バックナンバー Vol.29
ヴィタール
スーパーサイズ・ミー
ブエノスアイレスの夜
監修:にしかわたく
キレイなだけじゃないぜ「カレル・ゼマン」 |
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実写の人物と書き割り、パペットや切絵アニメなどを混在させた、ユニークな作品の数々。 とりわけ年末から公開されている「ほら男爵の冒険」は劇場初公開、なかなか観ることが出来なかった幻の作品。
もしカレル・ゼマン未経験であれば、一度位はぜひぜひ。良質の絵本を眺めるような美しい世界が堪能できますよ。
ところで、ゼマンの良さはビジュアル的な素晴らしさだけじゃありません。スチールからは分かりづらいけど、ユーモアが散りばめられています。 というか基本的にコメディですね。その中でも特に、個人的なツボがあります。うまく説明できないけど「ビミョウなヘンテコさ」とでもいうか。
前後のカットとは脈絡の無さそうなカットが唐突に挟まっていたり、理由の分からないちょっとした動きが入っていたり。 しかし「アート」を主張するような尖がった表現でもなく。意味不明だけどなんだか可笑しいんです。爆笑ではないけどクスッと笑うような。
例えるなら、赤ちゃんに「ベロベロバー!」と言って笑わせるような感覚かな? ・・・ちょっと違うか。
やはり、観る人(特に子供たち?)を楽しませようという想いがそれだけ強かったのではないでしょうか。 作品の端々のちょっとした部分にもゼマンの人柄が現れている気がします。そんなとこが、また好きなんですよね。
(林太朗・CGアニメーター)
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松本透 星とりなし
「一人の人間と一人の人間がお互いを切実に求め合う姿」が発光し、激しい映像と強烈な重低音が襲ってくる。 記憶を失った男が死んだ彼女の身体を解剖し、彼女との逢瀬を重ねるというグロテスク・ロマンティック。彼岸での彼女の舞踏、彼女との会話、交わり。
神々しいほどの映像が展開され、役者の演技の高まりと呼応しフイルムに神が宿る瞬間を感じる。そしてやってくる本当の別れ。 全てがオリジナルな塚本ワールドが身体に侵入し、気が付けば涙を流してしまう。
このサイトの趣旨に反しますが、僕にはこの映画を星取りで評価することは出来ません。最高の映画です。 |
伊藤洋次 ★★★★☆
塚本晋也監督の作品の中では、かなりおとなしい方では、と思う。しかし映画が進むにつれて、深く映画にのめり込んだ。 「解剖」という科学的なテーマを扱いながら、そこに描かれているのは、人の感情や恋愛、生き方といった至極あいまいで儚(はかな)いもの。
その対比とバランスが、この映画を面白いと思った理由のひとつだ。 さらに降り続く雨や薄暗い解剖室、解剖の緻密なスケッチなど、映画の魅力と雰囲気を引き立てていて見事だった
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タカイキヨコ ★★★★
おそらく今も世界中のあちこちで、数限りなく人の体が解剖されているだろう。単なる研究の対象物として。 でもそこに記憶や思いが加わると、モノでしかなかった人体は、命と同じ重さで人に働きかけてくる。その肉体を愛おしく思う男。その肉体に嫉妬する女。
その生きている感情を通して、何かが欠けていた男と女は、本当の意味で息を吹き返していく。そしてその肉体が最後にモノに帰っていくことにホッとする私。 色やラインを巧みに使ったスタイリッシュな映像とともに人体の不思議ワールドを巡り、ラストの瞬間、ゾクゾクと鳥肌が立った。 |
カザビー ★★★★
人体解剖の映画だからといって、気持ち悪いと敬遠しないでほしいです。これは最上級の塚本式ラブストーリーでものすごくせつないんですよ。 Coccoのエンディング曲も素晴らしいですし。きっと塚本作品の初心者も上級者も満足できると思います。
あと「人体の不思議展」に行ってから観ると面白さ倍増なんでお勧めします。 |
三笠加奈子 ★★★★
1日3食30日間マックを食べ続けたら、人はどうなるか? というありそうでなかった実験ドキュメンタリ。 日本ならダチョウ倶楽部をモルモットに1時間ぐらいのバラエティ番組で完結しそうなテーマですが、そこは栄えあるアカデミー賞をムーアに贈る国アメリカ。
ひとかじりのチキンナゲットから現代アメリカの病巣面白いくらいに暴いてくれました。 しかもこの映画、マックの危険性以上にニューヨークに住む恋人達の日常生活が垣間見れて面白い(生唾ゴクリ…)。
私のような下世話な女にとっては、実験の結果うんねんよりも、モーガン監督の恋人の作る特製野菜ピザや、彼女の作る穏やかな生活空間に目を奪われました。 たぶんこの作品、『ボウリング…』や『華氏911』と比較されるかと思いますが"、恋人"という登場人物は、ムーア作品にはありえない画期的演出でしょう。
いいねぇ、あの彼女。 |
カザビー ★★★
一ヶ月三食マックを食べるという電波少年のような企画。監督自らが被験者となって撮っているので男気を感じました。 マイケル・ムーア作品のような感じで楽しく観れたものの、あのてんこ盛りのスーパーサイズに胸やけがしました・・・。
鑑賞後、マックに駆け込んでしまうか!?、それとも食べたくなくなるか!?自分がどちらのタイプか確かめてみてはいかがでしょうか? |
松本透 ★★
監督が実験者であり被験者という設定は面白いが、この映画は証明のための証明だ。実験結果は予想の範囲内であり、情報的な新鮮さに欠ける。 ただ、この映画を日本にフィードバックすると、郊外のマクドナルドで昼時に最も多い客が、子連れの主婦達だということに思い当たる。
現在の親世代はマックに対する抵抗が小さい上、セット価格の低下、遊具やおまけの充実から子連れで行けるレストランとしてマックは定着している。 日本ではアメリカのような肥満は発生しにくいとしても、コンビニ弁当と複合する形で、日本人の健康問題に強い影響を与えるのではないだろうか?
