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バックナンバー Vol.45

クライング・フィスト
ぼくを葬る
ブロークン・フラワーズ

これぞアニメの真骨頂!?
リアルの対極、デフォルメされた絵とストーリーがイイ
■ ■ ■

2006年4月、新宿と吉祥寺のミニシアターで開催された「チェコアニメ映画祭2006」。1950年代後半から2000年に至るまでの秀作を一挙上映、アニメファンならずとも見逃せない企画でした。
 私は日本のアニメが好きじゃないんですよ。だって日本のアニメって、ゲームなどもそうですが、絵がものすごく美しくて細かくてリアル。でも「絵」って、あくまでひとの心象風景の表現でしょう。リアリティを追求しているつもりでも、結局は個人の心象風景の表現でしかない。他人の心象風景をそんなに克明に克明に描写されても、「クドイ」だけなんですけど。私的には。
  さて話は変わって、チェコアニメの面白さは、極端にデフォルメされた、リアルの対極にある「絵」と、アイロニーにあふれたストーリーにあると思います。チェコはずっと「表現の自由」が規制されていた国。こういう国では、ハッキリものを言うとコワイことになってしまうので、何かに託して表現しているため一見わかりづらい。この“わかりづらい部分”を、頭でなくココロで感じるのが、楽しみ方のポイント?
  と、ちょっと小難しいことを言いましたが、動物の絵とか、人形の実写アニメとか、「デフォルメ」の表現がとっても可愛いらしく、独特の芸術性にあふれ、見ているだけでもとっても楽しい。子どもの頃見た絵本をそのまま動かしたみたいな懐かしい味わい。そして、その可愛さの中に隠れる意外な奥深さがイイのです。

(小松玲子)

=1点、=0.5点。最高得点=5点
クライング・フィスト

監督:リュ・スンワン
出演:チェ・ミンシク、リュ・スンボム
配給:東芝エンタテインメント
http://www.crying-fist.com/
クライング・フィスト

くぼまどか          ★★★★☆
 ここまでベタに熱い、家族の愛情ドラマを久しぶりに見た。生きるために人を傷つけたり、また傷ついたりする暗さと恐怖、そしてばかばかしさを、なんのてらいもなく真正面からがっぷり四つで表現し尽くしたのは、さすが韓国映画。しかし、この作品で一番「生身」を感じる“殴られ屋”のシーンのモデルが日本人・晴留屋明氏であることは、特筆されるべきであろう。この「実話」が重要なエピソードに盛り込まれたからこその躍動感が高ポイント。ラストシーンは泣いた。鬼の目にも涙。
団長             ★★★★☆
予想をはるかに超える素晴らしい作品でした。中年と若者の二人の社会的落伍者が、それぞれの家族への想いを背負って、本気でトレーニングを積み、リングで闘う。人生を諦めずに再び立ち上がろうとするその姿に、生きるエネルギーをいただきました。両者が、中年=円熟の技術、若者=パワー、それぞれの持ち味で勝負していたのも、とても好感が持てました。試合に勝利した若者がおばぁさんの元に駆け寄り抱き合うシーンでは、思わず涙がこぼれました。ふと隣りを見ると、そこに座っていた見知らぬ中年男性も熱い涙を流していました(笑)。
カザビー           ★★★★
 亀田3兄弟の異常人気。ボクシングに全く興味がなかった私でさえも夢中になっています。彼らの最大の魅力は、なんといってもバカがつくぐらいの「まっすぐさ」と「ハングリー精神」。この作品にもそれが感じられ、男のドラマに胸が熱くなってしまいました。失うものはもう何もないし自分にはボクシングしかない、どん底まで落ちた男のパワーってのは尋常じゃないんですね。少年院に送られた不良少年と落ちぶれたボクサーのガチンコ勝負は本物以上!! 真剣に試合をしているから絵的には地味でつまらないものかもしれません。けれども両者がこのリングに上がるまでの想いが痛いぐらいに伝わってきて泣けてきます。熱い、熱すぎますよ!! 何にも感じなくなってしまった現代人に渇を入れてくれる一本です。


