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バックナンバー Vol.47
初恋
13歳の夏に僕は生まれた
プルートで朝食を
親密すぎるうちあけ話
猫目小僧
その“癒し声”に嫉妬した。女性監督による死のドキュメンタリー
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女性監督が撮った作品に対して「女性らしい」と褒めるのはナンセンス。そうわかってはいるものの、『チーズとうじ虫』を観てしまうと、加藤治代監督の“女性らしさ”を賞賛せずにはいられない。彼女の鼻に抜けたやわらかい声といったら!
『チーズとうじ虫』は癌を患った母親の姿を追ったドキュメンタリーだ。監督は物静かな母親からコメントを引き出すために、カメラの背後から98分間絶え間なく話かける。その声は、まるでソバカスの天使が囁くように愛らしい。作品のなかで、監督が荒々しい声をあげたのは一箇所しかなかった(甥っ子が母親の遺体にイタズラをした時のみ)。
“死”という重たいテーマを描きながら、観ている私たちの興味を“母と娘のたわいない会話”、そして“気になる親子関係”へとシフトさせてしまうのは、加藤治代監督が「声」という天下の宝刀を持っているからかもしれない。
(三笠加奈子)
『チーズとうじ虫』
監督:加藤治代
出演:加藤直美、加藤治代、小林ふく
配給:「チーズとうじ虫」上映委員会
ポレポレ中野にてモーニング&レイトショー
http://chee-uji.com/frame.html |
高井清子 ★★★★
やっぱり三億円事件の犯人はお金が目的ではなかったのかも…見終わった後、そう思えてきた。それくらい、この昭和を代表する未解決事件の真相が女子高生の恋心だという突飛な発想も妙に納得がいくのである。世の中の一大事というのは、案外ほんのささいな出来心や偶然から生まれたものかもしれないし、真相が暴かれない裏には大きな権力が動いているのかもしれない。個人の小さな営みがブラックホールを生む世の中の複雑な不条理。突飛なようでいて実はこの世の急所を衝いているところが、愛くるしい瞳の奥に世の中の深い闇が見えてくるところが、面白い。もしかしたら未発見の三億円はうちの裏庭(事件の舞台の近く)に眠っているかも……私までもそんな幻想を抱いてしまった。 |
くぼまどか ★★★
こういう時代だった、こんな人たちがいた、こんなことをやっていた。という時代の日常の中にまったくの非日常を挿入してもそれは日常に埋もれてしまうんだなぁ、という見本のような作品。主人公を演じる宮崎あおいが映えたと思う。3億円事件という大それた犯罪を新しい解釈で、しかも抑えに抑えて表現していたのが、かえって新しい。でも自分自身が「その時代」をちょっとだけリアルで知っているからこそ、途中でメインキャストたちの結末が見えてしまったのが残念。しかもそのとき自分がどう思うのかまで想像ついてしまった。まったく自分の責任だけど、そんな理由から途中でしらけた。 |
舵芽衣子 ★
宮崎あおいの顔に頼り切っているのは情けない。吉永小百合や浅丘ルリ子の主演映画は女優の顔+ストーリー+演出だった。この映画は宮崎あおいの顔以外何もない。日本映画の企画の貧困さを物語っている。三億円事件を題材にした映画。しかも犯人は女子高生だと言う。突飛で面白そうだが、その題材で驚かせるには素材は古過ぎたと思う。若い観客を当て込んだのに彼らが事件そのものを知らないのだから話にならない。賞味期限切れ。あさま山荘事件のように事件の経過を庶民が知っているのでは無く三億円が盗まれたという事実しか知られていない不思議な事件。だったらいくらでも面白く脚色出来た筈。1時間以上若者のどうでもいい日常を見せられて、唐突に恋愛がらみで起こる三億円事件。宮崎あおいの声で犯行そのものが壊れるはず。若い女の白バイ警官に疑問を抱かない現金輸送車の運転手など地球上に存在しないだろう。こんな簡単に犯罪が成立したら今時の馬鹿女子高生が観て影響されてみんな真似したらどうするつもりなのだろう?ひたすら暗い青春ばかりが描かれるがその当時の映画はどうか?皆底抜けに明るいよ。そういう時代だったのだ、60年代は。 |
