ロゼッタストーン コミュニケーションをテーマにした総合出版社 サイトマップ ロゼッタストーンとは
ロゼッタストーンWEB連載
出版物の案内
会社案内

バックナンバー Vol.55

ドリームガールズ
墨攻
善き人のためのソナタ

シネマの達人が語るとっておきの一本 : 第3回 アニー

(今月の監修:伊藤洋次)

巻頭コラム : 神出鬼没のスーパーカメレオン――香川照之

従兄弟の市川亀治郎丈が歌舞伎の舞台でどんどん活躍する姿を見るにつけ、もしこの人が歌舞伎役者の道を歩んでいたら…と思わずにはいられない。見栄を切ったら、劇場奥の空気まで揺さぶるくらいの迫力があるのではないか。
  隈取りもさぞかし映えそうなその豪快な顔立ちから、豪傑な役も似合う。NHK大河『利家とまつ』のサルこと秀吉役などは痛快だった。『北の零年』のような憎き悪役も、『赤い月』のような権力者も堂に入っている。と思えば、『故郷の香り』のような聾唖(ろうあ)役は、壊れそうな危うさを、呑み込まれそうな怖さを不気味なくらい放出する。昨年数々の賞に輝いた『ゆれる』の人のよさそうな兄役も、誰もの同情を呼ぶ存在になるかと思いきや、劇中の状況が展開するにつれ、裏の顔をのぞかせたり、何を考えているのかわからなかったりと、まさに観客の心を「揺らし」まくる。
  香川照之の出演作リストを見ると、「あれっ、この作品にも出てたっけ?」と驚くほど、その数は多い。だが、一瞬考えると「そうだ、あそこにいた!」としっかり思い出せる。善人から悪党、気品ある紳士から卑劣漢、強い男から弱い男まで変幻自在に姿を変え、どんな小さな役でも確実に役の痕跡を残す。それこそが役者、香川照之の類い稀なる存在感だ。

(高井清子)


最新映画星取表 =1点、=0.5点。最高得点=5点

『ドリームガールズ』 (2006年・アメリカ/配給UIP) ドリームガールズ
監督:ビル・コンドン
出演:ビヨンセ・ノウルズ、ジェイミー・フォックス、エディー・マーフィ
http://www.dreamgirls-movie.jp
1960年代〜70年代のモータウンサウンド隆盛期を舞台にしたミュージカル映画。3人で結成した女性ボーカルグループがスターへの階段を上っていく過程を描いたサクセス・ストーリー。

団長              ★★★★★
 感動で席を立てなくなりました。人生の酸いも甘いも、人間の弱さも素晴らしさも、すべて詰まっています。キャストも輝いてますし、歌も最高にいいです。これほど感情にストレートに訴えかける楽曲揃いの映画は今までなかったと思います。アカデミー賞うんぬんの話題性でも、ビヨンセの美しさに惹かれるでも何でもいいので、ぜひとも見ていただきたいです。願わくば、家でDVDではなく、劇場で! 歌の迫力が断然違います!
南木顕生           ★★★★★
 あまりの出来のよさに驚いた。面白さに圧倒された。今年に入ってから見たハリウッド作品の中ではダントツだ。『ディパーテッド』は言うに及ばず『硫黄島』よりもイイと思った。
 歌ってスゴイ。台詞なんかよりもはるかに力を感じる。歌の凄みをちゃんと画面に定着させてるプロの仕事に、あらためて映画本来が持ってる力を見せ付けられました。この音響の素晴らしさは絶対映画館でなきゃ味わえないからDVDなんか待ってる場合ではないと思う。 実質主演のジェニファー・ハドソン。どうみても珍獣にしか見えないんだけど、この歌唱力!表現力!オスカー受賞も納得です。歌は女神、ルックスは珍獣。このアンバランスがなければ物語が成立しないわけで、よくぞ見つけてきたなと感心感心。彼女がいるからビョンセの美しさもさらに引き立つわけで、まさにナイスサポーティングアクトといえるでしょう。
 『シカゴ』(脚色はビル・コンドン)も嫌いじゃなかったけど、コレはさらに出来がいい。ハナシはショービズ界を戯画化した「シカゴ」よりもリアルでシビア。白人と黒人の文化がはっきりと色分けされていた時代、公民権運動も背景にきっちり入れつつ、ブラックミュージックが今みたいに当たり前のように受け入れられる歴史がきっちり描かれている。それをお勉強の押し付けではなく見事にエンターテーメントしてるのだ。
 しかしビル・コンドンって才人だなァ。『ゴッド・アンド・モンスター』も好きだったけど本領はこっちなのね。未見の『愛についてのキンゼイリポート』も見なくっちゃ。この脚色の巧みさと語り口の見事さ。ケレンもイチイチ決まるしダレ場が一切ないんだもん。こういう仕事こそ評価しなくちゃいけないよ。作品賞だけでなく監督賞も脚色賞もノミネートされてないんだっけ。なんだかどんどんダメになってきたなアカデミー賞って。
野川雅子           ★★★★
 歌手を目指す3人が夢をつかむアメリカンドリームの物語。オープニングから引き込まれそうな音楽と共に映画は始まります。ノリノリなメロディーとパワフルな歌声に劇場の観客が一つになっているような気がしました。この作品は、ジェニファー・ハドソン演じるエフィーのためのものと言っても過言ではありません。エフィーの歌声は、魂からの声って、こういうことを言うんだなぁと感じる程、ダイナミックで迫力があり、聴き惚れてしまいました。いろいろな困難を乗り越えて、最後に夢をつかむストーリーは、とっても夢があったけれど、私にとって、この映画はストーリーよりも、やっぱり音楽。映画を観た後はCDが欲しくなってしまうはずですよ!
重本絵実           ★★★☆
 『シカゴ』はレニー・ゼルヴィガーやキャサリン・ゼタ・ジョーンズが吹き替え無しに歌ったり踊ったりしたことばかりがクローズアップされたが、ミュージカルの評価はそんなところで決まるものではない。細かいカットの繋ぎで役者の歌や踊りを心ゆくまで見せる王道のミュージカル映画が消えようとしている今、『ドリームガールズ』が救世主となるかは不明だが、ジェニファー・ハドソンの歌声はハリウッドミュージカルの再生に息吹を与えたと私は解釈したい。ハリウッドはこういう娯楽映画を大事にしていくべきで、オスカーの作品賞に本作をノミネートせずに『ディパーテッド』に最優秀賞を与えてしまうアカデミー会員の見識を私は疑っている。


