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バックナンバー Vol.57

バベル
恋愛睡眠のすすめ
リンガー!替え玉★選手権

シネマの達人が語るとっておきの一本 : 第4回 『第七天国』〜7th Heaven〜


(今月の監修:高井清子)

巻頭コラム : 『東京タワー ボクとオカンと、時々オトン』

この話は、かつて、それを目指すために上京し、弾き飛ばされ故郷に戻っていったボクの父親と、同じようにやってきて、帰る場所を失くしてしまったボクと、そして、一度もそんな幻想を抱いたこともなかったのに東京に連れてこられて、戻ることも、帰ることもできず、東京タワーの麓で眠りについた、ボクの母親のちいさな話です。

…という、原作の文が冒頭オダギリのナレーションで紹介されるのだけど、コレは最初から「オカン死にまっせ」と言ってるようなもので、しかも現在の病室から始まるもんだから難病モノのムードまんまんで、原作は冒頭の文章を裏切り単なる難病モノにはならないんだけど、映画は情緒たっぷりで泣かせるだけが目的の「母物」になってます。
  脚本の松尾スズキが意図したポップな要素は松岡錠司の弛緩した演出によって殺され、編集によって情緒しか残らなかったのだと思う。病室と回想が行き来する構成は映画的なつもりかもしれないが、単なるダイジェストと同じ効果にしかなってない。

原作の肝はオトンだと思うが、そこをほとんど素通りしてしまっているのは勿体無い。せめて冒頭のナレーションにある「夢破れて故郷に戻ったオトン」をちゃんと描かなければならないと思う。オカンとボクとオトンの三角関係をきっちりやらないと主人公のマザコンぶりが際立たないし、東京で成功した主人公に対する父親の複雑な感情も描けない。単なるオカンの聖人ぶりを描いても何の新しさも感じない。

東京タワー ボクとオカンと、時々オトン思春期を演じた子役の声が変声期前なので違和感ばりばり。あきらかなキャスティングミス。中学時代からオダギリで演じれるだろう。「幸福な食卓」で中学生やった経験があるとはいえ勝地涼もやってんだからオダギリもできたはず。樹木希林は達者だ。見返りを求めない母親の愛を感じる。しかし、実の娘である内田也哉子は顔は似てるが顔だけで、筑豊の女になっていない。彼女の人生が見えないのだ。演出が素の彼女に合わせすぎてるのだろう。彼女を映画の世界にひっぱって行く演出力がないのだ。松たかこはさすがだと思った。どの表情をどこですればいいのか把握している。オダギリはもっとリリーに似せることも出来ただろうが、松岡がソレを許していないのがミエミエ。ここでも役者の素に映画のほうが寄り添う演出をしてる。その方法論で「母と息子」という普遍的なものを求めようとしてるかもしれないが、ハナシそのものはよくある「難病モノ」なので普遍がパターンに堕している。テレビシリーズは観てないが、映画独自のモノが見えない。

丁寧な映画だけど、丁寧すぎて退屈。泣かせようと思って作ってるから泣けるのだけど、原作の十分の一ぐらいしか泣けなかった。丁寧な仕事が原作にある清濁あわせ持つ魅力をそいでしまっている。カットされてない松尾脚本と中島哲也演出で見たかった。母物のパターンを踏襲しつつも原作の持ってる普遍的な毒が色濃く出たかもしれない。

ちなみに、リリーとオカンが暮らした笹塚のマンションは一階にスーパーの「ライフ」四階に「笹塚ボール」といったロケーション。元笹塚十年選手としては原作を読んだとき「ああ、俺もオカンに会ってたかも」と親近感が沸いたものだけど、映画は笹塚で撮ったとおぼしきシーンはワンカットだけで少しがっかり。笹塚ボールの巨大ピンぐらい実景で抑えて欲しかった。



最新映画星取表 =1点、=0.5点。最高得点=5点

『バベル』 (2006年・米/ギャガ・コミュニケーションズ)  
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演:ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット
http://babel.gyao.jp/
「バベルの塔」が象徴する言葉のコミュニケーションをテーマに、一発の銃弾が4つの国を結ぶ。