伊藤洋次 ★★★★
密航船に救助された少年サンドロ。その船で出会った不法移民の兄妹ラドゥとアリーナ……。移民問題を扱った社会派映画という点はもちろん、若い3人の人生が交錯する人間ドラマとしても見ごたえ十分だ。彼らに対するマルコ・トゥリオ・ジョルダーナ監督の眼差しは、とても鋭く温かい。そして映画のラストが、また良かった。サンドロは3ユーロのパニーニを1つ、アリーナのために買う。ラドゥは最後まで姿を見せない。3人の状況を端的に捉えた印象的な終わり方に、心が震えた。 |
団長 ★★★☆
タイトルのイメージからして爽やかな冒険物語かと思いましたが、とんでもない勘違いでした! 本来少年の持つべき輝かしい未来と、生きることへの厳しい現実のギャップ…見ていて何とも言えない痛々しい気持ちになりました。生きるとは一体どういうことなのでしょうか? 映画の中の現実は、日本に生きる我々にはわかりえないものですが、だからこそ人生を考える上で一石を投じるものになる気がします。いろいろ考えさせられました。 |
藤原ヒカル ★★★
「自分は何人として生まれるか?」人種差別とイタリア社会の持つもう1つの真実を残酷なほどリアルに描いた映画。裕福な家庭に生まれたサンドロ(マッテオ・ガドラ)は父親たちと地中海クルージングに出かけるが、真夜中に誤って大海へ転落してしまう。意識を失ったサンドロが次に目覚めたのは、不法移民がひしめく密航船の中だった。彼を救い上げた不法移民の1人であるラドゥと妹のアリーナとの出会いによって、サンドロは本当の意味で人生の複雑さを知るのだが……。喜びや絶望に葛藤しながらも成長していく少年の様子と、それに比例して除々に浮き彫りになる社会の側面、そして13歳の少年の不完全さと決して完結しない普遍のテーマを絶妙なバランスで絡めている、激しくも繊細な作品である。 |
波多野えり子 ★★★★
「28日後…」ではゾンビの街で生き残りを賭けて奔走する若者、「バットマン・ビギンズ」では人々の恐怖心を操る犯罪者スケアクロウ。そんなキリアン・マーフィが本作では人形みたいにおめめパッチリ健気なゲイの青年を演じる。これがやたら可愛い。1970年代IRAのテロ活動が激化する時代の中、キトゥンは生みの母を訪ねてロンドンへ。「♪人生いろいろ、男もいろいろ、女だ〜ってい〜ろいろ…」と唄いだしたくなるくらい、波乱万丈な出会いと別れを通じて成長していく。何があっても前だけを見よう、とにかく前進あるのみ!という超前向き精神。見習わねば。オープニングで流れる「Sugar Baby Love」と、クネクネと堂々と歩くキトゥンの姿が心に焼き付いた。 |
中沢志乃 ★★★☆
これは決してハッピーな物語ではない。と言うか、みなしごのゲイ、というだけでも人生ちょっと頑張らなくちゃなのに、よりによってIRA全盛のアイルランドに生まれたものだから主人公の人生、基本的には散々だ。キトゥンが楽しい空想に走るのも納得できる。それでも単に暗い話になっていないのは、自分の居場所を求めつつ、希望を失わない、人に好かれるキトゥンと、随所に散りばめられた笑い、そして音楽のおかげ。映画のラストショットは、人生の十字路を経て、なおまっすぐ続く道を表しているようで勇気が沸いた。まるで女の子そのものの表情を見事に見せてくれたキトゥンと子供時代のキトゥンにも脱帽! |
三笠加奈子 ★★★
主人公が脚本の1ページ目とまるで違うキャラクターに成長することを、ハリウッドの脚本用語で「キャラクター・アーク(Character Arc)」というらしい。そこで、この作品。オープニングとエンディングに流れる音楽、ルーベッツの『シュガー・ベイビー・ラヴ』が、最初と最後ではまるで違うニュアンスを響かせている。私はこの映画を観るまで『シュガー・ベイビー・ラヴ』を真夏のピーカンソングだと思っていたのだが……映画鑑賞後に撤回。サウンドの中に“人生の刹那”が詰まっていたのね!! |
