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バックナンバー Vol.46

ナイロビの蜂
嫌われ松子の一生
グッドナイト&グッドラック

素晴らしき哉『柔道龍虎房』!素晴らしき哉ジョニー・トー! ■ ■ ■

『柔道龍虎房』。3度見て3度泣いた。この映画の中盤、交通事故にあったように突然、僕は涙を流し続けた。かつての柔道チャンピオンでアル中のシト・ポー(ルイス・クー)と芸能界デビューを夢見るシウモン(チェリー・イン)が賭場から逃げるシーン。賭金を持って走る悲壮的な場面な筈なのだが、ジョニー・トーはとんでもない演出を仕掛けてきた。走りながらシト・ポウが微笑む。そして効果抜群のBGMと2人のやり取り。この展開でまさか泣かされるとは思いもしなかった。しかも、自分がなんでこんなに泣いてるのかわからない。だけど、涙が次から次へとこぼれてくる。 決して泣きを狙った映画ではないにも関わらず、これほど感情を刺激するのはジョニー・トーの映画術が円熟期を迎えているからに違いない。

(松本トオル)
『柔道龍虎房』
監督:ジョニー・トー
出演:ルイス・クー アーロン・クォック チェリー・イン
配給:ステップ・バイ・ステップ & デックス・エンタテインメント
http://www.judo-ryukobo.com/

=1点、=0.5点。最高得点=5点
ナイロビの蜂

監督:フェルナンド・メイレレス
出演:レイフ・ファインズ 、レイチェル・ワイズ
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
http://www.nairobi.jp/
no picture

波多野えり子        ★★★★
 オスカー受賞を果たしたレイチェル・ワイズの体全体、心全体の熱演と、それを支えたレイフ・ファインズの熟成した魅力が良質な大人のドラマを作り出した。一途な信念で「何か」を追い求めて死に至った妻。彼女の足跡を順に辿ることで、夫は妻の心を知り、今さらながら、いや、やっとのこと二人の絆は文字通り永遠となる。しかし結末は少しほろ苦い。前作「シティ・オブ・ゴッド」で見せた大人の想像を絶する過酷なサバイバルに続き、フェルナンド・メイレレスは貧しい民たちのある現実を、再び映像を介して運んできた。銃を手にする少年たちの行動は何度見ても背筋が凍る。
にしかわたく         ★★★★
 飢餓や貧困、病気に苦しむアフリカ。それにハイエナのように群がる先進国の国際企業と、人道主義よりも経済論理を優先するイギリス政府。様々な問題提起がぎっちりと詰め込まれていて見えにくくなっているが、簡単に言ってしまうと、夫婦の後追い心中の話である。CMで江原某が言っていたみたいに、カップルで見に行って素直に泣ける類いの映画ではないが、見終わった後じわじわ来る。しかしよくもまぁ、あんな複雑な原作をこんなにわかりやすく2時間にまとめられたもんだ。ここらへんのお手並みはさすが傑作『シティ・オブ・ゴッド』(ブラジル版『仁義なき戦い』)を撮った監督だけのことはある。フェルナンド・メイレレス、次回作も期待していいと思う。
悠木なつる          ★★★
 衝撃的な事件の原因究明が静かに、そして力強く描かれている。ドキュメンタリータッチの映像が、問題を抱えるアフリカ住民の現実を観る者に訴えかけてくる。お互いの仕事に干渉しないと約束を交わしたジャスティンとテッサ。夫婦でありながら距離を保つことの難しさについて、改めて考えさせられた。原作者ジョン・ル・カレは、あくまで架空の物語だとしている一方で、製薬業界の現実に比べればおとなしいものだ、とコメントしている点が興味深い。壮大なスケールで描かれた上・下巻に及ぶ原作は、映画では語り尽くせなかった部分も多く、ただ圧倒されるばかり。登場人物が多く内容も複雑なので、映画を観てから原作を読むことをお薦めしたい。
中沢志乃           ★★★
 よくこんな題材を映画にできたな…と、観客に思わせてしまうであろう映画でした。大手製薬会社がアフリカの貧しい人々を半ば騙して治験を行い、ドル箱となる新薬を開発するため〜〜、といういかにも現実にあり得そうな陰謀。そして、妻の死をきっかけに、外交官である主人公がその闇の陰謀を暴きに出る…というストーリー展開。しかも、映画は恐らく原作に忠実に、派手なアクションもなく淡々と進む。でも、まあ、「外交官である主人公が…」という点が、「やっぱりフィクションよね」と思わせるけれど、その他の部分はかなりリアル。このストーリー、本で読んでいたら、更にどっぷりとハマり、しばらく現実にある話と普通に思い込んでしまっていたかもしれません。
重本絵実           ★★
 本作品は主人公が、妻が命と引き換えに暴こうとした政治の腐敗をつきとめ、同時に妻への愛を再確認する話である。第三国のどこかで今日も起きている類の事件を題材とする面白い試みではあるが、原作にも映画にも感心しなかった。映画は夫婦が初めて出会う講演会のシーンの緊迫感のなさが最後まで足を引っ張るし、原作はただただ冗漫な展開である。そして両作品共に妻の命懸けの行為の動機が最後まで不明であった。動機に触れない作品は私の批評外である。ただ一つ、拾い物がある。それはF・メイレレスが「シティ・オブ・ゴット」に負けない迫力で広大なアフリカの風景を巧みに切り取っていることである。


