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バックナンバー Vol.65

アース
いのちの食べ方
俺たちフィギュアスケーター

【とっておきの1本】『ジプシー・キャラバン』

(今月の監修:中沢志乃)
巻頭コラム : 「アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生」

毎日仕事に追われて疲れているみなさんへ、栄養剤となるべく映画を御紹介いたしましょう。

今回取り上げる映画は「アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生」です。なぜ、この映画がリポビタンDのような役目をするのかって?それは、「ワーハッハッハッ」という、元気な女性の笑い声に溢れた映画だからです。ギャグ映画ではありませんよ。タイトルでもある、世界的に有名な女性写真家、アニー・リーボヴィッツを撮影したドキュメンタリー映画です。

ドキュメンタリー映画のイメージって、暗いとか難しいとか退屈とか。そんなネガティブな想いを持っている方が多いのかなぁと思うのですが、いかがでしょう。この映画は、今挙げた要素の真逆をいっています!時の人であるヒラリー・クリントンや、デミ・ムーア、オノ・ヨーコといった大勢の豪華セレブ達がインタビュー出演していて、それを観ているだけでもすっごく楽しいし、何より、主人公のアニーのパワフルなこと!3人の子供を抱えながら、大好きな仕事に没頭するパワーみなぎる姿を見ていると、原稿の締め切りを抱えて睡眠不足だった私も、「全てうまくいくに決まってるじゃない!」なんて強気な気持ちが芽生えちゃったほど。

でも、そんな姿とは対照的に、彼女の胸の中に隠された大事な人を失った時の気持ちなど、繊細な部分もしっかりと描かれているところが、この映画の一番の魅力かも。彼女のルーツである生まれ育った家族のこと、写真に興味を持つキッカケとなったエピソードなど、細かいところまで掘り下げることができたのは、監督がアニーの実の妹だからなのかもしれませんね。優しく思いやりに溢れた彼女の女性らしい内面を丁寧に描いている部分は、同姓だからこその視点なのかなとも感じられました。

すっかり彼女の虜になってしまった私ですが、こんな素敵な映画を日本で観られるのも、字幕を手がけてくださる方がいるからこそ!今回、字幕を担当されたのは、なんと、この「シネマの達人」で御一緒させていただいている中沢志乃さんなのです!知っている方の名前がスクリーンに映し出される喜びって、どれだけのものか想像できます?自分のことのように嬉しくって、ますますこの映画が大好きになった私です。

女性の力が集大成されて出来上がった、まさに現代女性のパワーが詰まったこの1本。是非、劇場で御覧になってください。オススメですよ。

2月16日(土)より、渋谷シネマGAGA!他全国順次ロードショー。
http://annie.gyao.jp/
(文:野川雅子)


最新映画星取表 =1点、=0.5点。最高得点=5点

『アース』   
監督・脚本:アラステア・フォザーギル、マーク・リンフィールド
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
http://earth.gyao.jp/
今からおよそ50億年前、巨大な隕石が地球に衝突し、その衝撃により地球は23.5度も傾いてしまう。この傾斜は四季の移ろいや多様な地形を地球にもたらし、生命の誕生に重大な役割を果たすこととなった。北極を基点に地球縦断の壮大な旅に出た撮影隊は、ホッキョクグマ、象、ザトウクジラの親子に導かれ、さまざまな命の営みに出会う今からおよそ50億年前、巨大な隕石が地球に衝突し、その衝撃により地球は23.5度も傾いてしまう。この傾斜は四季の移ろいや多様な地形を地球にもたらし、生命の誕生に重大な役割を果たすこととなった。北極を基点に地球縦断の壮大な旅に出た撮影隊は、ホッキョクグマ、象、ザトウクジラの親子に導かれ、さまざまな命の営みに出会う。

ナツ               ★★★
 どちらかといえば教条的なイメージもあり正直あまり期待していなかったけれど意外に眠くならなかった。ファミリー映画のカテゴリに入るのかお子様連れが結構入場していたが、迫力ある映像に呑まれたか、演出のうまさか子供たちも騒がず。生死をかけた戦いが繰り広げられる自然界の描写はことさら目新しいものではないが、撮影の大変さをつい考えてしまい相殺。でもあまりにも壮大なスケールすぎてCGくさいと思ってしまうのはわたしが捻くれているせいだろうか…。北極ぐまやアフリカゾウのエピソードもまあそれなりに感動するが、個人的には面白いと思ったシーンはゴクラクチョウの求愛ダンスで、円盤のように膨らんだオスがリズムマシンのような鳴き声でメスを誘うのだ。なんかサイバーパンクな香りがする…。そしてこれでもかと言うほどハデなオスに対してメスはほんとうに地味なのが笑えた。捕食者が獲物を噛み殺す瞬間はぼかしてあって、まあそれはいろんな意味でセオリーなのかもしれないけれど、そういうのも隠さないでちゃんと描写したほうがいいんじゃないのという気もする。地球温暖化への興味は喚起する、かな?
伊藤洋次            ★★
 言ってみれば、「環境教育のための映像集」。子どもたちに地球のすばらしさ、生き物の多様性を教えるには、もってこいの教材だ。ぜひ小学校の理科の授業で見せるべき。ただし、理科の教材としては良質でも、映画館で見る作品としては印象が薄すぎる。あまりに総括的な構成のため、「自然ってすごいね」で済まされ、映画館を出て喫茶店の一軒にでも寄れば内容を忘れてしまう。貴重な映像ばかりだっただけに、それを撮影したスタッフの努力を称えるメイキング映画の方が、よほどドラマチックな感動作になったのでは。



