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バックナンバー Vol.50

天軍

グエムル 漢江の怪物
イルマーレ

韓国寄せ鍋はやっぱり美味い!? ■ ■ ■

肌寒くなってチゲ鍋が食べたくなる季節、お腹だけでなく心も満たしてくれる韓国映画が目白押しだ。それぞれに今の韓国映画を代表する個性の異なる3作品に、数年前からリメイクが期待されていた韓国ラブストーリーのハリウッドリメイク版を加え、今回はよりどりみどりの韓国映画絡みを選んでみた。
  まずは、今脂が乗りに乗っている韓国の魅力的なベテラン男優3人による『天軍』。邦画『戦国自衛隊』の韓国版ともいえる歴史ファンタジーだ。私たち日本人にもなじみのある豊臣秀吉の朝鮮出兵を海の反対側から捉えるのも新鮮だ。
  次に、日本の多くの韓国ラブロマンスファンと完全に一線を画し、独自の世界観で日本を始め海外で評価の高いキム・ギドク監督作品『弓』。私自身はこれまでのギドクの「容赦ない激しさ」がちょっと苦手だったのだけれど、今回は彼ならではの詩的な世界を「感じる」ことができた。韓国映画にはやっぱり詩がよく似合う。
  続いて、WETA社などハリウッドの最先端のCG技術を投入した『グエムル 漢江の怪物』。たしかにリアル度も迫力も満点だったけれど、やっぱりそこにはWETA社の代表作である『ロード・オブ・ザ・リング』らハリウッドのSFファンタジーとはまったく違う「外し」の韓国味がいっぱい効いていて笑えた。
  ハリウッドの比較という意味では待望のリメイク版『イルマーレ』が登場した。改めて見比べてみると、賛否両論。いっそう韓国映画の持ち味がわかっていただけるにちがいない。詳しくは個々の星取りをお楽しみください。

(高井清子)

=1点、=0.5点。最高得点=5点
天軍

監督:ミン・ジュンギ
出演:キム・スンウ、パク・チュンフン、ファン・ジョンミン
配給:エスピーオー
http://www.cinemart.co.jp/tengun/swf/
 

伊藤洋次          ★★★☆
 SFの要素から戦争・国際問題・歴史上の英雄まで、盛りだくさんの内容。それでいて、例えば堅い性格の上官とどこか抜けていて憎めない部下というキャラの設定など、シリアスな中にもコメディの要素がきっちり押さえられていて面白い。そんな作りだったため、かなり満腹感のある作品だった。蛮族と戦うクライマックスは、なかなかの見応え。いくら斬られても不死身な点はご愛嬌としても(笑)、壮大なスケールで展開される戦いの模様に圧倒された。
団長             ★★★☆
 歴史SFモノはあまり見たことがないのですが、これは誰でも普通に楽しめる作品だと思います。タイムスリップによって起こった現代と過去の融合、少々大げさかなぁとも思いましたが、なかなか見ものでした。戦場という危険極まりないシーンを時にユーモラスに、時にスリリングに描いています。ふと思ったのですが、これは映画の世界だけでなく、現実生活においても当てはまりますよね。ある人にとっての恐怖は、他人の娯楽になりえますし…。それはともかく、全般に韓国らしいベタな感じが面白かったです。
カザビー          ★★★
 歴史超大作に全く食指が動かない私ですがこれは別モノ。 なぜなら極上の戦国SFコメディに仕上がっているからです。見所としては韓国人が演じている日本兵の話す日本語が全然分からない、核兵器「飛撃震天雷」がショボすぎる、李舜臣の密売している朝鮮人参のセコい隠し方などが挙げられますが他にもツッコミ所満載なので心配しないでください。愛国心に満ちた熱い作品ですがこのチープさは隠しきれません。これは残念というより愛すべきものでしょう。製作費80億ウォンは一体どこに…、この内訳を考えながら観るとより楽しめると思うのでオススメします。