ぼくを葬る

監督:フランソワ・オゾン
出演:メルヴィル・プポー、ジャンヌ・モロー
配給:ギャガ・コミュニケーションズ Gシネマグループ
http://www.bokuoku.jp/
no picture

波多野えり子       ★★★★
 端正な容姿、フォトグラファー、愛すべきパートナーとの暮らし。ロラン(メルヴィル・プポー)はかなり恵まれた男盛りの31歳だ。そんな彼に告げられた余命3カ月という事実。当然困惑するし、その不安と恐怖は想像もつかない。もしも自分の親しい誰かが余命わずかと知らされたら?宣告された事実の意味は理解できても全く現実味がない。無力感でどうしようもなくなって、毎日が不安でたまらなくなる。だから、ロランは誰にも言わなかった。たった一人、祖母(ジャンヌ・モロー)を除いて。とても強い人だ。そして、家族のため、恋人のため、ある夫婦のため、皆の幸せのためにできることを、自分らしいやり方で一つひとつ確実に果たしていく。限られた時にこそ、人は正しいことは何なのか、確実に判断して実行に移せるのかもしれない。ラスト、海辺での静寂は、悲しみというよりも、むしろ安堵に満ちていた。ロランの写すカメラのファインダーを通じて、オゾン監督が映すこの世界は、とても美しかった。
三笠加奈子         ★★★
 美しいものが腐っていく様をみんなで見届ける映画。死を迎えるメリヴィル・プポーが美しい。フランソワ・オゾン監督が黒澤明の『生きる』を観ていたかどうかわからないが、黒澤が死の瀬戸際で「何かを残そう」とする男を描いたのに対し、今作のメルヴィル・プポーは「それが何になる」と思い出作りを拒否する。第一線で活躍するフォトグラファーだった彼が、死の宣告を受けてから一眼レフを小さなデジタルカメラに持ち替え、愛する女性を撮り続けるのは意味深い。その撮った写真を最後まで観客に見せない演出は本当にニクイ。この映画は海辺のシーンではじまり、途中たくさんの女性(「海」はフランス語で女性名詞)の愛につつまれ、最後は海辺のシーンで終わる。エンドロールを最後まで見終えても「Fin(終わり)」の文字は出てこない。静かな波の音とともに、男の身体は母なる海へと回帰していく……。
高井清子          ★★★
 自分の余命が残り少ないと言われたら、人はどこに向かうのだろう。ここぞとばかりに家族の修復を図り、美しい大団円を求めるのは出来すぎなのだろうか。本作の場合、それとは異なる方向で、祖母との交流、恋人への揺れる想い、子供時代への慈しみ……死に向かう主人公の変移の断片々々は、自分の死と生を受容する一例として納得がいく。でも痛々しいほど心を揺さぶられることがなかったのは、自分の子どもを残そうとする主人公の「本能」に対する反発なのか、実感できないだけなのか、想像するしかない私の健康な今が原因かもしれない。


ブロークン・フラワーズ

監督:ジム・ジャームッシュ
出演:ビル・マーレイ、ジェフリー・ライト
配給:キネティック、東京テアトル
http://www.brokenflowers.jp/
ブロークン・フラワーズ