『墨攻』 (2006年・中国・日本・香港・韓国/配給キュービカルエンタテインメント+松竹) 墨攻
監督:ジェイコブ・チャン
出演:アンディ・ラウ、アン・ソンギ、ワン・チーウェン
http://www.bokkou.jp/
春秋戦国時代。大国の攻撃で落城寸前だった小国・梁を救うため、「非攻」を掲げる思想集団・墨家の天才戦術家(革離=アンディ・ラウ)が、たった1人で10万の敵に立ち向かう。

南木顕生         ★★★★
 酒見賢一の小説を原作にしたコミックを香港のジェイコブ・チャン(『流星』)が脚本・監督、日本の阪本善尚(『男たちの大和』)が撮影監督、川井憲次(『攻殻機動隊』)が音楽、他にも中国、台湾、韓国といった具合に集められたスタッフは国際色豊か。役者は香港からアンディ・ラウ、韓国からアン・ソンギ、大陸からワン・チーウェンといった具合に大物を招聘。
 時は春秋戦国時代。二大大国、趙と燕に挟まれるようにある小国・梁。そこに雇われる一人の男、革離。彼は墨家と呼ばれる「思想集団」に属している。非戦主義の彼は徹底防戦のみで城を要塞化してゆくのだが…。
  戦わずして守り抜く「墨家」の思想は今日的。「非戦」「兼愛」を旗頭に置いた「思想集団」でもあり「戦闘集団」でもあるわけだ。戦闘を長引かせて撤退を誘う戦術は『硫黄島からの手紙』の栗林中将を思わせる。
 狂言回し的に庶民を描いているのも効果的。時代設定が紀元前ということもあり、国家と個人の距離感が近いぶんドラマ的に散漫になってない。
 ドラマは後半、守るべき国家にこそ真の敵がいることをあきらかにするのだが、そのあたりにも現代の情勢が透けて見えなくもない。いや、どんな組織の中にも敵はいる。アンディ・ラウから中間管理職の苦悩も見える。
 登場人物もパターンだし、テンポがよすぎて情緒に乏しいのだが、スケールの大きい戦闘シーンは飽きない。歴史映画というより単純に戦争映画として楽しめる。  ハリウッドに対抗した「ユーロ映画」があるように「大東亜共栄圏映画」があってしかるべきだと思う。いろいろ試行錯誤してるみたいだが、こういう合作の仕方が理想なのではないだろうか? 中国の都市部が豊かになったとはいえマーケットはまだまだ日本の方が大きいので、日本の俳優が参加していた方が広がったと思う。いや、この自虐的な国民は日本人が出てると逆にしらけるかもしれないな。大失敗した『プロミス』の例もあるし…。
悠木なつる         ★★★
 漫画では、男たちの人間ドラマが泥臭くもスリルたっぷりに綴られていた。しかし、本作はシーンのつなぎが悪く、歴史アクション大作は淡々と目の前を通り過ぎていった。ラブロマンスよりは硬派な人間ドラマを期待したのだけれど。“墨家”の思想を強調するエピソードが少なく、映画だけでアンディ・ラウ演じるヒーローの立場を理解するのは難しかった。また、脇を固めるキャラクターの魅力が存分に引き出されることなく終わってしまったのも残念。ただ、弓の名手を演じたウー・チーロンが男前のオーラを放っていたのは印象的だ。つい辛口になってしまったけれど、“兼愛”や“非攻”を唱えた映画をアジア3カ国4地域で合作した意味は大きい。
はたのえりこ        ★★★
 紀元前4世紀、対立する趙と燕の国境に位置する梁へ、趙軍の侵略行為が及ぼうとしていた。これを阻止すべく現れた博愛主義を唱える墨家の使者、革離。不安に怯える民に戦う術を教え、生きぬく希望を与えやがて崇拝される。しかし、救世主は時がたつと共に、その存在を疎む者が現れ、気づけば迫害されることがある。新約聖書のイエス・キリストを筆頭に、様々な文化に登場する“救世主”にはそんな運命がしばしば待ち受けている気がする。革離のライバルである趙の将軍・巷淹中を演じたのは、韓国よりアン・ソンギ。長台詞は一部アフレコらしいが、北京語でもその貫禄はさすが! 原作ファンはいろいろ注文があるかもしれないけど、2人のカリスマを中心に、香港、韓国、中国、台湾の俳優が真摯に取り組んだ骨太系歴史大作。


