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バックナンバー Vol.62

めがね
さらば、ベルリン
スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ

【私の名画座二本立て】 『天晴れ一番手柄 青春銭形平次』 『ヤング・フランケンシュタイン』

(今月の監修:古東・伊藤)


最新映画星取表 =1点、=0.5点。最高得点=5点

『めがね』   
監督:荻上直子
出演:小林聡美、市川実日子、もたいまさこ、光石研
配給:日活
http://megane-movie.com/
『かもめ食堂』がヒットした荻上直子監督の最新作。人生の休みを取ろうと南国の海辺のペンションにやってきた主人公が、宿の主人や「タエコ」という不思議な女性らとともに、ゆったりとたそがれの時間を過ごす。

団長               ★★★★☆
 今まで人生で見た映画で一番ゆるく、リラックスできる作品でした。油断するとクラシックを聴いてる時のように、ウトウトしそうな感じです(笑)海がキレイ、人がユニーク、食事は美味しそうで!食べるシーンがやたらに多いのも面白いですよね?。食べるということを通じて人生を語る、そんな風にすら思えました。非日常的なようで、とても日常的で、ストーリーがありそうで、なさそうで…人によって見所がかなり違ってくると思います。友人と話したり、見た人のブログを読んだりして感じたことを知ると、さらに楽しめそうですよ!
伊藤洋次            ★★★★☆
 舞台は「南国の海辺」ではあるものの、季節は夏ではない。冬でもない。「春」という設定がいい。そして、その雰囲気が最後まで続いているところが、またとってもいいのだ。映画の中で、あずきをゆでるもたいまさこが「大事なのは、あせらないこと」と話す場面があるが、あずきと同じように、この映画もじっくりとやわらかくなっていく。シンプルで飾らない会話と、落ち着いた音楽が、やわらかさを一層引き立てている。『かもめ食堂』からさらに成長した荻上監督に拍手。
悠木なつる           ★★★★
 旅行をすると、ガイドブックを片手に様々な観光名所を訪れたくなるけれど、時間の流れに身を任せて過ごすのも贅沢なひとときだと思う。海辺で、かき氷を食べるシーンを観て、自分自身も、ゆったりとした映画の世界に溶けこんでいくような気がした。『かもめ食堂』のユーモラスな世界観は、本作にも受け継がれている。特に、前作からの続投となる小林聡美と、もたいまさこの掛け合いは絶妙!また、台詞を最小限に留め、映像で見せることに徹しているので、様々な思いを巡らせる楽しみがある。感動するほど美味しい、かき氷の味とは?謎のメルシー体操の発端とは?etc.
 人と触れ合う喜びが爽やかに綴られ、ほんのりと心が温まる作品。



『さらば、ベルリン』   
監督:スティーブン・ソダーバーグ
出演:ジョージ・クルーニー、ケイト・ブランシェット、トビー・マグワイア
配給:ワーナーブラザーズ映画
http://www.saraba-berlin.jp/
『オーシャンズ13』に続いてスティーブン・ソダーバーグ監督とジョージ・クルーニーがコンビを組んだ作品。1940年代の名作の雰囲気を織り込みつつ、終戦後の混乱を生きる男女のラブロマンスをミステリータッチで描く。

中沢志乃            ★★★★
 その登場シーンとスクリーンから去るシーンで、なぜレーナ役にケイト・ブランシェットが選ばれたかが分かった。この映画での彼女の表情はそれほど印象的。思えば彼女が可愛いのかは長年謎だったが、その表情は様々な映画で印象に残っている。やっぱり素晴らしい女優なんだ、と実感した。
 先の大戦で爆弾を作った科学者、罪の意識もなく殺人に加担した者、あらゆる犯罪者がいる中で、確実にレーナのような人もいた。「戦争は便利ね。何でも戦争のせいにできるから。」そう言いつつ、生きることへの執念を密かに絶やさない彼女を安直に責めることもできず、彼女が雄々しくさえ見えた。そしてその姿を「そういうもの」として私見を織り込まず映し出したソダーバーグ監督とジョージ・クルーニーはさすがだと思いました。


『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』   
監督:三池崇史
出演:伊藤英明、佐藤浩市、伊勢谷友介、安藤政信
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
http://www.sonypictures.jp/movies/sukiyakiwesterndjango/index.html
全編英語セリフの和製ウエスタン活劇。壇ノ浦の戦いから数百年後。源氏と平家の対立で荒廃した村に一人のガンマンが流れ着く。やがて両者の抗争が激化し、血みどろの壮絶な戦いへと発展する。

伊藤洋次            ★★★★☆
 ヴェネチア国際映画祭では無冠だったうえ、一部メディアには不評だったというが、いやいや、そんなことは全くない! アクションと小ネタ満載の、壮大なエンタテインメント作品だ。キャストも脚本も素晴らしいが、個性の強いキャラたちをバランス良く引き立たせる三池崇監督の手腕も高く評価したい。特に主役だけでなく、松重豊や香川照之など脇を固める俳優の良さをきっちりと引き出している点がまた見事。ラストに流れる北島三郎の歌が、ヒリヒリするほど心に染みた。
野川雅子            ★★★☆
 派手なアクションを組み込んだコントかと疑ってしまう程に、2時間笑いが止まらない。海外の方が感じているであろう「日本らしさ」をテンコモリにしたエンターテインメントである。勿論、日本人が見ても十分に楽しめる作品だ。全編英語で話す日本人キャストは、それぞれが、はまり役。役に絶妙にマッチしていて、無駄なキャストが1人もいない。特に、佐藤浩市の爆発ぶりに注目して欲しい。ロケ地の山形は私の故郷である。見覚えのある風景がハリウッドデビューを果たしたと思うと、嬉しさも倍増する。名産、だだちゃ豆の登場には度肝を抜かれた。エンディングの北島三郎の声が心に染みる。全てをまとめてくれたのは、あの曲なのかもしれない。


