「1910年、日本が朝鮮半島を併合。」
いきなりこのショッキングな字幕から始まるこの映画。「ディア・ピョンヤン」というタイトルを聞いただけでも未体験ゾーンへ突入覚悟だったのに、さらに深みへと連れ込まれる感じがした。しかも監督は朝鮮総連幹部の末娘として産まれたヤン・ヨンヒさん。内容はヤンさんとその家族のドキュメンタリーだ。
しかし、そんなシーンと私の思いはやがて一転。ご両親のナイスキャラに笑いつつ、自分の生き方を認めてもらうために監督が重ねる父との対話に引き込まれていった。映画は、独特の家族を描いているようで実は普遍的な父子のテーマをも描いている。自分の生き方を親に認めてほしい、期待には応えられないけれども、という子の願い。 そして、家族は違いを乗り越える。
だが、こうして父子の対話に成功したのも、実はヤンさんが末「娘」だったからではないかと思う。万景峰号の中や北朝鮮の町の様子等の撮影に成功したのは、もしかしたらヤンさんが朝鮮総連幹部の娘だからか……。そういったあらゆる意味で、今まさにタイムリーなこの映画はヤンさんだからこそ撮れたのだと思う。
終盤。入院中の父が、意識が朦朧(もうろう)とする中、発する家族への思い。そして、朦朧としているのに突然はっきりと発する北朝鮮への思い。済州島出身の父が北朝鮮に入れ込む理由が、ここで初めて分かった気がした。そして冒頭の字幕で説明された在日朝鮮人の背景が、パッと、このシーンへとつながった。
構成、内容ともに素晴らしい出来。今後のヤン・ヨンヒ監督の作品にも期待大だ。
(中沢志乃)
『ディア・ピョンヤン』
監督:ヤン・ヨンヒ
配給:シネカノン
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