野川雅子          ★★★★★
 この映画のメッセージは、偶然と家族愛だと思う。平凡な日本のサラリーマンが好意で贈った銃が、彼の知らないところで事件を起こしてしまう。4つの都市が交差する、偶然が重なって起こる悲劇を描いているが、共通してラストで感じられるのは温かい家族愛だ。それが、暗いストーリーを、最後、優しく包み込んでくれた気がする。私が一番印象的だった舞台は日本だ。母親を自殺で亡くした、日々の生活にやりきれなさを抱える聾の女子高生の気持ち。寂しい気持ちを誰かにわかってほしいと、身体全体で表現した少女の気持ちが、とても歯がゆかった。自分が母になった時、再び観たいと感じる1本だ。きっと、今とは少し違う感情を抱くような気がする。
南木顕生          ★★★
 物語上さして必要ではないように思える東京篇ではあるが、無自覚であるということがアメリカに代表される身勝手よりもタチが悪いことを訴える。
 妻が自殺に使った猟銃をモロッコの現地ガイドにやった役所広司の気持ちはわからないでもないが、その直前まで狩りに興じていたわけだからどこまで反省してるのか怪しい。むしろこういう男だから女房が自殺したんだなと思う。菊池凛子の奇行もそのような父親を見抜いてのことなのだろう。
 菊池の東京デカダンス巡りはナカナカ見せる。全体的にくすんだトーンの東京はグロテスク。その世界的に見ても異様なルックは興味深かった。『トゥモロー・ワールド』の未来世界に通じる不気味さがある。なんら誇張してないにも関らず、どこか病んでるイマのこの国が見えてくる。目を閉じればいつでも静寂に浸れるはずなのに、ネオンの毒が彼女の目を見開かせる。ヒトとの肉体的なつながりを渇望するも言葉というツールを持たない彼女の地獄巡りは彼女自身を静かに壊していったのだろうか?
 ならば最後まで父と娘は分かり合えないほうがリアルではないだろうか? 当然、ブラピとケイト・ブランシェットも悲劇で終わった方がすわりがいいと思う。
 しかし、相対として面白く見られた。薄いエピソードも語り口次第ということなのかもしれない……。
岡崎圭           ★★★
 私の職場では多国籍の人々が働いています。フィリピン人、ネパール人、ベトナム人、中国人、台湾人、そして日本人。日本人同士でさえ人間関係のトラブルは多く、外国人同士に至っては共通語がカタコトの日本語のため、余計に誤解が生じてトラブルが絶えません。立場上、私は彼らの間を取り持ち、トラブルを最小限に抑える役割がありますが、なかなか上手くいきません。みんなそれぞれ自分中心の見解による主張をするため、話の食い違いと溝が埋まる事は大変難しく、毎日何かしらの問題やトラブルが巻き起こっています。それでも私は信じています。人と人は言葉ではなく心で通じ合うということを。一生懸命心を開いて接すれば真の思いは必ず伝わるということを。そんな私にとって、ラストシーンでの真裸の少女の姿がとても印象的でした。


『恋愛睡眠のすすめ』 (2006・仏伊/アスミック・エース エンタテインメント) 恋愛睡眠のすすめ
監督:ミシェル・ゴンドリー
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、シャルロット・ゲンズブール
http://renaisuimin.com/
夢では上手くいくのに、現実は上手くいかない。夢と現実が交錯する中、果たしてこの恋の行方は…?

はたのえりこ        ★★★★★
 私たちが普段する「妄想」ってものは映画みたいにきちんと編集されていなくて、都合のよい場面が脈絡なくぱっと映像化されているんだなと思う。かくいう私も妄想好き。眠りにつかなくても、現実に起きて今みたいに何かをしながらも、しょっちゅう別の世界で別のことを考えてる。そんなワケでこの不器用なステファン君(ガエル・ガルシア・ベルナル)にかなり共感。現実と夢(妄想)ってけっこう同時進行できるし、いつかは交差することだってある。恋愛やら何やらで頭がいっぱいになったときの「うわぁ〜〜」っていう他人に説明しづらいコノ感覚、ビジュアル化してしまったミシェル・ゴンドリーがスゴイぞ。オープニングのドラムカウント「uno, dos, tres, quatro!(1、2、3、4!)」が聞こえたら、さあカッコよく妄想しますかね。
伊藤洋次           ★★★★☆
 3月に開かれたフランス映画祭のとき、観客の一人が「クラフト感あふれる作品」と感想を話していたが、この映画はまさにその言葉がぴったり。ミシェル・ゴンドリー監督の「100%パーソナル」な映画ではあるものの、どこまでも果てしなく広がる妄想の世界に共感し、見ているうちになぜか心地良くなってしまうから不思議だ。主人公をはじめとする個性的な登場人物もさることながら、劇中のアニメーションや小道具が細部まで実によくできていて、その愛らしさや芸術センスの良さが映画の雰囲気を一層盛り上げている。美術部門には満点をつけたい。
悠木なつる         ★★★
 夢は、つじつまが合わないから不思議で面白い。ゴンドリー監督は、その“ちぐはぐ感”を、遊び心溢れる独自の映像センスで魅せる。よく、「夢が現実になったらいいのに!」「夢を録画して何度も繰り返し見られたら素敵なのに!」と思っていたので、長年の願望が本作によって、ちょっぴり叶えられたような気がした。その反面、単に凝った映像を見せたかっただけなのでは? と意地悪な見方をしてしまったりもして。ベルナルの出演を楽しみにしていたけれど、彼が演じる青年ステファンは、キュートながらも言動が不可解なので、感情移入するのは難しかった。ストーリーを追いかけるのは止めて、肩の力を抜きながら夢心地で楽しみたい作品。


