波多野えり子 ★★★★
オスカー受賞を果たしたレイチェル・ワイズの体全体、心全体の熱演と、それを支えたレイフ・ファインズの熟成した魅力が良質な大人のドラマを作り出した。一途な信念で「何か」を追い求めて死に至った妻。彼女の足跡を順に辿ることで、夫は妻の心を知り、今さらながら、いや、やっとのこと二人の絆は文字通り永遠となる。しかし結末は少しほろ苦い。前作「シティ・オブ・ゴッド」で見せた大人の想像を絶する過酷なサバイバルに続き、フェルナンド・メイレレスは貧しい民たちのある現実を、再び映像を介して運んできた。銃を手にする少年たちの行動は何度見ても背筋が凍る。 |
にしかわたく ★★★★
飢餓や貧困、病気に苦しむアフリカ。それにハイエナのように群がる先進国の国際企業と、人道主義よりも経済論理を優先するイギリス政府。様々な問題提起がぎっちりと詰め込まれていて見えにくくなっているが、簡単に言ってしまうと、夫婦の後追い心中の話である。CMで江原某が言っていたみたいに、カップルで見に行って素直に泣ける類いの映画ではないが、見終わった後じわじわ来る。しかしよくもまぁ、あんな複雑な原作をこんなにわかりやすく2時間にまとめられたもんだ。ここらへんのお手並みはさすが傑作『シティ・オブ・ゴッド』(ブラジル版『仁義なき戦い』)を撮った監督だけのことはある。フェルナンド・メイレレス、次回作も期待していいと思う。 |
悠木なつる ★★★
衝撃的な事件の原因究明が静かに、そして力強く描かれている。ドキュメンタリータッチの映像が、問題を抱えるアフリカ住民の現実を観る者に訴えかけてくる。お互いの仕事に干渉しないと約束を交わしたジャスティンとテッサ。夫婦でありながら距離を保つことの難しさについて、改めて考えさせられた。原作者ジョン・ル・カレは、あくまで架空の物語だとしている一方で、製薬業界の現実に比べればおとなしいものだ、とコメントしている点が興味深い。壮大なスケールで描かれた上・下巻に及ぶ原作は、映画では語り尽くせなかった部分も多く、ただ圧倒されるばかり。登場人物が多く内容も複雑なので、映画を観てから原作を読むことをお薦めしたい。 |
中沢志乃 ★★★
よくこんな題材を映画にできたな…と、観客に思わせてしまうであろう映画でした。大手製薬会社がアフリカの貧しい人々を半ば騙して治験を行い、ドル箱となる新薬を開発するため〜〜、といういかにも現実にあり得そうな陰謀。そして、妻の死をきっかけに、外交官である主人公がその闇の陰謀を暴きに出る…というストーリー展開。しかも、映画は恐らく原作に忠実に、派手なアクションもなく淡々と進む。でも、まあ、「外交官である主人公が…」という点が、「やっぱりフィクションよね」と思わせるけれど、その他の部分はかなりリアル。このストーリー、本で読んでいたら、更にどっぷりとハマり、しばらく現実にある話と普通に思い込んでしまっていたかもしれません。 |
重本絵実 ★★
本作品は主人公が、妻が命と引き換えに暴こうとした政治の腐敗をつきとめ、同時に妻への愛を再確認する話である。第三国のどこかで今日も起きている類の事件を題材とする面白い試みではあるが、原作にも映画にも感心しなかった。映画は夫婦が初めて出会う講演会のシーンの緊迫感のなさが最後まで足を引っ張るし、原作はただただ冗漫な展開である。そして両作品共に妻の命懸けの行為の動機が最後まで不明であった。動機に触れない作品は私の批評外である。ただ一つ、拾い物がある。それはF・メイレレスが「シティ・オブ・ゴット」に負けない迫力で広大なアフリカの風景を巧みに切り取っていることである。 |
伊藤洋次 ★★★★★
ユーモアと機知に富んだ会話だけでも見応え十分だが、
それ以上に、主役のエド・マローを演じたデヴィッド・ストラ