『善き人のためのソナタ』 (2006年・ドイツ/配給アルバトロス・フィルム)  
監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
出演:ウルリッヒ・ミューエ、マルティナ・ゲデック、セバスチャン・コッホ
http://www.yokihito.com/
東西冷戦下の東ベルリン。国家保安省の局員ヴィースラーは、ある劇作家夫婦が反体制である証拠をつかむため盗聴を命じられるが、彼らの世界に触れることで変化が生まれていく…。

中沢志乃          ★★★★★
 久しぶりに★5つの映画を見ました! 冷戦下の東ドイツ。国家保安省のヴィースラーは、反体制の疑いのある劇作家の盗聴をするうちに、芸術に魅せられ、理不尽な政府から密かに彼らを守ろうとするようになる。…と言うとなんてことないストーリーのようですが、私利私欲に走らない純粋な共産主義を信じる主人公の心の揺れ、共産政権下で自由な表現を許されない芸術家たちの苦悩、それにいつ、政府に捕まるか等のハラハラ感もあいまって、全く飽きないどころか、その展開に「なるほど、なるほど、」とひとつずつうなずきたくなるような作品でした。そして、最後の最後のショットが…。私の目から涙があふれました。超おススメです!
岡崎 圭           ★★★★
 "心"とはなんだろう?そんなことを考えさせられた映画でした。"心"は見えないし触れないけれど、確かに存在するもの。この映画では主人公の心の変化がじわじわと、けれど確実に伝わりました。私は現在池袋の某ラブホテルでマネージャー補佐として働いています。場所柄お客様も様々ですが、従業員もかなり個性豊か。単純明快な人もいれば、気難しい人、そして裏表が激しい人も。そんな仕事場を半年ほど経験してみて、"心"は言葉にないことを実感しています。"心"は行動だ、と。口ではなんとでも言えるけれど、その真意は行動でしか表せない、と。行動によって心を表した主人公は長い時間をかけて自分の心が正しかったことを知り、ラストシーンでそれはそれは誇らしげな顔を見せます。その顔を見て私は胸が熱くなりました。