悠木なつる        ★★★★
 「自分がいまどこで何をやっているかわからなくなってきた」というドン・ジョンストンの台詞が作品の方向性を象徴しているようで印象的だ。ビル・マーレイの演技は始終、淡々としているが、ちょっとした表情の動きで心境の変化を表してしまうあたりはさすが! 20年前に付き合っていた個性溢れる女性たちとの再会は、予測不能で見応えたっぷり。手紙の差出人は一体誰なのか、スクリーンに映し出されるヒントを頼りに想像を膨らませていると、いつの間にか自分もドンの旅に便乗しているかのような気分になる。ウイットと哀愁の軽妙なバランス、洗練されつつも独創的なカメラワーク等、様々な角度からジム・ジャームッシュワールドを堪能したい。
伊藤洋次         ★★★☆
 突然届いたピンクの手紙。そこには「あなたの息子がもうすぐ19歳になります……」。この唐突な滑り出しからして、実に味わいのある作品に仕上げてしまうジム・ジャームッシュ監督のセンスは見事。「これが謎を解くヒントですよ」とわざとらしく(?)示される場面が多くあり、「むむ、もしかしたら差出人はこの女性…?」と見る側はついつい引き込まれてしまいます。最後に登場した車の青年は誰?とかなり気になりましたが、パンフレットの解説を読んでようやく納得。改めて笑いが込み上げてきました。
中沢志乃         ★★★
 昔の恋人とその旦那に挟まれて気まずい雰囲気の食卓。ニンジンを5、6切れ、フォークで串刺しにして食べてみる。必要以上に味わっているフリをしてみる。分かる、分かる。この状況、ギャグにしなくてはやってられない。自分に18歳の息子がいると分かったとたん、世の全ての青年が息子かと思えてしまう。うーん、分かるっ!そして、笑える。ジム・ジャームッシュの作品を見るのは4本目の今回。毎度毎度、「?」という気持ちで映画を見終えるのだが、もしかして彼は何気ない日常のポイントに注目して人間の心の動きを描きたいのかしら、と今回はちょっとだけ自分なりに映画が理解できた気がした。そんな風に思えたのは主役のビル・マーレイのおかげ! 彼の絶妙な演技は最高です。


2006.5.25 掲載

著者プロフィール
小松玲子 :  1970年生まれ。雑誌・新聞を中心にフリーライターとして活動中。わが心のベストシネマは『さらば我が愛〜覇王別姫』。作家になったら、ああゆう愛憎ものが書けるようになりたい。売れっ子ライター目指して、現在まだ夢の途中。

くぼまどか : 「人生すべてが経験値」をスローガンに、ピアニストからライターへと変身を遂げ、取材記事は元よりコラム・シナリオ、最近では創作活動にも手を染めつつあります。基本的に映画は何でも好きですが、ツボにはまると狂います。「ロード・オブ・ザ・リング王の帰還」封切りを観る目的だけでロンドンに飛んだのが自慢。

団長 : スーパーロックスター。メジャー契約なし、金なし、コネなしながら、来秋、日本武道館でライブを行う。ラジオDJ、本のソムリエ、講演、コラムニストなどとしても活躍中。大の甘党で“スイーツプリンス”の異名をとる。バンドHP http://www.ichirizuka.com

カザビー : 1978年生まれ。映画とお笑いをこよなく愛するOL。近況:先日、大好きな井筒監督にお会いできる機会に恵まれてヨコハマ映画祭のパンフにサインをしていただきました。現在「パッチギ」続編の脚本を執筆中とのこと。期待してます!!!

波多野えり子 : 1979年元旦の翌日に東京・永福町にて誕生。映画好きかつ毒舌な家庭で育ち、「カサブランカ」からB級ホラー作品まで手広く鑑賞する日々を過ごしながら、現在編集者を志しているところ。最近は、まんまと韓国映画とドラマにハマっています。

三笠加奈子 : 集英社『週刊プレイボーイ』で映画にまつわる新連載をはじめました。内容は、いつも書いているブログの延長のようなもの。毒を吐きまくっています。

高井清子 : 1966年生まれ。企業勤めの後、ロンドン留学を経て、フリーの翻訳者に転身。映画の脚本やプログラムなどエンタテインメント関連の翻訳をする。今は韓流にどっぷりはまり、『韓国プラチナマガジン』にもレビューを寄稿している。

悠木なつる : 映画と観劇をこよなく愛する、1973年生まれの独身女。安定していたOL生活をわざわざ手放し、現在、映画ライター見習い中。人生のモットーは「楽しく大胆不敵に」。でもその割には気が小さい。

中沢志乃 : 1972年5月8日、スイス生まれ。小学校時代に映画好きになり友達と劇を作る。一時は別の道を目指すもやはり映画関係の道へ。 5年間、字幕制作に携わった後、2002年4月、映像翻訳者として独立。夢はもちろん世界一の映像翻訳者です。代表作は「ユー・ガット・サーブド」(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)。

伊藤洋次 : 1977年長野県生まれ。業界紙の会社員(営業)。メジャー映画はなるべく避け、単館系しかもアジア映画を中心に鑑賞。最近気になる監督は、廣末哲万・高橋 泉、園子温、深川栄洋、女池充など。



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