ザーンが素晴らしかった! 番組放送中のシーンなどで、
幾度となく彼の顔が画面いっぱいに写し出されるのだが、
その精かんで自信に満ちた顔は、どんなアイドル俳優の
アップも及ばないほど。コメントの一言一句に強い信念が
込められ、見ている側にもそれがひしひしと伝わってくる。
また、報道の舞台裏もきっちりと描かれ、深みのあるドラ
マに仕上がっていた点も高く評価したい。社会派映画の秀作! |
河西春奈 ★★★★
原作と映画のどっちのほうが面白かった? と聞かれたら、紛れもなく原作だと答えてしまう。原作を越える作品を作ることは難しいことであるし、本を読んで得たその人の想像力に勝るものはないのではないかと正直思ってしまう。とはいえ、原作を読んで得た他人の感想を覗き見するのは面白い。原作ものの映画を観るとき、私が楽しみにしているのはそこである。今回の「グッドナイ&グッドラック」は、1953年の共産党赤狩りに対し、真実の報道を追い求めたエド・マローを映画化したものだ。実際にあった事件の映画化は、監督自身がそれに見出したテーマが重要である。普通の映画はドキュメントを描くので精一杯になりがちなのだが、監督のジョージ・クルーニーはテーマを丁寧に描いていた。あらゆる情報を共有できる現代において、報道における仕事の基本のありかたを提示する素晴らしい映画! とにかくホワイトカラーの男性がこんなにかっこいい映画は久しぶりでした。 |
高井清子 ★★★☆
いつの時代にも、勇気を持って社会と戦う人たちがいる。1950年代の米国の赤狩りに立ち向かったジャーナリストたちの精神は、そのまま今の世界にも必要とされるものだし、その必要性を感じてこの映画を作ったことに安堵を感じる。舞台をスタジオとその周辺に狭く絞ったことで、エド・マロー(主人公)を後押しする結束感と緊迫感は伝わる。でもジョージ・クルーニー監督らしいスマートさの陰で、やはりジャーナリズムにどこで大衆が見えているのか、その閉鎖性や陥りがちな危険性まで伝わってくるような気がした。 |
三笠加奈子 ★★★
この映画を観る前に、『ストーリーアナリスト』(愛育社)という本を読んだ。ストーリーアナリストとは、ハリウッドに送られてくる脚本を最初に読み、その出来栄えに<推薦・考慮・却下>の評価をつける人たち。彼らは「読んだときに映像が浮かぶのが“良い脚本”だ」と説いている。そこで、今作『グッドナイト&グッドラック』の原作(脚本)だが……。正直、話に起伏がなくてつまらなかった。しかし、ストリーアナリストなら<推薦>に○をつけるかもしれない。というのも、主人公エド・マローの「中指にキャメルの煙草をはさみながらニュースを読む」描写はが強烈な印象を残すからだ。たしかに映画を観ると、狭いスタジオの中で紫煙をくゆらせる主人公の姿が映画のテイストを決定づけている。この映画は赤狩りの正否を論じてはいない。赤狩りに対抗する男達の“気骨”を描いているのだ。セリフの前後を飾る、俳優たちの眼差し、吐息、くゆる紫煙に注目したい。 |
鍵山直子 ★★☆
レッド・パージ吹き荒れる1950年代アメリカで、赤狩りの首謀者マッカーシー上院議員と直接対決したCBSの花形ニュースキャスター、エド・マローと、彼の有能な部下マロー・ボーイズの半年間に渡る闘いの日々を淡々と描いたジョージ・クルーニーの入魂作。モノクローム映像、BGMもほとんどなし、抑制の効いた語り口でハードボイルドに演出。時折流れるダイアン・リーヴスのグルーミーなジャズ・ナンバーが、骨太なドラマの中に男のロマンチズムを匂わせる。知性と洗練を併せ持つ大人の映画ではあるのだが…隣のオッサンは高イビキで寝ていたっ。「赤狩り」とか「ジャーナリズム」とかって、日本人にはピンとこないテーマなのかも。 |