伊藤洋次 ★★★★★
じわじわと心に効く映画。この映画のパンフレットで監督自身が書いているように、決してリアルな映画ではない。 でも、登場人物の心情やその変化はまぎれもなくリアルだった。
ふわふわと綿ぼうしが浮いているようでありながら、一方でどこか鋼のような硬く、細い線がまっすぐ貫いている感覚。 坂本龍一の音楽、脱色したフィルムが映し出す映像から、そんな感覚をおぼえた。広川泰士のカメラも絶妙のアングル。
ビデオ&DVD派の方には申し訳ないが、絶対に映画館で見てほしい作品。スクリーンでこの映画の空気を感じてほしい。 |
松本透 ★★★★
透明感と喪失感を漂わせたナレーション、一音一音が感情に響いてくるピアノ曲、全体的に体温の低い映像で、見ているものに孤独感を共有させる秀作である。 そう、テーマは孤独。その孤独には二つある。一つが「一人である孤独」。もう一つは「喪失からくる孤独」。
そして孤独に直面した人には、「孤独を回避する人」、「孤独に寄り添う人」の2種類がいる。 トニー滝谷は、「一人である孤独」には自分自身を馴染ませながらも、美しい伴侶を得ることで克服した。
だが、その後訪れる「喪失からくる孤独」には、適応できたのだろか? それとも…。 原作には無かった印象的なラストがその答えなのだが、それがどちらなのかは観客の判断に委ねられている。 |
山本聡子 ★★★★
締め付けられるように寂しい映画。画面の中の、澄んだ空気がスクリーンを通して観客席までやってくるような、そんな美しい映画です。 ゆっくりと流れる時間の中では一秒がとても重くて、一瞬たりとも逃さないようにと見入ってしまった。
大好きな短編小説を、一行一行大切に読む至福の時間のように。羽のついたようにふわふわとした美女と、無口で黙々と絵を描く中年男。 一見不釣合いに見える2人の優しい時間がとても素敵でした。
今は隣にいない、愛する人との思い出だけが残っている空間に、自分だけがいなくちゃいけない時が一番悲しいですよね。広い空が印象的でした。 |
タカイキヨコ ★★★★
触れられそうで、でも手は届かない。それはここで描かれる人と人との関係であったり、このスクリーンと観客との関係であったり。 とにかくそんな切ない距離感を感じさせられる世界が、ストーリーはもとより、遠くを感じさせるカメラアングル、あせた色調、
演じ手とナレーションが交錯する言葉等々…作品全体で見事に体現されている。 そのどこか吹き抜ける風を感じさせる硬質な空気感に浸っていたからこそ、映画オリジナルのラストが人間の「体温」を伝えてくる気がした。
人と出逢うことの喜びを噛みしめるために、人はどれだけ涙を流すのだろう。 |