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バックナンバー Vol.56

ハッピーフィート
パフューム
フランシスコと2人の息子

(今月の監修:中沢志乃)

巻頭コラム : 『ラストキング・オブ・スコットランド』に見る、吊るしのエロス

スコットランドからウガンダの診療所にやってきたニコラスは、理想に燃えた若い医師というよりアジアの辺境にごろごろいるバックパッカーのようだ。有色人種を甘く見ている白人の彼は、簡単にウガンダ大統領イディ・アミンの術中にハマっていく。逃げられなくなるまで、自分が拉致監禁状態にあることに気がつかない。その辺は自業自得で、ニコラスはただのおバカさんだ。
  しかし、一国の権力者が若い白人の青年を囲うという図式で見ると、妙にエロい。ニコラスがアミンから離れようとした途端に二人の関係は緊迫する。アミンの尋常でない圧迫感。オスカー授賞も納得の名演だが、別れ話をしたら途端に豹変する男のようでもある。○○くんってば、急にアタシのこと押し倒してきたの、みたいな?(いや、押し倒さないけど) そしてニコラスの裏切りが発覚し、拷問されるシーンがイタエロい。胸の皮膚にかぎ針を刺され、皮膚の張力だけで吊るされるニコラス…。
  身体の自由を奪われた状態はエロスを含んでいると思う。後ろ手に縛られ、二の腕のあたりをぐるぐる巻きにされて吊るされるよくあるシーン。あれはエロスレベルは低いほうだ。頭上で両腕を縛られて吊るされるのはもっとエロい。両者の違いは脇が無防備かどうか、だと思う。脇が無防備な状態は、どうにでもして!っというエロさがある。さて、かぎ針吊るしのニコラスの身体はどうなっているか。痛そうに伸びきった胸の皮膚を支点として、腕はだらりと力なくたれ、首は溺れかけの美女が抱え上げられた時のように仰け反って、まるで無防備だ。どうにでもして!というより、ホントにどうにでもされちゃった感満載。屈服させられた後の哀愁のエロスがみなぎっていた。この吊るし方は映画的に新しい。実話ベースのフィクションだが、実は拉致監禁SM映画でもあったのだ。

(櫻井輪子)
2006年・アメリカ、イギリス/配給:20世紀フォックス
監督:ケヴィン・マクドナルド
出演:フォレスト・ウィッテカー、ジェームズ・マカヴォイ
http://movies.foxjapan.com/lastking/


最新映画星取表 =1点、=0.5点。最高得点=5点

『ハッピーフィート』 (2006年・オーストラリア、アメリカ/配給ワーナー)  
監督:ジョージ・ミラー
声の出演:イライジャ・ウッド、ブリタニー・マーフィ、ヒュー・ジャックマン、二コール・キッドマン
http://wwws.warnerbros.co.jp/happyfeet/