『リンガー!替え玉★選手権』 (2005・米/FOX)  
監督:バリー・W・ブラウンスタイン
出演:ジョニー・ノックスヴィル、ブライアン・コックス
http://movies.foxjapan.com/ringer/
一儲けしようと、知的発達障害者を装ってスペシャルオリンピックスに潜入してみたが…。  

団長              ★★★★
 まず一言。日本でよく上映してくれました! この手の作品は日本で製作することはまずないと思いますし、不愉快に思う方も少なからずいるかと思いますが、とても面白かったです。良くも悪くも、人間の深いところの部分が見事に描き出されていました。本作を通じて、人にはそれぞれの生き方、役割があり、生きる意味がある、と感じることができると思います。自分の生き方や人生に何か思うところがある方に、特に見てほしいです。
高井清子           ★★★☆
 『カッコーの巣の上で』でもそうだけど、健常者がなめるくらいの態度で真っ向からぶつかっていく方が障害者の心に入り込むんだなあ。いや、そうやって健常者だ、障害者だと構えること自体が間違っている。そう思えてくる作品だ。スペシャルオリンピックスが題材だが、何ら知的発達障害者を特別視しているわけでもない。普通の青年が仲間とふざけ、好きなことに取り組み、恋に悩む姿だ。もっと破天荒なとんでもないギャグのオンパレードを期待していたけれど、人間として普通に大事なことが笑いと共にしみじみ伝わってくる作品だ。
南木顕生           ★★★
  製作が障害者・フリークス・下ネタギャグのファレリー兄弟、監督が「ビヨンド・ザ・マット」のバリー・W・ブラウスタイン、主演が「ジャッカス」のメインパーソナリティ、ジョニー・ノックスヴィルといった布陣で、しかも中身が健常者が知的障害者を偽って「スペシャルオリンピックス」の金メダルを狙うという危ないハナシなので否応にも期待が膨らむ。
 ところが、フツーにウエルメイドな「いいハナシ」なので驚いてしまった。知的障害者たちがスケベで意地悪で人間臭いヤツらばっかりなので健常者だ障害者だの作り手の視点に区別がないのがいい。知的障害者であることを利用したり甘えたりするしたたかさをちゃんと描いている。さすがファレリー兄弟。そういえばこないだビデオで観た『ふたりにクギづけ』も本人たちも周囲も当たり前のように明るく障害を受け入れてる話だった。今回も実際の障害者たちが多数出演してるのだが、ことさら強調もしなければ、かといって腫れ物に触るように丁寧な接し方もしない。当然のように差別ギャグもある。こういうことをフツーに笑えることがバリアフリーなのだと教えてくれる。
 惜しむらくは、スポ根ドラマとしての芯が弱いところ。スペシャルオリンピックスはもっと盛り上げてもいいんじゃないか。競技の撮り方はもう少し研究して欲しかった。
 主演のノックスヴィルは「ジャッカス」に比べるとずっとマイルド。意外に幅の広いその芸に驚く。ヒロインを演じたキャサリン・ハイグルは笑って歯茎が見えるも何のその、大変キュートな歯ぐき美人でございました。


シネマの達人が語るとっておきの一本 : 『第七天国』〜7th Heaven〜

私が選ぶとっておきの一本。それは、女性弁士なら誰でも一度は語ってみたいと思うであろうこの映画。

『第七天国』〜7th Heaven〜
1927年 アメリカ フォックス映画作品
監督:フランク・ボーゼイジ
主演:ジャネット・ゲイナー、チャールズ・ファレル

第1回アカデミー賞監督賞・女優賞・作品賞受賞作品

「チコ」はパリの下水道清掃人。彼は出世して太陽の光を浴びて働く道路清掃人になることを願いながら、貧しくとも誇りと希望だけは失わず、住まいである下宿屋の七階の屋根裏部屋も、彼には星に近い天国だった。
 姉に虐待されている少女「ディアンヌ」と知り合い、ふたりの心のふれ合いがこの屋根裏部屋で展開されるのだが、このあたりの映像と台詞がまるでおとぎ話のよう。