嫌われ松子の一生

監督:中島哲也
出演:中谷美紀、伊勢谷友介、瑛太
配給:東宝 
http://kiraware.goo.ne.jp/
no picture

りびんぐでいらいつ    ★★★★★
 小説版を愛して憎んだ一番の幸福な形が今回の映画版。愛とメルヘンの無自覚な暴走が愛おしくて狂おしい映画版と何処にでもいて何処にもいない普通の女性のやりきれない転落人生を切々と綴った小説版。はっきり言ってどちらもおススメの5つ星です。
団長             ★★★★☆
 愛とは一体なんでしょうか? 見終わった時に、否応ナシに考えさせられました。みんなに愛されていたのに、自分だけは誰にも愛されていない、と思い込み続けて終わった人生。全体にユーモアがあふれているので、あまり悲劇的には感じませんが、その意味は深いです。笑いごとでも何でもなく、誰の身にも起こり得ることです。見る人によって感じるものがかなり違うと思います。何とも余韻のある作品でした。全体の雰囲気やひねりの効いたギャグなど、見た目の部分だけでも楽しめました。
くぼまどか         ★★★☆
 物語にはかならず表と裏がある。でも、劇場公開映画という限られた時間の中では、良くも悪くも定点観測的な視点をはずすのは難しい。いつもちょっと気になっていたそんな部分を、さまざまな視点から丹念になぞった面白い試みの作品だったと思う。自分がリアルタイムで聴いたヒット曲がたくさん出てきたのもうれしい。ただ肝心のストーリー(原作?)があまり好きではなかったので、星3つ半になっちゃいました。
カザビー          ★★
 原作を読むと自分で勝手にキャスティングしてしまう癖がある。「下妻物語」の桃子役は自分の中ではゆうこりんだった。そんな事もあり今回は余計なイメージがつかないよう原作は後回しに。中島監督といえばCM業界出身でヴィジュアル先行型な人。CGも音楽もポップで良いのだけど、それが過剰で全体のバランスが悪い。もっと観たいシーンが早回しだったり、どーでもいいとこが長かったり・・・。テクニックに溺れると大事なものが軽視されて表面的なものになってしまうのだとつくづく思う。唯一良かったのは松子の親友で女社長役黒沢あすか。正にエロカッコイイ女!!!中谷美紀を食うほどの存在感と妖艶な演技力に魅せられてしまった。今後彼女には極妻的な役をやってほしいと切に願うところである。


グッドナイト&グッドラック

監督:ジョージ・クルーニー
出演:ジョージ・クルーニー、デヴィッド・ストラザーン
配給:東北新社 
http://www.goodnight-movie.jp/
no picture

