高井清子 ★★★★
数年前に脚本を読んだときから、「ガラスの箱」のイメージが残っていた。それは登場人物一人ひとりの心であり、そんな心が寄り集まった彼らの人間関係もまた、ガラスの板が寄りかかっているように、どこか一角を押すともろくも崩れそうな危うさを内包している。心に開いた穴を埋める術がわからず、一番理解し、愛しているのに、傷つけ合ってしまう父と母。壊れたガラスの破片は、純真無垢な子供たちに鋭利な刃を向ける。ひとりの青年はその刃を受けながら、大人へと成長していくが、彼の訪れでひとつの家族は分解する。そんな人間の悲しい性が、やはりガラスの透明感と同時に不透明感を感じさせる色と、適度な緊張感のあるどこか硬質な質感で、美しく切なく描かれていた。 |
松本透 ★★★★
そのドアを開けると髪の毛が一瞬にして白くなる。その先には、他人には理解できない本当の苦しみや哀しみがうずまいているからだ。それが、ドア・イン・ザ・フロア。書生とのセックスに溺れようとする人妻、ヌードモデルとの不倫を続ける人気作家の夫。2人はお互いのドアの奥にあるものを知り共有している。しかし2人の人生は、別々の道を進みはじめる。同じドアを持っているからこそ、2人は一緒に生きられないのだ。すごく控えめに言って、こんなに悲しいことってないんじゃないだろうか。でも本当は、同じドアを開けて、違うものを観ていたのかもしれない。 |
山本聡子 ★★★
アーヴィングの小説の冒頭部のみを映画化した本作品、悲しみに沈む人妻を演じたキム・ベイシンガーの演技が秀逸でした。何も変わっていないように見えても、実は刻一刻と変化している人の心を、感情を抑えた地味な演技で表現。原作では、主人公の女の子がおばあさんになるまでストーリーは続くので、尻切れトンボの感じは否めなかったけれど、とても味わい深く楽しめました。終わり方もよかったです。平凡な日常の中に潜むドラマを淡々と綴るような、アーヴィングの小説がかもし出す雰囲気は、見事に映像化されていたと思います。 |
にしかわたく ★☆
ジョン・アーヴィング原作ものは、新作が来るとファンとして一応見に行くことにしてますが、今回はいただけませんでした。原作好きも満足する映画化って確かに難しいけど、成功してる作品がないわけではないですからね。小説にしろ戯曲にしろ、映画に翻案するときは、土台を全部ぶちこわして一から作り上げるくらいの勇気とエネルギーが必要だと思います。アーヴィングの映画化で僕が満足してるのは『ガープの世界』と『ホテル・ニューハンプシャー』だけですが、この2本は確実に「監督の映画」になってました。こんなぬるい映画に行くくらいだったら、家で『北京原人』のビデオでも見てたほうがましでごんす! |