悠木なつる ★★★
男女の微妙な感情の駆け引きがエロチックに、そしてある時はサスペンス的な要素を織り交ぜながら描かれている。予測不可能な展開に最後まで目が離せない。物語の進展とともに、ミステリアスで開放的な女性へと変貌していくサンドリーヌ・ボネール。気が付けば、可愛らしさと美しさを併せ持ったその魅力に引き込まれている。それにしても、ボネールが本作でタバコを吸うシーンは一体、何回登場しただろう! 禁煙中の方は観賞後、無性にタバコが吸いたくなるかも知れないのでご注意を。ファブリス・ルキーニが、ボネール演じるヒロインに気に入られようと、不器用に奔走する姿はまさにハマリ役。脇を固める個性溢れるキャラクターも要チェックだ。 |
りびんぐでいらいつ ★★★
映画的に作家主義的な物の方が良いとされる昨今。どうしても職人である事が軽視されがちなのが残念でならないルコントの新作は、これでもかというくらい職人気質に溢れた芳醇で濃厚な大人になりきれてない人のための大人の恋愛映画の佳作である。ただ職人技を見せつつも、きっちりといつものルコント節を決めてくれている所が毎度の事ながら嬉しい。しかし彼ならつい“もっと”を期待してしまう。なので、この点数。 |
河西春奈 ★★☆
物語は、ミステリー仕立ての大人の恋愛話。つまり、いつものルコントの作品と同じなのですが、今までの彼の作品とはズレ感じました。それは主人公の描きかたにある気がします。ルコント作品の主人公には、一歩間違えたらストーカーと呼ばれてしまいそうな、気が小さいけど一途な愛をささげる中年男性が出てきます。今回も同じ設定でありながら、その主人公にはあまり魅力を感じませんでした。いつものような繊細な眼差しと相手を受け入れる包容力が足らず、愛すべきキャラに昇華していなかったので、共感できなかったのかもしれません。映像も、手持ちで揺れが多く、それが非現実的な童話風に繋がっているのでしょうが、洗練された印象が足りませんでした。オチも、フランス映画らしいのですが、いまひとつ……。 |
カザビー ★★★★★
楳図かずお×井口昇最強コラボに怖いものなし。面白くて、ちょっと怖くて、素直に感動できるような昭和テイストなヒーローものってありそうでなかった。これは間違いなく名作になるだろう。実写困難な楳図ワールドを十分に理解して表現できる監督なんてそうはいない。しかし、楳図先生と同じく異形に対してこだわりを持つ井口監督ならそれが容易なのだ。 美少女の恐怖ポーズの徹底、肉玉というグロい物体の質感、猫目と子役のおちゃめさ、猫目ダンスなど見所満載!! 観た後に「グワシ!!」とやりたくなるほど大満足だった。 |
にしかわたく ★★★★
スカトロ、オーラルセックス、皮膚病フェチと、AV監督の顔も持つ監督・井口昇のコアな趣味を満載していながら、小学生でも見られるように作ってあるところが凄い。いや、むしろ小学生にすらバカにされそうな幼稚なノリである。300円くらいしかかかってなさそうな特撮も、CGに慣れた観客の目には逆に新 鮮に映る……ことを祈ろう。昭和の伝説となった超絶アナログ割り箸アニメ版『猫目』(夢中になって見てしまった)の伝統を、ある意味引き継いでいるとも 言える異端児的な一本となった。楳図かずお(チョー天才チョーチョー天才)作品の映像化がことごとく失敗に終わっているのは周知の事実だが、その中に あってこの『猫目』には合格点を与えたいと思う。よくがんばりました。 |
2006.7.25 掲載 |