くぼまどか           ★★★★★
 最高です!ホットにしてクール、大胆にして緻密。これは、現代におけるCGアニメの粋を極めた作品かもしれない。皇帝ペンギンの「ハッピーフィート」が可愛すぎ。そして彼を取り巻くバイプレイヤーたちの、なんと魅力的なことか。特に、アミーゴスと呼ばれるアデリーペンギン、「教祖」としてあがめられるイワトビペンギンのラブレイス・・・。本物のペンギンを超えたふんわり優しい質感が、「夢」の世界に生きる彼らを、よく表現している。これだけ最新の技法を取り入れながらも、クラシカルなテイスト漂う正統派ミュージカル映画として仕上げられているところに、どっしりとした安心感も覚えた。映画館で、一緒に歌って踊りだしたくなるのを抑えるのに、大変だったなあ。
悠木なつる          ★★★★☆
 ペンギンといえばクールでヨチヨチ歩き。そんな彼らを愛嬌たっぷりに綴り、躍動感溢れるミュージカルの主役に据えてしまうという逆転の発想が素晴らしい。ペンギンの習性をリアルに表現しながらも、その立ち振る舞いは極めて非・リアル。個性豊かなペンギンたちのキュートさに思わずニンマリ。中でも、パタパタ足でダンスを踊る幼いマンブルの愛くるしさには完全ノックアウト! これは反則だ。もうストーリーなんてどうでもいいと思いきや、“人間と動物の共存”という深いテーマが織り交ぜられているのは意外だった。悲哀に満ちたマンブルの姿に、アンドレイ・クルコフの小説『ペンギンの憂鬱』に登場する憂鬱症のペンギンが思い浮かぶ。
高井清子           ★★★★
 前に『皇帝ペンギン』を見た時、過酷な自然の中での生々しい生存競争に一緒に見た子供はちょっとビビったようだったが、本作なら十二分にペンギンのかわいらしさを楽しめるだろう。プラス、リアルさを生かしたアニメ画さながらに、結構その生態を踏襲しつつ、今どきのメッセージも盛りだくさんで、いい娯楽映画になっている。大人の私も、たまたま直前に水族館とペンギンがいる居酒屋に行って喜んでいた自分が笑われているようで、ちょっと考えさせられた。
南木顕生           ★★
 音楽映画かと思いきやダンス映画だった。歌はいまいちだが踊りは見せる。なるほど、ペンギンのフォルムは確かに美しい。映像のすさまじいスピード感はさすがに「マッド・マックス」の監督だけのことはあるが、結局ペンギンが人間にこびるハナシなのはシラける。温暖化に対するメッセージなんかもあったほうが今風じゃないの?ペンギンはただの見世物で、自然に対する畏怖がまるっきりないのは物足りない。なんのための南極なのか、さっぱりわからない。演出一流、シナリオ三流。


『パフューム』 (2006年・ドイツ、フランス、スペイン/配給ギャガ・コミュニケーションズ)  
監督:トム・ティクヴァ
出演:ベン・ウィショー、ダスティン・ホフマン
http://perfume.gyao.jp/

岡崎圭           ★★★★★
 私が働くラブホテルの名前は「HOTEL AROMA」。名前のとおり"香り"には他一倍気を使っている。1階エントランス部分には高価なアロマディフューザーを設置し、2階から5階までの各階には小型のアロマディフューザーを配置。純粋100%の精油だけを選び、季節ごとに香りを変え、館内全体がいつも何かしらの"香り"で満たされるようにしている。お客様から香りを褒められたり、使用している精油の名前を尋ねられる時、大変嬉しく光栄に思う。純粋な精油には無意識の意識に働きかける力があり、精神や肉体に対しても多くの効能があるらしい。目には見えないけれども確かに存在する"香り"というものに、仕事的にはもちろん個人的にも、より敏感でありたいと思っている今日この頃。そんな中で観たこの『パフューム』は最高に強烈かつ最高に美しい残酷なおとぎ話。すべてのモラルの垣根を取り除けてしまうほどの魔力溢れる香りであり、偏執狂の殺人鬼でさえ"天使"へと昇華させてしまうような至高の"パフューム(香水)"とはいったいどんな香りだったのかしらん?恐れおののきつつもぜひ一度私も嗅いでみたい…。
はたのえりこ        ★★★★☆
 究極の嗅覚を持った青年ジャン=バティスト・グルヌイユ。ある日、一人の赤毛の少女から匂い立つ運命の香りと出会うが、怯える彼女を誤って殺してしまう。そこから彼が目指す究極の香水作りと連続殺人の行く末はいかに?変質者による殺人回顧録なんだろうなという先入観から見始めたところ、意外にも最後まで展開が読めずに引き込まれた。究極の香水がまかれ、人々の本能が露にされる衝撃シーンを経て、エンディングまで――すべてが終わったとき、これは童話なのかもと思った。グリム童話にもけっこう残酷なものが存在しているし。ジャン=バティストが執着する赤毛の美少女ローラの父親を演じるアラン・リックマンの存在は大きい。ハリポタのスネイプ先生とはまた違った厳格さが渋くて素敵。
南木顕生          ★★★★
 蛆虫がわく魚を売る市場で産み落とされる冒頭の赤ん坊のイメージが強烈。汚物、裸の死体、殺人鬼、サスペンス、アクション、私がおよそ映画に必要だと思われるものはすべて入っている。しかもクライマックスはソフト・オン・デマンド製作のスペクタクルAVだし、しかもラストは「ゾンビ」!変態を極めれば英雄になるというオハナシが澱みなく語られて、騙されて観に来たオシャレOLの困惑が痛快な悪趣味映画。やっぱ、こうでなくっちゃ♪
重本絵実          ★★★
 今までどのような映画にも登場してこなかったであろう男、体臭を持たないが天性の嗅覚を持つ超越者が体験する物語に終始飽きることは無く、音楽(ベルリン・フィル・ハーモニーの演奏)も18世紀パリ近郊を再現した映像もなかなかのもので、目でも耳でも楽しめる秀でたエンターテイメントに仕上げられている。けれど、何かが足りない。この手の話に二時間半は長すぎるので中盤のエピソードを削ればストーリーにメリハリが効いたのかもしれない。かく言う私は途中で退屈になってしまったのである。全く映画を見て意見だけつらつら述べるのはつくづく勝手な行為だと思うのはこういう時である。


