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バックナンバー Vol.51
旅の贈りもの☆0:00発
明日へのチケット
地下鉄に乗って
『トリスタンとイゾルデ』 〜伝説の恋物語〜 |
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数ヶ月前、恋をした。声を聴くだけで胸がときめき、姿を見かけるたびに心が乱れた。運命さえ感じたものの、片想いのまま激しく燃えてあっという間に消えた。
恋に落ちる時、そこには理由も理屈もない。相手が好みのタイプとも限らない。まるで強烈な磁石で吸い付けられるようにその人の一挙手一投足に惹かれる。恋に燃えている時、人は多くの場合愚かだ。寝ても醒めても恋しい人のことで頭がいっぱいになってしまう。私の場合、恋をしている自分自身に自己嫌悪さえ覚えた。
障害があればあるほど恋心は募り、やがて暴走する。互いに想いが通じていればなおさらであろう。強すぎる炎は周囲への延焼を免れない。伝説の悲恋の主人公たち、トリスタンとイゾルデは国の命運さえ左右し、伝説と化するほどの激しい恋の炎に燃え尽きた。
私は今、再び恋をしている。静かで穏やかな気持ちで恋をしている。"伝説の恋"のような激しさも強さもないけれど、炎の熱さを確かに感じる。
強弱・大小に関わらず、恋はいつでも伝説的…なのかもしれない。
(岡崎 圭)
監督:ケヴィン・レイノルズ
製作総指揮:リドリー・スコット
出演:ジェームズ・フランコ、ソフィア・マイルズ、ルーファス・シーウェル
配給:20世紀フォックス映画
http://movies.foxjapan.com/tristanandisolde/ |
団長 ★★★★
期待以上に良かったです! 旅というのは、知らないところに行けるワクワク感がたまりませんが、この作品を通じて、自分も実際に旅してるような気分を味わえました。行き先不明の電車旅、という設定の中、たどり着いた旅先が老人ばかりの町、というのも意外性があり、老人の温かさが前面に出ていて、ほのぼの気分で楽しめました。が、この作品では、「自殺」というテーマが大きなカギでもあり、生死を語らずとも、生き様で何かを伝えられる老人の存在意義を改めて感じる機会にもなりました。レトロな雰囲気も妙に親しみを感じられ、心に残りました。 |
高井清子 ★★☆
行く先も決めぬまま旅に出て、自分を発見して帰る……これは誰もが憧れる旅だろう。しかし全てにおいて少し安直すぎる気がする。あれだけ大勢の他人同士が一斉に運ばれて、宿に詰め込まれる状況は、どこか都会生活の延長にしか映らない。またみんなが一様に、この数泊の旅で揃って悩みを解決するのも無理がある。悩みも人それぞれなら、心の澱を取るまでにかかる月日も、また心の晴れ方も人それぞれのはずだ。説得力が弱いと感じるのは、私があの美しい海の風景に馴染みの深い瀬戸内で育った人間だからだろうか。もしあの風景の魔力だけで癒されるならば、もっと共感できるかもしれない。 |
中沢志乃 ★★
失恋、リストラ、自殺願望……、さまざまな悩みを抱えた人々が行き先不明の電車に乗り、終点の田舎町に滞在しているうちに希望を見出し、本来の自分を取り戻す……。時代に合っていると言えば合っている、そんな筋の映画ですが、う〜ん、残念ながら今ひとつ薄ーい感じがしてしまいました。それぞれの気持ちを掘り下げることなく、櫻井淳子のスタイルが素晴らしいという印象と、自殺したい人は他人を誘わず1人で逝ってくださーい、というプチ怒りだけが後に残り……。でも天地効果ってありますよね。悩んだらやっぱり自然の中を旅するべし。登場人物がこんなに「普通」のロードムービーも珍しいかもしれません。 |
伊藤洋次 ★★★★
3人の監督による「共同長編」ともいうべき作品。それぞれの実力や魅力が見事に凝縮されている。最後の3話目、ケン・ローチの部分が爽やかな余韻を残すので、どうしても彼の印象が大きくなってしまうが、ほかの2人の監督のパートも実に味わい深い。列車に乗って人が移動する──たったそれだけの行為が「旅」に形を変えるとき、何と多くのドラマが生まれるのだろうと気付かされる。映画の隅々まで愛情に満ちた、至高の旅の映画だ。 |
河西春奈 ★★★★
エルマンノ・オルミ、アッバス・キアロスタミ、ケン・ローチという巨匠3人による3話のオムニバス映画。ローマ行きの列車を舞台に、さまざまな人々の模様を描いたもので、登場人物が前後して出てくるので共同長編と謳っていますが、やっぱりオムニバスという印象を抱いてしまうかも。とはいえ、同じ設定でありながらも、監督それぞれが持ち味を発揮し、互いを食ってないところにこのコラボレーションのすごさをみました。なかでも第2話のキアロスタミ編の心理描写に、共感と尊敬を覚えました。モノローグを使わずに、画のみで登場人物の心情を表現する行為は、これぞ映画!といった感じ。 |