伊藤洋次          ★★★★★
  ユーモアと機知に富んだ会話だけでも見応え十分だが、 それ以上に、主役のエド・マローを演じたデヴィッド・ストラ ザーンが素晴らしかった! 番組放送中のシーンなどで、 幾度となく彼の顔が画面いっぱいに写し出されるのだが、 その精かんで自信に満ちた顔は、どんなアイドル俳優の アップも及ばないほど。コメントの一言一句に強い信念が 込められ、見ている側にもそれがひしひしと伝わってくる。 また、報道の舞台裏もきっちりと描かれ、深みのあるドラ マに仕上がっていた点も高く評価したい。社会派映画の秀作!
河西春奈          ★★★★
 原作と映画のどっちのほうが面白かった? と聞かれたら、紛れもなく原作だと答えてしまう。原作を越える作品を作ることは難しいことであるし、本を読んで得たその人の想像力に勝るものはないのではないかと正直思ってしまう。とはいえ、原作を読んで得た他人の感想を覗き見するのは面白い。原作ものの映画を観るとき、私が楽しみにしているのはそこである。今回の「グッドナイ&グッドラック」は、1953年の共産党赤狩りに対し、真実の報道を追い求めたエド・マローを映画化したものだ。実際にあった事件の映画化は、監督自身がそれに見出したテーマが重要である。普通の映画はドキュメントを描くので精一杯になりがちなのだが、監督のジョージ・クルーニーはテーマを丁寧に描いていた。あらゆる情報を共有できる現代において、報道における仕事の基本のありかたを提示する素晴らしい映画! とにかくホワイトカラーの男性がこんなにかっこいい映画は久しぶりでした。
高井清子          ★★★☆
 いつの時代にも、勇気を持って社会と戦う人たちがいる。1950年代の米国の赤狩りに立ち向かったジャーナリストたちの精神は、そのまま今の世界にも必要とされるものだし、その必要性を感じてこの映画を作ったことに安堵を感じる。舞台をスタジオとその周辺に狭く絞ったことで、エド・マロー(主人公)を後押しする結束感と緊迫感は伝わる。でもジョージ・クルーニー監督らしいスマートさの陰で、やはりジャーナリズムにどこで大衆が見えているのか、その閉鎖性や陥りがちな危険性まで伝わってくるような気がした。
三笠加奈子        ★★★
 この映画を観る前に、『ストーリーアナリスト』(愛育社)という本を読んだ。ストーリーアナリストとは、ハリウッドに送られてくる脚本を最初に読み、その出来栄えに<推薦・考慮・却下>の評価をつける人たち。彼らは「読んだときに映像が浮かぶのが“良い脚本”だ」と説いている。そこで、今作『グッドナイト&グッドラック』の原作(脚本)だが……。正直、話に起伏がなくてつまらなかった。しかし、ストリーアナリストなら<推薦>に○をつけるかもしれない。というのも、主人公エド・マローの「中指にキャメルの煙草をはさみながらニュースを読む」描写はが強烈な印象を残すからだ。たしかに映画を観ると、狭いスタジオの中で紫煙をくゆらせる主人公の姿が映画のテイストを決定づけている。この映画は赤狩りの正否を論じてはいない。赤狩りに対抗する男達の“気骨”を描いているのだ。セリフの前後を飾る、俳優たちの眼差し、吐息、くゆる紫煙に注目したい。
鍵山直子         ★★☆
 レッド・パージ吹き荒れる1950年代アメリカで、赤狩りの首謀者マッカーシー上院議員と直接対決したCBSの花形ニュースキャスター、エド・マローと、彼の有能な部下マロー・ボーイズの半年間に渡る闘いの日々を淡々と描いたジョージ・クルーニーの入魂作。モノクローム映像、BGMもほとんどなし、抑制の効いた語り口でハードボイルドに演出。時折流れるダイアン・リーヴスのグルーミーなジャズ・ナンバーが、骨太なドラマの中に男のロマンチズムを匂わせる。知性と洗練を併せ持つ大人の映画ではあるのだが…隣のオッサンは高イビキで寝ていたっ。「赤狩り」とか「ジャーナリズム」とかって、日本人にはピンとこないテーマなのかも。