『フランシスコの2人の息子』 (2005年・ブラジル/配給ギャガ・コミュニケーションズ)  
監督:ブレノ・シウヴェイラ
出演:アンジェロ・アントニオ、ダブリオ・モレイラ、マルコス・エンヒケ
http://2sons.gyao.jp/

団長              ★★★★★
 大げさではなく、僕の人生を変える作品になったかもしれません。そのくらい大きなプレゼントをいただきました。夢を叶えるとはどういうことか、何が一番大事なことなのか、改めて教えてもらった気分です。そして、家族の愛って、なんと偉大なんでしょう!終盤は涙が止まりませんでした。ちなみに、実話ということを全く知らずに見ていて、最後にアレ?ひょっとして…と気づきました(笑)。人生に行き詰ってる方、もっと夢を見たい方、ぜひともご覧ください!折にふれ何度も見たいので、僕は必ずDVDも買います!
伊藤洋次           ★★★★
 昨年、やはり同じブラジル映画で、自転車で3200kmを旅する家族を描いた『Oiビシクレッタ』という良作があったが、この映画も音楽がつむぐ家族の絆と愛情を描いた感動作だ。なかでも物語の前半は、子供たちの表情がとても強い印象を残す。プロ演奏家の教えを請うため、見よう見まねで、しかし真剣な眼差しでアコーディオンを弾くシーン、生活苦で涙を流す母を助けようとバスターミナルで路上ライブをするシーンなど、彼らの眼差しの強さと人間的な芯の強さに何度も心を揺り動かされた。みんな実に澄んだ瞳を持っていて、いい顔つきをしている。実話を基にしていることもあり、ラストの構成がまたニクい。耳と心に爽やかな余韻が広がった。
野川雅子           ★★★☆
 ブラジルの人気ディオが成功するまでの実話を元に描いた感動のストーリーです。まさに「事実は小説よりも奇なり」という言葉がぴったりの作品。どんなに才能に恵まれていたとしても、そんなに世の中パッとスターにはなれませんよね。挫折や苦しみも、全てプラスに変えて、負けないで進んでいった者だけが夢を叶えることができるのだと改めて感じました。そして、この映画を支えているのは、誰が何を言おうと決して意志を曲げずに、息子に歌手になって欲しいという夢を託した父親です。父親のフランシスコの姿から、人生の中で、やっぱり「これ!」って思ったことには執念を燃やすことが必要だと、教えられた気がします。あとはチャンスを活かすこと。最初に声をかけてきた、胡散臭すぎるスカウトマンの言葉に乗らなかったら、たぶん栄光を掴むことはできなかったでしょう。それで失ったこともあったかもしれないけれど、確実に得たものの方が多い。イチかバチかで一歩踏み出せる人が、最後に成功するのでしょうね!「E O Amor」の情熱的なメロディー、そしてラストの家族の笑顔が忘れられない印象的な作品になりました。