私の名画座二本立て : 『天晴れ一番手柄 青春銭形平次』(1953・日本)
                『ヤング・フランケンシュタイン』(1974・アメリカ)

 新企画にふさわしく、初笑いとまいりましょう。「日米パロディ映画合戦」と銘打ちまして、まずは日本代表、市川崑監督『天晴れ一番手柄 青春銭形平次』であります。

 この作品、銭形平次のパロディのはずなのに、開巻いきなり映し出されるのは現代(昭和28年当時)の銀座のビル街だったりするんだからぶったまげます。え、どうしてかって?それは観てのお楽しみ!
 やっと本題が始まり事件発生。発見された変死体を取り囲むのは、三河の半七に人形佐七、若さま侍なんて凄腕の面々。岡っ引一年生の平次は野次馬の整理なんてやらされています。さらに新人岡っ引では食えないもんだから、副業で飴屋を営み、投銭もゴムヒモつきで回収可能といういじましさ。クライマックスでは、日本映画には珍しいサイレント調の大ドタバタが炸裂します。
 銭形平次と言えば、私どもの世代には、大川橋蔵主演のテレビ時代劇のイメージが強いのだけど、ここで市川崑がパロディの対象にしているのは、昭和初期のサイレント時代劇で描かれた銭形平次。そのため、往年の活動大写真の雰囲気を再現しようと、グラス・ステージ(ガラス張りで天然光が入る撮影ステージ)風の照明を狙ったり、現像でフィルムにわざと色ムラを起こしてみたりしたそうな……って、アンタは『グラインドハウス』のタランティーノ&ロドリゲスか!五十年以上前にこんなことやってるんだからから参りますよ、ホント。

 さて、これに対抗するもう一本は、メル・ブルックス監督『ヤング・フランケンシュタイン』であります。
 こちらで描かれるのは、かのフランケンシュタイン博士の青春時代……ではなくて、そのひ孫。演じるはジーン・ワイルダー。彼は脚本も兼ねています。お話は、フランケンシュタイン博士のひ孫が祖父の手記を入手し、禁断の実験を再現してしまう……というもの。
 白黒の撮影、ゴシック調の古城セットは、ジェームズ・ホエール監督の『フランケンシュタイン』と『フランケンシュタインの花嫁』の再現であり、ギャグの元ネタもその二作をベースにしているわけですが、この作品が優れているのは、こうしたパロディが「元ネタを知っている人にはより面白く、そうでない人でもじゅうぶん楽しい」、つまり原典から独立して成立する、高いギャグ水準を獲得していることにあります。

 最近では「パロディ映画」と言えば、原典を下品に茶化すだけの映像ジョーク映画をさすようですが、これはじつに嘆かわしい!今回取り上げた二作のような、監督・脚本・俳優が己の力量を充分に発揮し、同時に原典へのリスペクトをも忘れていないパロディ映画を見て、ぜひ目を肥やしていただきたい、と思う所存であります。
 ホント、伊藤雄之助演じる八五郎、マーティ・フェルドマン演じるアイゴールのおかしさときたら、筆舌に尽くし難いんだから!

2008.1.30 掲載

著者プロフィール
団長 : スーパーロックスター。メジャー契約なし、金なし、コネなしながら、来秋、日本武道館でライブを行う。ラジオDJ、本のソムリエ、講演、コラムニストなどとしても活躍中。大の甘党で"スイーツプリンス"の異名をとる。バンドHP http://www.ichirizuka.com

伊藤洋次 : 1977年長野県生まれ。業界紙の会社員(営業)。メジャー映画はなるべく避け、単館系しかもアジア映画を中心に鑑賞。最近気になる監督は、廣末哲万・高橋 泉、園子温、深川栄洋、女池充など。

悠木なつる : 1973年生まれ。紆余曲折あり、この春から堅気のOLへカムバック。映画ライターとの“二足のわらじ”を夢見て、ジャンルを問わず映画を観まくる日々。発売中の『映画イヤーブック2007』(愛育社)では、本名の“横○友○”で映画紹介記事とコラムを執筆。

中沢志乃 : 1972年5月8日、スイス生まれ。5年間、字幕制作に携わった後、2002年4月、映像翻訳者として独立。夢は世界一の映像翻訳者。11月10日、ダニー・グローバー主演『アメリカの森』(字幕翻訳)発売。2008年2月、ジョン・レノンの最後の1枚を撮った写真家のドキュメンタリー「アニー・リーボヴィッツ」(字幕翻訳)公開予定。

野川雅子 : 1985年山形県生まれ。19歳で映画に出会い、それ以来、映画に恋愛中。人の心を描いた邦画が特に大好き。日本中に映画の魅力を幅広く伝えられる映画紹介をするのが夢。

堀田尚志 : 1972年生まれ。風の向くまま気の向くままに映画館・古書街に出没する東京流れ者。時々、テレビ番組を演出したり映画の脚本を書いたりすることも。

<監修>
古東久人:1959年生まれ。某出版社勤務。キューブリックで映画に目覚め、1980年代にキネ旬常連投稿から映画ライターへ。 「キネマ旬報」「フリックス」などの映画雑誌に執筆。編著は「相米慎二・映画の断章」(芳賀書店)。 生涯のベスト1はブニュエルの「皆殺しの天使」と長谷川和彦の「太陽を盗んだ男」。「皆殺しの天使」のDVDをぜひ出して欲しい!
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