監督:キム・ギドク
出演:チョン・ソンファン、ハン・ヨルム
配給:東京テアトル、ハピネット
http://yumi-movie.net/index.html
 

伊藤洋次          ★★★★☆
 最初は「あれ、キム・ギドクってこんなに分かりやすい作風の監督だったっけ?」と少し意外な印象。ただ「これはきっと後で何かありそう」と思っていたら、やはり予感が的中だった。円満な結末を迎えるかと思いきや、物語は音楽とともに神秘の世界の奥へとぐんぐん入っていく。監督が作る独特の世界に翻弄され、最後は打ちのめされた感じだ。前半の安定感といい、ラストの展開といい、キム・ギドク監督は円熟味も増して、ますます上手くなっている気がした。
岡崎 圭          ★★★☆
 ギドク監督の持ち味である「あからさまな毒々しさ」はここ数作鳴りを静めているものの、代わりに「秘めた欲望」がより生々しく描かれるようになったと感じる。生殖能力がほぼ失われているであろう老人と生命力溢れる美少女の関係はまるで源氏物語の光源氏と紫の上のよう。もしくはギドク流『ロリータ』か。老人の過去に何があったか説明されないが、幼女を誘拐し10年も待って結婚を夢見るあたりかつて女性に手ひどく傷つけられたことがあるのかもしれない。心を閉ざせば閉ざすほど、内なる欲望と理想はますます強くなるもの。結果、老人は悲願であろう結婚を完成させるべく自らの手で理想どおりの女性を作り上げようとしたのだろうか。その姿は痛々しいほどの執着に満ち溢れ、もはや執念と化した彼の想いは最後に少女を崇高な巫女または女神へと変貌させた。私は今まで恋愛に関して「来る者拒まず去る者追わず」と思っていたが、あまりにも強い執着は無理な愛さえ成就させる力があるのかもしれないと考えを改めた。ただ、老女が幼い男の子をさらって自分好みの男性に育て上げて結婚することを想像すると、少しゾッとするけれど。


グエムル 漢江の怪物

監督:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ、ビョン・ヒボン、ペ・ドゥナ
配給:角川ヘラルド映画
http://www.guemuru.com/
グエムル 漢江の怪物

伊藤洋次          ★★★★★
 凄すぎる。『殺人の追憶』に続き、またもポン・ジュノ監督の世界に完全に飲み込まれてしまった。その表現力には脱帽するばかりだ。怪物映画の場合、いかに効果的に観客を不意打ちするかが一つのポイントだと思うのだが、ポン監督の演出は常にこちらの想像を超えた展開を大胆に見せてくれる。まさに一級品の出来。すさまじい衝撃が、体の芯を貫くようだった。俳優陣では、怪物にさらわれる娘を演じたコ・アソンが印象的。怪物と対峙する表情は、競演する名優たちを上回る迫力があった。


イルマーレ

監督:アレハンドロ・アグレスティ
出演:キアヌ・リーブス、サンドラ・ブロック
配給: ワーナーブラザーズ
http://wwws.warnerbros.co.jp/thelakehouse/
 

