松本透 ★★★★★
「少年たちの心の中では戦争が起きているんです」。14歳の少年が殺人事件を起こした時、河合隼雄が言った言葉だ。
12歳の光一と由希の中でも戦争が火吹いている。光一の敵は祖父。そんな彼が手にするのは、マイナスドライバー。
一方、由希には戦争の相手がわからないでいる。光一は、確かな殺意を持ちマイナスドライバーを砥ぎ続ける。
ただ、この映画が描いたのは、カルト教団によるテロ事件を起こした社会だ。光一のマイナスドライバーは、祖父に向けられているのはなく、
今の社会に向けられている。だからこそ、光一が祖父に語る言葉が、とんでもない重みを持つ。そして、ラスト。
これは、希望なのだろうか。それとも・・・。答えが何であろうとも、歩き続けるしかないのだ。マイナスドライバーを手にすることなく、手を取りあって。 |
中村勝則 ★★★☆
洗脳されること…それは人間にとって不幸なのか、それとも幸福なのか? この映画を観てそんなことがふっと頭をよぎった。
映画の教団が“オウム真理教”であることは明白だが、教団に洗脳されているはずの主人公・光一(石田法嗣)の視点が極めて純粋そのものだからだ。
教団は彼にとって唯一の“居場所”だったのである。光一は母と妹と引き離されながらも、いつかまた一緒に暮らせることだけを信じてひたすら疾走する。
そして光一と共に疾走する少女・由希(谷村美月)の存在感が、彼をより際立たせる。
しかし教団の崩壊によって“居場所”を奪われた光一を待ち受けていたのは、伊沢(西島秀俊)ら信者の脱退、母(甲田益也子)の自殺、
祖父(品川徹)の引き取り拒否といった、いわば“大人たちの裏切り”だ。そんな絶望的状況でありながらも疾走するしかない光一の姿は実にせつない。
ラストで妹を取り戻し、初めて生き生きとした表情を見せる光一に、希望の兆しが見えるのが唯一の救いか!? |
伊藤洋次 ★★★☆
光一がずっと持ち続けていた1本のドライバーと、由希が口ずさむ「銀色の道」。映画の中でこの2つの使い方が効果的だった。
また、西島秀俊の演技が秀逸で、彼の光一に向けた言葉にはぐっときた(もし彼の役柄を主人公にした『カナリア2』があれば見てみたい)。
塩田監督が子どもたちを描いた作品としては『どこまでもいこう』や『害虫』があるが、以前と比べて作風の変化を感じる。
次第にその視点は鋭くなり、進化していると思う。今後、どんな映画を撮るか楽しみだ。
ラスト、家族の平和を取り戻した主人公の心の雄叫びも、心から拍手を送りたくなるのだ。 |
カザビー ★★
カルト教団の少年と援交している少女が出会い、旅に出る。前半はその設定が面白くて惹きこまれた。
しかし、そんな重い題材を扱ってる割りにはそれぞれが中途半端で薄っぺらい。クライマックスでは少年の身体に異変が起こるのだが、
思わずそれはないだろとツッコミを入れてしまった。そこで一気に冷めてしまい・・・。
キャスティングは完璧なのにもったいないことするなぁ。エンディングテーマのZAZEN BOYS「自問自答」も映像と全く合わずがっかり。
少女役谷村美月のいきいきとした大阪弁だけが印象に残る作品だった。 |