悠木なつる ★★★★
本作は3人の監督によるオムニバスではなく“共同製作”だという。その為、3人で撮影したシーンもあるようだ。中盤まで、この旅物語がどこへ向かおうとしているのかが見えてこなかった。テイストが異なる3つのエピソードがクライマックスでドラマチックに繋がるのかと思いきや、その読みは外れた。その代わり、アルバニア人一家の存在が、各々のエピソードを繋げる上で重要な役割を果たしている。列車という狭い空間でストーリーは展開するが、偶然、乗り合わせた国際色溢れる人々のバックグラウンドは広がりを持って表現される。人とのコミュニケーションによる様々な感情の露呈に、まるで人生の縮図を垣間見たような気がした。 |
カザビー ★★☆
「ビッグフィッシュ」のような父と息子の感動作かと思いきや、「嫌われみち子の一生」だった。 みち子役を演じているのは薄幸フェイスクイーン岡本綾。 ハマリすぎてい て怖い。主人公長谷部(堤真一)と不倫関係にあり、彼を愛するがゆえにとんでもない行動に出てしまう。 そこには韓国ドラマばりの衝撃の事実が隠されていて度肝を抜かれてし まった。 意外とドロドロしてたのね。このありえないエピソードに戸惑いつつも、愛する人のためにここまで自己犠牲できる女性を羨ましく思った。 とにかく映画のキーパーソンかつ演歌な女みち子 の動向にご注目下さい。 |
重本絵実 ★★
地下鉄が開通した昭和30年代を再現したことに満足しすぎて肝心の内容がスカスカになってしまった事は否めない。タイムスリップしてオロオロしているのは堤真一だけで大半の観客は興ざめしてしまうのではないだろうか。脚本には迷いしかなく、演出には力が無い。お節介な私などは一体何を伝えたかった映画なのか制作者を問い正してみたくなる。地下鉄の魅力を伝えたいのならこの試みは大誤算であろう。この映画を見て地下鉄に乗って旅をしようという気にはなれなかった。ただ一つ、岡本綾が好演して映画を救っていることはしっかりと言及しておきたい。彼女は堂々たるヒロインであった。大沢たかおと常盤貴子が演じる昭和の男と女は噴飯物であったが。 |
2006.12.4 掲載 |
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岡崎 圭:“GEROP"(Grotesque-Eros-Psyche)探求者。または如何物喰い。どちらかというと邦画が好きです。
団長 : スーパーロックスター。メジャー契約なし、金なし、コネなしながら、来秋、日本武道館でライブを行う。ラジオDJ、本のソムリエ、講演、コラムニストなどとしても活躍中。大の甘党で“スイーツプリンス”の異名をとる。バンドHP http://www.ichirizuka.com
高井清子 : 1966年生まれ。企業勤めの後、ロンドン留学を経て、フリーの翻訳者に転身。映画の脚本やプログラムなどエンタテインメント関連の翻訳をする。今は韓流にどっぷりはまり、『韓国プラチナマガジン』にもレビューを寄稿している。
中沢志乃 : 1972年5月8日、スイス生まれ。5年間、字幕制作に携わった後、2002年4月、映像翻訳者として独立。夢は世界一の映像翻訳者。現在、トゥーン・ディズニー・チャンネルで吹替翻訳を手がけた「X-メン」が絶賛放映中。10月25日、字幕翻訳をした「ラストサマー3」発売。
伊藤洋次 : 1977年長野県生まれ。業界紙の会社員(営業)。メジャー映画はなるべく避け、単館系しかもアジア映画を中心に鑑賞。最近気になる監督は、廣末哲万・高橋 泉、園子温、深川栄洋、女池充など。
河西春奈 : 1979年東京都生まれ。編集者を経てシナリオライター、フォトグラファーとして活躍中。共同監督している西川文恵と作り、主演した映画「While you sleep」を、第59回ヴェネツィア国際映画祭に出品。他10か国でも上映される。
悠木なつる:1973年生まれ。安定していたOL生活をあえて手放し、現在、映画ライター見習い中。「食えるライター」を目指してジャンル問わず映画を観まくる日々。
カザビー : 1978年生まれ。映画とお笑いをこよなく愛するOL。近況:先日、大好きな井筒監督にお会いできる機会に恵まれてヨコハマ映画祭のパンフにサインをしていただきました。現在「パッチギ」続編の脚本を執筆中とのこと。期待してます!!!
重本絵実 : 1981年名古屋市生まれ。この現実を生き抜くことに嫌気がさし、映画の世界に迷い込み早五年。もう抜けられません。ただ今のベスト・ワンは「天井桟敷の人々」と「浮雲」(成瀬巳喜男監督)です。
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