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バックナンバー Vol.35

電車男
おわらない物語/アビバの場合
フォーガットン

湖の怨念…それは23年前の『幻の湖』からはじまる!?  
〜『誰が心にも龍は眠る』〜
■ ■ ■

日本映画ファンを自称するようになって20年以上になる筆者だが、数年に1本くらいのペースで「なんじゃこりゃー!」と思わず叫びたくなる映画に出くわすことがある。 思えばそんな作品に最初に出くわしたのが『幻の湖』という映画だった。

1982年9月――。未見の方のために解説させていただくと、これは“東宝創立50周年記念作品”として製作された、紛れもないメジャーの大作映画で、 多くの黒澤映画や『砂の器』『八甲田山』などで知られる名シナリオライター、橋本忍監督作品…と、ここまでは良いのだが、 キャストはと言えば主演が南條玲子という当時としてはワケもわからん新人女優で、共演が『影武者』(80年)でブレイク(?)した隆大介、 そしてNHKの朝ドラ『なっちゃんの写真館』で茶の間の人気を得たばかりの星野知子…。どう見ても超大作のキャストじゃねえよなぁって思いきや、 驚くのはそれだけではなかった。

単純に言えば、愛犬とジョギングすることを生き甲斐とするソープ嬢(なんちゅうヒロインじゃ!?)が、何者かに愛犬を惨殺されその復讐に立ち上がるという話。 ところがその舞台となる湖には戦国時代からの“怨念”がひそんでいるという強引な設定が絡み、映画は壮大な歴史因縁物語へ突入。 これが実に長くすっかり時代劇の気分にさせられたかと思いきや舞台は再び現代に戻り、そこでは正体不明のアメリカ諜報部員が登場し、 果てはNASAにまで発展するという時空を超えたぶっ飛びよう。もちろんヒロインは最後に愛犬の復讐も果たすのだが、 あまりに展開がぶっ飛びすぎてそんな話もうどうでもいいやって、結局筆者はワケのわからんまま映画館を出た。ちなみに上映時間2時間44分…この長さももはや“怨念”である。

時を経て2005年6月――。いつしかその記憶も筆者の脳裏からほぼ消え去っていたが、“湖の怨念”がポレポレ東中野でよみがえろうとは…。 “新感覚のミステリーホラー”と銘打たれたその映画を筆者は何の予備知識もなく観た。主人公は幼いころに湖で溺れたことが原因でそれ以前の記憶を失っている女性。 その女性が失われた過去を取り戻すべくその湖を訪れる。そしてそこには彼女と同じ時期に湖で溺れて記憶を失っている人間がいたことが判明するが、 何故かいずれの事故も死者は出ていない。

確かにここまではミステリーであり、ヒロインの背後にどこかホラーめいたものも感じさせる。が、後半になるにつれヒロインの過去などどうでもよくなり、 物語は湖の秘密へと徹底的に向けられるのである。そしてそこに存在したのは宇宙の入り口!? というこれまたぶっ飛んだ解釈と、 そこに再び吸い寄せられていく当時の事故被害者たち…。その時に筆者の脳裏に23年前の『幻の湖』がよみがえっていたことは言うまでもない。

そしてその映画『誰が心にも龍は眠る』を見終わった時、筆者の心には『幻の湖』が眠っていたことに気づかされた。 もしかして、この映画は20年以上前なら超大作になってたかも知れない。いや、これは超大作として作るべき映画だったのだろう。 そうなれば21世紀の『幻の湖』になっていたに違いない。そんなくだらんことを考えながら、20年後またどこかで“湖の怨念”はよみがえるのだろうか…?  という期待と不安にかられ、映画館を後にした筆者だった…まぁどうでもいい話ですね(苦笑)  

(中村勝則)

