日本映画ファンを自称するようになって20年以上になる筆者だが、数年に1本くらいのペースで「なんじゃこりゃー!」と思わず叫びたくなる映画に出くわすことがある。
思えばそんな作品に最初に出くわしたのが『幻の湖』という映画だった。
1982年9月――。未見の方のために解説させていただくと、これは“東宝創立50周年記念作品”として製作された、紛れもないメジャーの大作映画で、 多くの黒澤映画や『砂の器』『八甲田山』などで知られる名シナリオライター、橋本忍監督作品…と、ここまでは良いのだが、
キャストはと言えば主演が南條玲子という当時としてはワケもわからん新人女優で、共演が『影武者』(80年)でブレイク(?)した隆大介、 そしてNHKの朝ドラ『なっちゃんの写真館』で茶の間の人気を得たばかりの星野知子…。どう見ても超大作のキャストじゃねえよなぁって思いきや、
驚くのはそれだけではなかった。
単純に言えば、愛犬とジョギングすることを生き甲斐とするソープ嬢(なんちゅうヒロインじゃ!?)が、何者かに愛犬を惨殺されその復讐に立ち上がるという話。
ところがその舞台となる湖には戦国時代からの“怨念”がひそんでいるという強引な設定が絡み、映画は壮大な歴史因縁物語へ突入。 これが実に長くすっかり時代劇の気分にさせられたかと思いきや舞台は再び現代に戻り、そこでは正体不明のアメリカ諜報部員が登場し、
果てはNASAにまで発展するという時空を超えたぶっ飛びよう。もちろんヒロインは最後に愛犬の復讐も果たすのだが、 あまりに展開がぶっ飛びすぎてそんな話もうどうでもいいやって、結局筆者はワケのわからんまま映画館を出た。ちなみに上映時間2時間44分…この長さももはや“怨念”である。
時を経て2005年6月――。いつしかその記憶も筆者の脳裏からほぼ消え去っていたが、“湖の怨念”がポレポレ東中野でよみがえろうとは…。 “新感覚のミステリーホラー”と銘打たれたその映画を筆者は何の予備知識もなく観た。主人公は幼いころに湖で溺れたことが原因でそれ以前の記憶を失っている女性。
その女性が失われた過去を取り戻すべくその湖を訪れる。そしてそこには彼女と同じ時期に湖で溺れて記憶を失っている人間がいたことが判明するが、 何故かいずれの事故も死者は出ていない。
確かにここまではミステリーであり、ヒロインの背後にどこかホラーめいたものも感じさせる。が、後半になるにつれヒロインの過去などどうでもよくなり、 物語は湖の秘密へと徹底的に向けられるのである。そしてそこに存在したのは宇宙の入り口!? というこれまたぶっ飛んだ解釈と、
そこに再び吸い寄せられていく当時の事故被害者たち…。その時に筆者の脳裏に23年前の『幻の湖』がよみがえっていたことは言うまでもない。
そしてその映画『誰が心にも龍は眠る』を見終わった時、筆者の心には『幻の湖』が眠っていたことに気づかされた。 もしかして、この映画は20年以上前なら超大作になってたかも知れない。いや、これは超大作として作るべき映画だったのだろう。
そうなれば21世紀の『幻の湖』になっていたに違いない。そんなくだらんことを考えながら、20年後またどこかで“湖の怨念”はよみがえるのだろうか…? という期待と不安にかられ、映画館を後にした筆者だった…まぁどうでもいい話ですね(苦笑)
(中村勝則)
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