『いのちの食べ方』 
監督・脚本・撮影:ニコラウス・ゲイハルター
配給:エスパース・サロウ
http://www.espace-sarou.co.jp/inochi/
誰もが毎日のように食べている大量の食品は、どのような過程をへて消費者の手に届くのか? 現代人の命を支えながらも、ほとんど知られていない食料生産の現場に密着。ベルトコンベヤーに注ぎ込まれるヒヨコの群れ、自動車工場のように無駄なく解体される牛など、大規模な機械化により生産・管理された現場の実態が映し出される。

伊藤洋次            ★★★★
 日本とはケタ違いに広い畑、大型の農機、家畜を飼養する様子と食肉処理の流れ――。どれも農業・畜産の現場ではあたり前のこと。特に驚く場面は多くない。ただ、こうした各シーンの見せ方が大胆で気に入った。固定カメラで淡々と「風景」のみを見せ、説明や音楽は一切なし。まるでミヒャエル・ハネケ作品を見ているようだ。つい先日見た『アース』の吹き替え版で、饒舌(じょうぜつ)なナレーションにウンザリさせられていただけに、かえって新鮮な印象を抱いた。『アース』と一緒にまとめて2本見ると、違いが鮮明でおススメです。
悠木なつる           ★★★★
 ヒヨコが、まるで物のように手荒く扱われる冒頭のシーンに唖然! 日頃、スーパーに陳列された食物を、何も考えずに口にしているということに改めて気付かされた。幼い頃、よく両親から「残さずに食べなさい」と言われたが、本作を観れば、その意味がよく分かる。ナレーションは排除され、淡々と綴られるので、何の作業をしているのかが分からないシーンもあったが、効率重視の機械作業には、ただ驚くばかり。鑑賞前、友人と「観たら肉や魚が食べられなくなりそうだね」と話していたが、その日の夕食はハンバーグ&エビフライのセット(笑)。ベジタリアンになろうと改心するには至らなかったが、「食」に対する意識は変わる作品。
ナツ               ★★★
 予想通り、というか期待を裏切らない残酷さ。オートメーション化された巨大な食肉工場をメインにセリフもなく延々と家畜が屠殺されていくシーンが連続する。日本でもオスのひよこはゴミ箱に捨てられていくというのを昔、見たか読んだかした覚えがあるけれど…。ぴよぴよぶーぶー騒いでいる家畜たちを見るとやがて「いのち」は消えるんだなということが非常に不思議な気がしてくるのだ。この映画に「普段食べているものにもいのちがあって、その犠牲の上に自分の生活は成り立っている」という意識を啓蒙するという目的がもしあるなら、成功していると言えるだろう。…牛は屠られる瞬間ガタガタと震えだす。画面からは見えないが薬を打たれているのかもしれないが…。その恐怖、その死の瞬間彼は何を感じるのか。
 凡百のホラー映画よりよほど恐ろしい。しかし劇場は混んでいた…みな何を考えてこの映画を見に来るのだろう…。恐怖を味わい、家畜に生まれなかったことを幸運だと思うのだろうか…?見終わり、食事をする段になって一瞬、肉は食べたくなくなったかな?と思ったが、なんのことはないハンバーガーを平気で…。青春は遠くになりにけり、いやな大人になったものだ。


『俺たちフィギュアスケーター』   
監督:ウィル・スペック、ジョシュ・ゴードン
出演:ウィル・フェレル、ジョン・ヘダー他
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
http://oretachi.gyao.jp/
マッチョで派手な演出を売りにしているフィギュアスケーターのマイケルズ(ウィル・フェレル)と、繊細(せんさい)なナルシストのマッケルロイ(ジョン・へダー)は世界選手権で同点1位となり、表彰台で大乱闘を繰り広げてしまう。2人は男子シングル部門から永久追放の裁を受けるが、男子ペア部門での復活に望みをかけペアを組みスケートリンクに上がることに……。