=1点、=0.5点。最高得点=5点
電車男

監督:村上正典
出演:山田孝之、中谷美紀
配給:東宝
http://www.nifty.com/denshaotoko/
no picture

くぼまどか     ★★★☆
 ネットの「まつり」はいつも寡黙、どんなに騒ごうと所詮は小さな箱の中の文字群に過ぎない。 キタ━━(゜∀゜)━━ッ!!の向こう側にいる人間を具現化したらどうなるのか、事の真偽はさておいて面白い試みだと思った。 ストーリーは単純に「夢見がちな男女の可愛い恋愛話」なので、怖いもの見たさで行くと拍子抜けかも。 しかし「電車男」の明解なオタク的危なさより、中谷美紀扮する「エルメス」の、純粋なのか男慣れしているのか分からないエキセントリックな雰囲気には始終ドキドキ、 これが一番ナゾだなぁ。いつか豹変しそう!
山内愛美     ★★★
 映画館は若いカップルばかりで、いちいち大ウケ。「キターーー!!!」などなど、2ちゃんねるに書き込まれた言葉を声に出してしゃべるとこんなにおもしろくなるのか!  特に電車男の書き込みを 見守る3人組の男たちが、まるでコミック漫画のようで楽しい。電車男を応援する人々を見ている と、例え匿名掲示板の書き込みであれ、 頑張ろうという気持ちになる。そういう意味では電車男が羨ましく、なんだか自分もあれぐらい盛大に人に励まされてみたくなった。 前半はテンポが良く楽しめたが、後半はずるずるした感じでちょっと飽きた。
三笠加奈子    ★★★
 秋葉原系のオタク君が、一流商社のOLと結ばれる「ありえねー」お話。エルメスこと、中谷美紀が演じるパーフェクトな帰国子女も、 フィギア好きだけど心は優しい山田孝之も、ネットの掲示板に慰めを求める看護婦の国仲涼子も。 どれもこれもステレオタイプのキャラをなぞっていて、現実には「ありえねー」タイプの人間です。フジテレビって、NHKの次に典型キャラをなぞるのが好きだよな・・。 アンチ写実主義。いやいや、でも、往年の「月曜ドラマランド」を見ているようで、懐かしい気分に浸れました。80年代好きにはオススメ!


おわらない物語/アビバの場合

監督:トッド・ソロンズ
出演:エレン・バーキン、スティーブン・アドリー・ギアギス
配給:アルバトロス・フィルム 
http://www.aviva-movie.com/ (公開劇場情報はこちら)
おわらない物語/アビバの場合

伊藤洋次    ★★★★
 どのように物語が進んでいくのか、なかなか予想がつきにくい。しかし、そこに 面白さと魅力がある映画だった。「アビバ」という主人公の少女を異なる8人が演じているため、見ていてやや分かりにくいという指摘はごもっとも。 ただ、もしこの演出がなかったら、平凡で退屈な映画になっていたと思う。演じる8人は人種も体格も年齢もまったく違うのだが、違和感なく見ることができ、演出の上手さを実感。 アビバ以外のキャラクターも一人ひとりが面白く、楽しめた。こういう映画の作り方もあるのかあ、と新鮮な感覚だった。
カザビー     ★★★★
 トッド・ソロンズ作品を観ることは苦行だ。いきなり『ウェルカム・ドールハウス』のいじめられっ娘ドーンのお葬式がオープニングだし・・・。 あれから彼女の人生は変わることなく自殺という形で終了してしまうとは、察しがつくがなんだか後味が悪い。 今回もなにもここまでしなくてもいいのにと思えるような不条理で厳しいシーンが続き、決して好転することがない。 観ていてツライのは、自分自身や社会の闇に対して目をそむけているからなのかもしれない。それらを直視することは重要なわけで、本作はあらゆる局面で観客に問いかけ迫ってくる。 この苦行に耐えられたのはアビバのまっすぐでひたむきな愛情があったからこそ。どのアビバ(1役を8人の役者が演じている。)も純粋で海のように大きな愛をみせてくれる。 これを希望の光だと信じたい。万人受けはしないけれども修行だと思って観ていただきたい作品。そしてカーディガンズのニーナがテーマ曲を歌っているのもポイント高し。 カーディガンズファンは是非!