〜夢のような星空を見上げながら、語り合うふたり。〜

『俺は上ばかり見ている。
だから俺は“すごい奴”なんだ・・・
下なんか見るな。いつも上を見ろ!』

〜あぁぁ〜こんな事言える男性、いないねぇ。(爆)
しかし戦争が始まり、チコには召集令状が。〜

『怖いよ!戦争になんか行きたくない。』

〜あぁぁ〜究極の時に出る本音。(苦笑)
しかしディアンヌはこう優しく言葉を繋ぐ。〜

『怖がらないで、上を見て!上だけを見るんだ・・・
あなた私に言ったでしょ!?おかげで強くなれたわ・・・』

シンプルに、だけど力強く、愛し合う事の美しさを描く一本。
終わって会場の明かりが点いた時に、観客と舞台との垣根が消えて、皆のこころがひとつになっているような作品です。

2008年1月6日(日)東京芸術劇場小ホール1にて、 キネマ・コラボレーションVol.7として公演致します。 弁士とピアノでサイレント映画を奏でるひとときを、どうぞ体験しにいらして下さいませ!
(詳しくは→http://bensisaitou.hp.infoseek.co.jp/

(斎藤裕子)

2007.5.31 掲載

著者プロフィール
野川雅子 : 1985年山形県生まれ。19歳で映画に出会い、それ以来、映画に恋愛中。人の心を描いた邦画が特に大好き。日本中に映画の魅力を幅広く伝えられる映画紹介をするのが夢。

南木顕生 : 1964年生まれ。シナリオライター。日本シナリオ作家協会所属。映画は劇場のみ鑑賞をモットーに現役最多鑑賞脚本家を目指している。ここ二十数年、年間劇場鑑賞数百本を下回ったことがないのが自慢。怖いもの知らずの辛口批評は仕事を減らすのでは、と周囲に心配されているとか……。

岡崎 圭 : "GEROP"(Grotesque-Eros-Psyche)探求者。または如何物喰い。どちらかというと邦画が好きです。

はたのえりこ : 1979年東京生まれ。今のところ編集者の道を歩みつつあるが、果たしてどこに行き着けるのか、本人にもわからず。海外に行くと、必ず映画館の現地調査をしたくなります。先日訪れたギリシャは完全に『パイレーツ・オブ・カリビアン2』に街が占拠されていました。ジョニー・デップ効果は万国共通らしい。

伊藤洋次 : 1977年長野県生まれ。業界紙の会社員(営業)。メジャー映画はなるべく避け、単館系しかもアジア映画を中心に鑑賞。最近気になる監督は、廣末哲万・高橋 泉、園子温、深川栄洋、女池充など。

悠木なつる : 1973年生まれ。紆余曲折あり、この春から堅気のOLへカムバック。映画ライターとの“二足のわらじ”を夢見て、ジャンルを問わず映画を観まくる日々。発売中の『映画イヤーブック2007』(愛育社)では、本名の“横○友○”で映画紹介記事とコラムを執筆。

団長 : スーパーロックスター。メジャー契約なし、金なし、コネなしながら、来秋、日本武道館でライブを行う。ラジオDJ、本のソムリエ、講演、コラムニストなどとしても活躍中。大の甘党で"スイーツプリンス"の異名をとる。バンドHP http://www.ichirizuka.com

高井清子 : 1966年生まれ。企業勤めの後、ロンドン留学を経て、フリーの翻訳者に転身。映画の脚本やプログラムなどエンタテインメント関連の翻訳をする。今は韓流にどっぷりはまり、『韓国プラチナマガジン』にもレビューを寄稿している。

斎藤裕子 : 劇団ひまわりで舞台中心に公演活動の後、水芸などの日本の奇術のアシスタントを経て2001年より活動弁士としてデビュー。澤登翠門下生。『のらくろ』などのアニメから『鞍馬天狗』などの時代劇まで、様々なジャンルを七色カメレオンボイスでダイナミックに語りあげる。

<監修>
中沢志乃 : 1972年5月8日、スイス生まれ。5年間、字幕制作に携わった後、2002年4月、映像翻訳者として独立。夢は世界一の映像翻訳者。現在、トゥーン・ディズニー・チャンネルで吹替翻訳を手がけた『X-メン』が絶賛放映中。2月2日にデミ・ムーア主演『ゴースト・ライト』(字幕翻訳)、4月12日に『アメリカン・パイinハレンチ・マラソン大会』(字幕翻訳)発売。

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