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三笠加奈子 : 〆切1時間前になると集中力が俄然高まる逆境ライター。ファミリーレストランCOCO’Sで原稿を書き続け、ついに全メニューを制覇。今回は『プルートで朝食を』のレビューを「日替わりランチ(土曜)」を食べながら書かせて頂きました。
高井清子 : 1966年生まれ。企業勤めの後、ロンドン留学を経て、フリーの翻訳者に転身。映画の脚本やプログラムなどエンタテインメント関連の翻訳をする。今は韓流にどっぷりはまり、『韓国プラチナマガジン』にもレビューを寄稿している。
くぼまどか : 「人生すべてが経験値」をスローガンに、ピアニストからライターへと変身を遂げ、取材記事は元よりコラム・シナリオ、最近では創作活動にも手を染めつつあります。基本的に映画は何でも好きですが、ツボにはまると狂います。「ロード・オブ・ザ・リング王の帰還」封切りを観る目的だけでロンドンに飛んだのが自慢。
舵芽衣子 : シャンソン歌手。山田花子原作・鳥肌実、立島夕子、綾小路翔出演カルトムービー『魂のアソコ』監督。
伊藤洋次 : 1977年長野県生まれ。業界紙の会社員(営業)。メジャー映画はなるべく避け、単館系しかもアジア映画を中心に鑑賞。最近気になる監督は、廣末哲万・高橋 泉、園子温、深川栄洋、女池充など。
団長 : スーパーロックスター。メジャー契約なし、金なし、コネなしながら、来秋、日本武道館でライブを行う。ラジオDJ、本のソムリエ、講演、コラムニストなどとしても活躍中。大の甘党で“スイーツプリンス”の異名をとる。バンドHP http://www.ichirizuka.com
藤原ヒカル : オーストラリアの大学でジャーナリズムを学び、現地で新聞記者に。’05年8月に帰国してからは、“来るもの拒まず、去るもはちょっとだけ追う”のノン・ジャンル派ライターとして活動中。実は戦争・紛争、軍事、宗教、民族問題などを得意としており、そんな映画について記事を書くのが夢♪
波多野えり子 : 1979年元旦の翌日に東京・永福町にて誕生。映画好きかつ毒舌な家庭で育ち、「カサブランカ」からB級ホラー作品まで手広く鑑賞する日々を過ごしながら、現在編集者を志しているところ。最近は、まんまと韓国映画とドラマにハマっています。
中沢志乃 : 1972年5月8日、スイス生まれ。5年間、字幕制作に携わった後、2002年4月、映像翻訳者として独立。夢はもちろん世界一の映像翻訳者。現在、トゥーン・ディズニー・チャンネルで吹替翻訳を手がけた『X-メン』が絶賛放映中。7月12日、字幕翻訳をしたロドリゲス監督の『シャークボーイ&マグマガール3-D』発売。
悠木なつる : 映画と観劇をこよなく愛する、1973年生まれの独身女。安定していたOL生活をわざわざ手放し、現在、映画ライター見習い中。人生のモットーは「楽しく大胆不敵に」。でもその割には気が小さい。
りびんぐでいらいつ : ワケあってペンネームの神出鬼没で無自覚、無節操、無計画の気まぐれな駄文書きです。よろしく。
河西春奈 : 1979年東京都生まれ。編集者を経てシナリオライター、フォトグラファーとして活躍中。共同監督している西川文恵と作り、主演した映画「While you sleep」を、第59回ヴェネツィア国際映画祭に出品。他10か国でも上映される。
カザビー : 1978年生まれ。映画とお笑いをこよなく愛するOL。近況:先日、大好きな井筒監督にお会いできる機会に恵まれてヨコハマ映画祭のパンフにサインをしていただきました。現在『パッチギ』続編の脚本を執筆中とのこと。期待しています!!!
にしかわたく : 漫画、イラストの他、最近はフリペで映画コラムも。映画館は汚ければ汚いほど良い、が持論。5年後は印税生活で悠々自適、年の半分はアジア映画館巡りの旅をしている予定。映画イラストブログ「こんな映画に誰がした?」http://takunishi.exblog.jp/
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