フォーガットン

監督:ジョセフ・ルーベン
出演:ジュリアン・ムーア、ドミニク・ウェスト
配給:UIP 
http://www.forgotten.jp/index02.html
no picture

三笠加奈子    ★★★★
 息子の死から立ち直れない母親。ある日、家族で撮った写真を見ると、息子の姿だけが消えていて・・・・。説明のつかない現象、次々に襲い掛かる恐怖、孤独なヒロイン。 どれもこれもシリアス要素満点ですが。犯人の正体がわかった途端、ズッコケました。いや、それよりも、犯人の正体を暴いた者全員にくだれる“あの罰”。 気づいた瞬間にドピューンとくだされる“あの罰”。私を含め、後ろに座っていた女子大生数人が笑いをこらえるのに必死でした。この監督のセンス、大好きです。
松本透       ★★
 チャイルド・ロスの重たい話と思いきや、スペクタルもヘッタクレもない誇大妄想映画。 庶民のあずかり知らないところで、なんか得体の知れない存在が人類を支配してるらしく、ジュリアン・ムーア演じるお母さんが、 真実を探り当てると言えば聞こえはいいが・・・ 見てる側は「なんじゃこりゃ」の連発で、劇場で高らかに笑う僕の笑い声が響いていました。 結局得体の知れない存在は得体のしれないまま終わること、人間が突然宙(そら)に吸い込まれていく様はある意味画期的だが、 唯一息を飲んでスクリーンにクギ付けになったのは、ジュリアン様のTバック姿。かくしてタイトルに反してこの映画は、ジュリアン様のTバック姿を拝尻した映画として、 記憶の片隅にメモリーされたのでした。


シネ達日誌
イラスト 『埋もれ木』〜小栗康平は、映画が商業性を求めるあまり、わかりやすい方向にばかり向かっていることをよく思っていない。 その思いが、<言葉>より<映像>を優先したこの映画にはよく表れている。小栗康平はブニュエルやフェリーニ、鈴木清順に近づきつつある。 次がまた楽しみになった。(古東久人)

2005.7.25 掲載

著者プロフィール
中村勝則 : 1967年、岡山県生まれ。ヨコハマ映画祭選考委員。90年「キネマ旬報」で映画ライターデビュー。日本映画を中心に、VシネマやTVドラマの批評や取材記事を執筆。この夏オススメの日本映画は『魁!!クロマティ高校 THE☆MOVIE』。原作漫画にもハマッてる今日この頃です。

くぼまどか : 「人生すべてが経験値」をスローガンに、ピアニストからライターへと変身を遂げ、取材記事は元よりコラム・シナリオ、最近では創作活動にも手を染めつつあります。基本的に映画は何でも好きですが、ツボにはまると狂います。「ロード・オブ・ザ・リング王の帰還」封切りを観る目的だけでロンドンに飛んだのが自慢。

山内愛美 : 千葉県生まれ。Webでライター活動を行う。一番好きな寝具は毛布。2004年、映画『交渉人 真下正義』のエキストラに参加したのをきっかけに、映画ライターの道を考えるようになる。「映画の助監督をやっている人間」に特に興味を惹かれ、いつか助監督に関する本を作るのが夢。

三笠加奈子 :  ライター。拙書『友達より深く楽しむ 外国映画の歩き方』『マンガで楽しむ旧約聖書』『マンガで楽しむ新約聖書』販売中!

伊藤洋次 :  1977年、長野県生まれ。専門紙の会社員(営業)。メジャー映画はなるべく避け、単館系しかもアジア映画を中心に鑑賞。映画を観て涙したことが一度しかないため、現在は泣ける映画を探索中。

カザビー :  1978年生まれ。映画とお笑いをこよなく愛するOL。近況:フランス映画祭のサイン会でなんと憧れのセドリック・クラピッシュ監督と「ロシアンドールズ」のウェンディ役ケリー・ライリーに会えました。緊張していたもののキティちゃんを手渡すことに成功しました。他にも「ルーヴルの怪人」や今年9月公開ロマン・デュリス主演「ルパン」のジャン=ポール・サロメ監督にもサインしてもらったので大興奮でした。

松本透 :  1974年生まれ。ネコ大好き。泡盛大好き。福岡ホークス頑張れ。サッカー日本代表頑張れ。田臥勇太のNBAデビューに落涙。強烈な映画体験求む!!現在は、なんやかんやとフリーランスな僕です。

古東久人 :  1959年生まれ。1980年代にキネ旬常連投稿から映画ライターへ。 映画雑誌に執筆。編著「相米慎二・映画の断章」(芳賀書店)。 生涯のベストはブニュエルの「皆殺しの天使」と長谷川和彦の「太陽を盗んだ男」。mixiネームは、Dr.コトー。


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