*今月は「とっておきの1本」はお休みです。

2007.5.2 掲載

著者プロフィール
櫻井輪子 : 映画コラムとか描いたことのあるイラストレーター。アート系やエンターテイメント系、ビッグバジェットにインディーズ、アメリカも中東もヨーロッパも、映画に貴賤なし、という姿勢でなんでも観ますよ。でもリュック・ベッソンとマイケル・ベイのはもう観ないな。http://wako05.exblog.jp/

くぼまどか : 「人生すべてが経験値」をスローガンに、ピアニストからライターへと変身を遂げ、取材記事は元よりコラム・シナリオ、最近では創作活動にも手を染めつつあります。基本的に映画は何でも好きですが、ツボにはまると狂います。「ロード・オブ・ザ・リング王の帰還」封切りを観る目的だけでロンドンに飛んだのが自慢。

悠木なつる : 1973年生まれ。安定していたOL生活をあえて手放し、映画ライター見習い中。“食えるライター”を目指し、ジャンル問わず映画を観まくる日々。『映画イヤーブック2007』(愛育社より3月下旬発売)にて、本名の“横○友○”で映画紹介記事とコラムを執筆。

高井清子 : 1966年生まれ。企業勤めの後、ロンドン留学を経て、フリーの翻訳者に転身。映画の脚本やプログラムなどエンタテインメント関連の翻訳をする。今は韓流にどっぷりはまり、『韓国プラチナマガジン』にもレビューを寄稿している。

南木顕生 : 1964年生まれ。シナリオライター。日本シナリオ作家協会所属。映画は劇場のみ鑑賞をモットーに現役最多鑑賞脚本家を目指している。ここ二十数年、年間劇場鑑賞数百本を下回ったことがないのが自慢。怖いもの知らずの辛口批評は仕事を減らすのでは、と周囲に心配されているとか……。

岡崎 圭 : "GEROP"(Grotesque-Eros-Psyche)探求者。または如何物喰い。どちらかというと邦画が好きです。

はたのえりこ : 1979年東京生まれ。今のところ編集者の道を歩みつつあるが、果たしてどこに行き着けるのか、本人にもわからず。海外に行くと、必ず映画館の現地調査をしたくなります。先日訪れたギリシャは完全に『パイレーツ・オブ・カリビアン2』に街が占拠されていました。ジョニー・デップ効果は万国共通らしい。

重本絵実 : 1981年名古屋市生まれ。この現実を生き抜くことに嫌気がさし、映画の世界に迷い込み早五年。もう抜けられません。ただ今のベスト・ワンは『天井桟敷の人々』と『浮雲』(成瀬巳喜男監督)です。

団長 : スーパーロックスター。メジャー契約なし、金なし、コネなしながら、来秋、日本武道館でライブを行う。ラジオDJ、本のソムリエ、講演、コラムニストなどとしても活躍中。大の甘党で"スイーツプリンス"の異名をとる。バンドHP http://www.ichirizuka.com

伊藤洋次 : 1977年長野県生まれ。業界紙の会社員(営業)。メジャー映画はなるべく避け、単館系しかもアジア映画を中心に鑑賞。最近気になる監督は、廣末哲万・高橋 泉、園子温、深川栄洋、女池充など。

野川雅子 : 1985年山形県生まれ。19歳で映画に出会い、それ以来、映画に恋愛中。人の心を描いた邦画が特に大好き。日本中に映画の魅力を幅広く伝えられる映画紹介をするのが夢。

<監修>
中沢志乃 : 1972年5月8日、スイス生まれ。5年間、字幕制作に携わった後、2002年4月、映像翻訳者として独立。夢は世界一の映像翻訳者。現在、トゥーン・ディズニー・チャンネルで吹替翻訳を手がけた『X-メン』が絶賛放映中。2月2日にデミ・ムーア主演『ゴースト・ライト』(字幕翻訳)、4月12日に『アメリカン・パイinハレンチ・マラソン大会』(字幕翻訳)発売。

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