シネマの達人が語るとっておきの一本 : 第3回 アニー

 私と映画「アニー」の出会いは、私がまだ10歳か11歳だった頃。母は、ある日、デンマークから帰国した私が英語を忘れないよう、英語の映画を見せに行こうと思い立った。そこで、『アニー 字幕版』を見に行ったのだが、時間を間違えて、結局見たのは吹き替え版だった。
 生まれて初めて見た吹き替え版は、思いがけず面白かった。特に歌まで吹き替えてあり、その後、その中の2曲は、私の人生のテーマと言っても過言ではない歌になった。「朝が来ればトゥモロー〜」は2番、「おしゃれは笑顔から」が1番。「たーいーせつーなのーはー、着ーるものよりも、よ・り・も!おしゃれーなえーがおー」と、今でも朝、ドライヤーをかけながら、若干覚え違いのある歌を2日に1回は歌っているのではないかと思う。
 時は経って、私は字幕の仕事をするようになり、DVDの発売のために『アニー』の字幕をチェックすることになった。チェック前からワクワクドキドキ。……が、字幕版『アニー』は吹き替え版と全然違っていた! やはり映画は最初に見た状態が肝心なのだろうか。とにかく私は吹き替え版のほうが断然良かった。
 それから、吹き替え版『アニー』を見直してみた。昔はただ面白いと思っていたアニーが可愛くなり、切なくもなったりして、見る度に印象が違い、新たな発見がある。私の人生の友である1本として、これからも見たいと思う。
 アメリカでは音楽や美術がアカデミー賞にノミネートされつつ、(なぜか)監督や脚本がラジー賞にノミネートされたこの作品。日本でも『E.T.』と公開が同時期でヒットしなかったらしいが、見たことが無い方には是非是非、見ていただきたい! 心が洗われること間違いナシ。DVDなら、特典映像で大人になったアニー役のアイリーン・クインも見られますけど…。

(中沢志乃)

『アニー』(1982年・アメリカ)
監督:ジョン・ヒューストン
出演:アイリーン・クイン、アルバート・フィニー

2007.3.30 掲載

著者プロフィール
高井清子 : 1966年生まれ。企業勤めの後、ロンドン留学を経て、フリーの翻訳者に転身。映画の脚本やプログラムなどエンタテインメント関連の翻訳をする。今は韓流にどっぷりはまり、『韓国プラチナマガジン』にもレビューを寄稿している。

団長 : スーパーロックスター。メジャー契約なし、金なし、コネなしながら、来秋、日本武道館でライブを行う。ラジオDJ、本のソムリエ、講演、コラムニストなどとしても活躍中。大の甘党で"スイーツプリンス"の異名をとる。バンドHP http://www.ichirizuka.com

南木顕生 : 1964年生まれ。シナリオライター。日本シナリオ作家協会所属。映画は劇場のみ鑑賞をモットーに現役最多鑑賞脚本家を目指している。ここ二十数年、年間劇場鑑賞数百本を下回ったことがないのが自慢。怖いもの知らずの辛口批評は仕事を減らすのでは、と周囲に心配されているとか……。

野川雅子 : 1985年山形県生まれ。19歳で映画に出会い、それ以来、映画に恋愛中。人の心を描いた邦画が特に大好き。日本中に映画の魅力を幅広く伝えられる映画紹介をするのが夢。

重本絵実 : 1981年名古屋市生まれ。この現実を生き抜くことに嫌気がさし、映画の世界に迷い込み早五年。もう抜けられません。ただ今のベスト・ワンは『天井桟敷の人々』と『浮雲』(成瀬巳喜男監督)です。

悠木なつる : 1973年生まれ。安定していたOL生活をあえて手放し、現在、映画ライター見習い中。「食えるライター」を目指してジャンル問わず映画を観まくる日々。

はたのえりこ : 1979年東京生まれ。今のところ編集者の道を歩みつつあるが、果たしてどこに行き着けるのか、本人にもわからず。海外に行くと、必ず映画館の現地調査をしたくなります。先日訪れたギリシャは完全に『パイレーツ・オブ・カリビアン2』に街が占拠されていました。ジョニー・デップ効果は万国共通らしい。

中沢志乃 : 1972年5月8日、スイス生まれ。5年間、字幕制作に携わった後、2002年4月、映像翻訳者として独立。夢は世界一の映像翻訳者。現在、トゥーン・ディズニー・チャンネルで吹替翻訳を手がけた『X-メン』が絶賛放映中。2月2日にデミ・ムーア主演『ゴースト・ライト』(字幕翻訳)、4月12日に『アメリカン・パイinハレンチ・マラソン大会』(字幕翻訳)発売。

岡崎 圭 : "GEROP"(Grotesque-Eros-Psyche)探求者。または如何物喰い。どちらかというと邦画が好きです。

<監修>
伊藤洋次 : 1977年長野県生まれ。業界紙の会社員(営業)。メジャー映画はなるべく避け、単館系しかもアジア映画を中心に鑑賞。最近気になる監督は、廣末哲万・高橋 泉、園子温、深川栄洋、女池充など。

バックナンバー
上に戻る▲
Copyright(c) ROSETTASTONE.All Rights Reserved.