイプの作品です。
ぜひお楽しみください!


『ホーリー・モーターズ』
2013年4月6日より公開中
■公式サイト: http://www.holymotors.jp/

2013.4.8 掲載

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