2006.6.27 掲載

著者プロフィール
松本トオル :  ねこと映画をこよなく愛す31歳・・・

波多野えり子 : 1979年元旦の翌日に東京・永福町にて誕生。映画好きかつ毒舌な家庭で育ち、「カサブランカ」からB級ホラー作品まで手広く鑑賞する日々を過ごしながら、現在編集者を志しているところ。最近は、まんまと韓国映画とドラマにハマっています。

にしかわたく :  漫画、イラストの他、最近はフリペで映画コラムも。映画館は汚ければ汚いほど良い、が持論。5年後は印税生活で悠々自適、年の半分はアジア映画館巡りの旅をしている予定。映画イラストブログ「こんな映画に誰がした?」http://takunishi.exblog.jp/

悠木なつる : 1973年生まれ。安定していたOL生活をあえて手放し、現在、映画ライター見習い中。肩書きから「見習い」を外すという目標を胸に、ジャンル問わず映画を観まくる日々。

中沢志乃 : 1972年5月8日、スイス生まれ。小学校時代に映画好きになり友達と劇を作る。一時は別の道を目指すもやはり映画関係の道へ。 5年間、字幕制作に携わった後、2002年4月、映像翻訳者として独立。夢はもちろん世界一の映像翻訳者です。代表作は「ユー・ガット・サーブド」(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)。

重本絵実 1981年名古屋市生まれ。この現実を生き抜くことに嫌気がさし、映画の世界に迷い込み早五年。もう抜けられません。ただ今のベスト・ワンは「天井桟敷の人々」と「浮雲」(成瀬巳喜男監督)です。

りびんぐでいらいつ : ワケあってペンネームの神出鬼没で無自覚、無節操、無計画の気まぐれな駄文書きです。よろしく。

団長 : スーパーロックスター。メジャー契約なし、金なし、コネなしながら、来秋、日本武道館でライブを行う。ラジオDJ、本のソムリエ、講演、コラムニストなどとしても活躍中。大の甘党で“スイーツプリンス”の異名をとる。バンドHP http://www.ichirizuka.com

くぼまどか : 「人生すべてが経験値」をスローガンに、ピアニストからライターへと変身を遂げ、取材記事は元よりコラム・シナリオ、最近では創作活動にも手を染めつつあります。基本的に映画は何でも好きですが、ツボにはまると狂います。「ロード・オブ・ザ・リング王の帰還」封切りを観る目的だけでロンドンに飛んだのが自慢。

カザビー : 1978年生まれ。映画とお笑いをこよなく愛するOL。近況:先日、大好きな井筒監督にお会いできる機会に恵まれてヨコハマ映画祭のパンフにサインをしていただきました。現在「パッチギ」続編の脚本を執筆中とのこと。期待してます!!!

伊藤洋次 : 1977年長野県生まれ。業界紙の会社員(営業)。メジャー映画はなるべく避け、単館系しかもアジア映画を中心に鑑賞。最近気になる監督は、廣末哲万・高橋 泉、園子温、深川栄洋、女池充など。

河西春奈 : 1979年東京都生まれ。編集者を経てシナリオライター、フォトグラファーとして活躍中。共同監督している西川文恵と作り、主演した映画「While you sleep」を、第59回ヴェネツィア国際映画祭に出品。他10か国でも上映される。

高井清子 : 1966年生まれ。企業勤めの後、ロンドン留学を経て、フリーの翻訳者に転身。映画の脚本やプログラムなどエンタテインメント関連の翻訳をする。今は韓流にどっぷりはまり、『韓国プラチナマガジン』にもレビューを寄稿している。

三笠加奈子 :  1978年生まれのフリーライター、訳して、「昭和53年に生まれた流浪の物書き」。この原稿がアップされる頃、ジーコ・ジャパンはどんな結果を残しているのか? 3戦全勝!?

鍵山直子 :  雑穀料理研究にいそしむ放送作家。日本初の雑穀雑誌『つぶつぶ』のライターもやってます。映画的お仕事は、ついに復活したテレビ東京系『シネマ通信』のケータイサイト。いろいろ書いてます。



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