中沢志乃          ★★★☆
 「まったく違う!」私の周りで異常に評判が良かった韓国映画、『イルマーレ』。私はこのハリウッドによるリメイク版を見た後にオリジナルの韓国版を見ましたが、似たような筋なのにできたものがこんなに違うなんて…と驚くほど、違っていました。ハリウッド版を見た直後の感想は、「そんなうまい話ないでしょー。っていうか、やっぱり時間を飛び越える話のつじつまを合わせるのは難しいよねえ」。ハリウッド版では、どうしても映画の前面に過去と現在の男女が文通をするファンタジー的な要素が押し出されていて、単なる“あり得ない話”に思えたのです。ところが韓国版では、時間的要素よりも恋する男女の切なさに重点が置かれていて、悲しいまでに女性に尽くす男性の気持ちとそれに気づいた女性の気持ちが、幸せな奇跡を呼び起こす…感じに仕上がっているのです。2つの映画が全く違うものとなってしまった原因は、完全に国民性の差。ポイントは恐らく、「元カレと別れたくないから協力して」という身勝手な女性の希望に応えようとする献身的な男性の姿にアメリカ人が納得できなかったことでしょう。このため、アメリカ版では切なさは最小限に抑えられ、女性は単につらい片思いはイヤだから元カレに戻る…という調子いい感じに描かれてしまっています。男女が“平等に”ほどほどに切なく描かれた結果、どうもうますぎる強引なハッピーエンドになってしまったのでした。まあ、切なさを描かせたら今は韓国の右に出る国はないのかも。「JSA」に引き続き、韓国映画の深さを再認識させられました。ハリウッドは、このジャンルで韓国版に対抗したのが失敗、そもそもなんでリメイクするの? オリジナル版を見ればいいじゃん…とも思いましたが、でもアメリカ人にはあのほうがいいのかしら? 今回の映画は、その出来を越えて、改めて国のカラーを知れた面白い体験でした。
悠木なつる          ★★★
 オリジナルを観た直後は無性にワインが飲みたくなった。ワインとパスタのディナー、彼が彼女にワインをプレゼントするシーンが印象的だったからだ。それに限らず、オリジナルは映像に対する監督のこだわりが随所にちりばめられ、ピュアで詩的な雰囲気を作り出していた。一方、本作ではそれらの要素は控えめに、“アメリカ的”なラブロマンスが展開し、ドラマチックに仕上がっている。2つの時間軸が同時並行するため、つじつま合わせるのに苦労するが、“考える”よりも“感じる”べき作品。家の建つ場所がオジリナルの海辺から湖畔に変更されたのに、邦題がオリジナル同様、『イルマーレ(=イタリア語で“海”)』なのは違和感を覚えた。


2006.10.26 掲載

著者プロフィール
高井清子 : 1966年生まれ。企業勤めの後、ロンドン留学を経て、フリーの翻訳者に転身。映画の脚本やプログラムなどエンタテインメント関連の翻訳をする。今は韓流にどっぷりはまり、『韓国プラチナマガジン』にもレビューを寄稿している。

伊藤洋次 : 1977年長野県生まれ。業界紙の会社員(営業)。メジャー映画はなるべく避け、単館系しかもアジア映画を中心に鑑賞。最近気になる監督は、廣末哲万・高橋 泉、園子温、深川栄洋、女池充など。

団長 : スーパーロックスター。メジャー契約なし、金なし、コネなしながら、来秋、日本武道館でライブを行う。ラジオDJ、本のソムリエ、講演、コラムニストなどとしても活躍中。大の甘党で“スイーツプリンス”の異名をとる。バンドHP http://www.ichirizuka.com

カザビー :  1978年生まれ。映画とお笑いをこよなく愛するOL。近況:先日、大好きな井筒監督にお会いできる機会に恵まれてヨコハマ映画祭のパンフにサインをしていただきました。現在「パッチギ」続編の脚本を執筆中とのこと。期待してます!!!

岡崎 圭:“GEROP"(Grotesque-Eros-Psyche)探求者。または如何物喰い。どちらかというと邦画が好きです。

中沢志乃 : 1972年5月8日、スイス生まれ。5年間、字幕制作に携わった後、2002年4月、映像翻訳者として独立。夢は世界一の映像翻訳者。現在、トゥーン・ディズニー・チャンネルで吹替翻訳を手がけた「X-メン」が絶賛放映中。9月21日、字幕翻訳をしたクライヴ・オーウェン×ジェニファー・アニストン×ヴァンサン・カッセルの「すべてはその朝始まった」発売。

悠木なつる:1973年生まれ。安定していたOL生活をあえて手放し、現在、映画ライター見習い中。「食えるライター」を目指してジャンル問わず映画を観まくる日々。



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