野川雅子            ★★★★★
 男同士のフィギュアスケーターがペアを組んだら…という予想外の設定で楽しませてくれる1本。この作品の見所は下ネタ連発の笑い。誰も考えつかないような技は見ていてドキドキ!加えて、胸が熱くなる男同士の友情もこの映画のもう一つの魅力。繊細な美少年とセックスアピール全開のワイルド男。全くタイプが違う二人は最初は喧嘩ばかりですが、 練習を重ねる中でお互いの悩みや隠された本音を知り、絆を深めていくのです。ラストはオープニングからは予想も出来ない感動が、観た人を包み込んでくれるはず。女性視点でみると、ふざけているようで実は優しいワイルド男のマイケルズは、男性として最高でしたね。あっ、これは単に私の好みかしら?
はたのえりこ           ★★★★★
 先日の四大陸選手権も記憶に新しく、日本でも人気が高いフィギュアスケートを題材にした爆笑、苦笑、失笑コメディ!極端な演出の米国産コメディが我々外国人の笑いにぴたりとハマることはけっこう難しい。でも本作は違う。ホロリとさせる場面も少しあるけど、私に至っては、始めから終わりまですべてのシーンが"笑い"のみだった!キャスト全員の真剣な取り組み、その徹底ぶりに敬意を表したい。お下劣マイケルズを演じたウィル・フェレルと、「バス男」の好演でも注目を集めたなよなよマッケルロイ役のジョン・ヘダー。当分記憶から消えそうにない…。マッケルロイのクジャクをイメージした世にも奇妙で微妙な振付と、エアロスミスの"I Don't Want To Miss A Thing"による暑苦しいペア演技は抱腹絶倒なので必見!!


とっておきの1本 : 『ジプシー・キャラバン』

つい最近まで、誰が見てもわかりやすくて楽しめる、いわゆるハリウッド作品が一番好きでした。しかし、今、ドキュメント映画の魅力にハマる一方です。大きなキッカケとなったのが、この『ジプシー・キャラバン』の試写を見たことでした。"4つの国の5つのバンドが行う6週間にわたる北米ライブツアーを追う"という内容紹介文に、ミュージシャンの1人として興味を持ち、行ってみると…正直、言葉を失いました。一番のお目当てだった音楽の素晴らしさはもちろん、ジプシーと呼ばれる人たちが長い歴史の中でおかれた立場、その生き方に何とも言えぬ感情が湧き上ったのです。

"事実は小説よりも奇なり"といいますが、想像を絶するドラマがそこにはありました。喜びの裏側にある悲しみ、弱さの裏側にある強さ、見る者によって、見る時によって感じ方が大きく変わる、まさしく"生きた作品"。「よかったよね」「感動した」の一言では片付けられない魅力、これぞドキュメントなんですよね、きっと。

ついには、こんなスゴイ作品をどんな人が考え、指揮したのだろうか、という好奇心を抑えられず、監督のジャスミン・デラルさん来日の際には、会いに行ってしまいました(笑) 人間味あふれるスケールの大きな方で、すっかり魅了された次第です。

最後に当コラムのためにジャスミン監督からいただいたメッセージを紹介します。まだ劇場上映が続いているところもありますので、ぜひご覧になってください。

「私の伝えたいことは映画の中でジョニーデップが言っていたことと少し似ているかもしれません。この映画を見ることで、音楽(それはとてもハッピーであり、とても悲しくもある)を聴くことで、我々みんながロマ(ジプシー)についてより多くを知ることができ、そして、我々自身の持つ人間性の美しさを知ることを私は願っています。どうもありがとう!」

(文:団長)

2008.3.29 掲載

著者プロフィール
ナツ : 1973年生まれ。ということにしておこう。編集、ライティング、デザインまでなんでもやってます。マンガのプロット書きは楽しいとあらためて感じる日々。年中無休不眠不休(笑)妄想企画「デッドーリの超騎乗術」。座右の銘は「ウケりゃイイのだ」(爆)。好きなだけ本が買える身分を目指して奮闘中(ちいさっ)

伊藤洋次 : 1977年長野県生まれ。業界紙の会社員(営業)。メジャー映画はなるべく避け、単館系しかもアジア映画を中心に鑑賞。最近気になる監督は、廣末哲万・高橋 泉、園子温、深川栄洋、女池充など。

悠木なつる : 1973年生まれ。紆余曲折あり、現在は銀座の会計事務所勤務。最近は、ゲットした「歌舞伎町シネシティ メンバーズカード」を片手に映画を観まくる日々。『映画イヤーブック2007』(愛育社)では、本名の横○友○で映画紹介記事とコラムを執筆。

野川雅子 : 1985年山形県生まれ。19歳で映画に出会い、それ以来、映画に恋愛中。人の心を描いた邦画が特に大好き。日本中に映画の魅力を幅広く伝えられる映画紹介をするのが夢。

はたのえりこ : 1979年東京都生まれ。翻訳業界で働く会社員。最近、吹替の海外ドラマがお気に入りのため、声優さんの演技に興味津々です。

団長 : スーパーロックスター。メジャー契約なし、金なし、コネなしながら、来秋、日本武道館でライブを行う。ラジオDJ、本のソムリエ、講演、コラムニストなどとしても活躍中。大の甘党で"スイーツプリンス"の異名をとる。バンドHP http://www.ichirizuka.com

<監修>
中沢志乃:1972年5月8日、スイス生まれ。5年間、字幕制作に携わった後、2002年4月、映像翻訳者として独立。夢は世界一の映像翻訳者。11月10日、ダニー・グローバー主演『アメリカの森』(字幕翻訳)発売。2008年2月、ジョン・レノンの最後の1枚を撮った写真家のドキュメンタリー「アニー・リーボヴィッツ」(字幕翻訳)公開。
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