などと4日連続で通った吉野家で考えたりするのでした。 |
中沢志乃 ★★★★
「どうなるの?え、これ、どうするの?」と、とにかく先が読めない映画。 アルゼンチン軍事クーデーターの際、拷問され、その後遺症で人と触れ合うことができないカルメンと売り出し中の若いモデル、グスタボ。
2人が出会い、なんとなく惹かれ合うところから再び悲劇が始まる…。ゆっくりとしたテンポの中、映画に引き込まれ、 悲劇の後にカルメンが言ったセリフに拍手喝采!「そんなに悪い結末じゃないわ」。
ハッピーエンドではないけれど、かけがえのない存在を手に入れ、再び人の温もりを感じられたカルメン。 生きていれば必ずいいことがある-昔読んだ漫画のセリフを思い出し、頷いた。お薦めです。 |
松本透 ★★★☆
変態的なプラトニック恋愛映画と思いきや、簡単にやっちゃって、実は近親相姦だったというオチがついて来た。 ただ、この映画のポイントは、近親相姦がわかった後に二人が母と息子という仮面をつけて生きていこうとする微妙な距離感を見せていることだ。
ただ、最初から近親とわかっていて肉体関係を持ち、その後も白々しく親子関係を続けるという設定の方が、寒々しさは格段に上ではないかと思ってしまう。 個人的にはどんなに思いを寄せても変態的なプラトニックを通す女性を見たかった気が・・・ |
山本聡子 ★★
人の性癖には色々あるが、"声"に感じてしまうのがカルメン。そして、そのステキな声の主がガエル・ガルシア・ベルナル演じる男娼グスターボなわけです。 触れ合うことのない官能シーンの後、訪れる真実と悲劇・・・。発想は面白いのですが、なにかが足りない。
二人が恋に落ちる過程や、カルメンの深い心の傷や政治的背景などが説得力を持って伝わってこないんです。素材は良いのに活かせてない料理のような・・・。 陳腐な昼メロのラブストーリーを見ている感じは拭えなかった。カルメンは最後に言う。「そんなに悪い結末じゃないわ」と。そうかあー??? |
鍵山直子 ★★
『オール・アバウト・マイ・マザー』のセシリア・ロスがラテンの貴公子ガエル・ガルシア・ベルナルと20歳の年の差を越えて、 韓流ファンもビックリの仰天宿命愛に落ちる…。しかも二人の愛のバックボーンには、
軍事政権下のアルゼンチンで行われていた人民の拉致監禁・虐待・大量虐殺の歴史的悲劇があるという仕掛け。 ロスが演じるのは、虐待のトラウマがモトで男性との肉体的接触が一切できなくなってしまった哀しき中年女性。
映画には彼女の変態チックな自慰シーンや、ガエル君との禁断ベッド・シーンなど、センセーショナルな要素がてんこ盛り。 しかし彼女の背負った痛みを描くのに、これら変態チックなシーンがいったいどれ程の意味を成すのか?
宣伝のための話題作りのようで、ロスの体を張った演技も虚しく映った。だがしかし!美しいガエル君が中年女の腕に抱かれる姿…。 これはオバサン心をくすぐる図であった。ヨン様〜と絶叫するオバサマのように、ガエルく?んと絶叫したくなる自分…。
アルゼンチンに場を置き換えた韓流ドラマだと思えば、けっこう楽しめる映画かも。 |
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シネ達日誌
シネ達の新年会に私と同じ元旦生まれの映画評論家、塩田時敏氏が初来会。塩田氏といえば、かつて『噂の真相』に連載していた「骨太映画時評」が有名。 現在はゆうばり国際ファンタスティック映画祭のプログラミングディレクターも務めています。
2次会のカラオケでは「ゼブラーマンの歌」やハイロウズの「日曜日よりの使者」などを披露してくれました。 映画「カタクリ家の幸福」でも歌っているだけあって声量があります。
最近は三池崇史作品で俳優としても活躍中ですが、塩田氏の新作は「妖怪大戦争」で、なんと妖怪役とのこと。今から楽しみ!(古東久人) |
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林太朗 : CGアニメーター。一日中パソコンの前に座ってチクチクCGをやってますが、ほんとはコマ撮りアニメとかの方が断然好き。最近は動態視力まで落ちてきたのか、動きの激しい映画を大画面で観ると目がチカチカします。
松本透 : 1974年生まれ。ネコ大好き。泡盛大好き。福岡ホークス頑張れ。サッカー日本代表頑張れ。田臥勇太のNBAデビューに落涙。強烈な映画体験求む!!現在は、なんやかんやとフリーランスな僕です。
伊藤洋次 : 1977年、長野県生まれ。専門紙の会社員(営業)。メジャー映画はなるべく避け、単館系しかもアジア映画を中心に鑑賞。映画を観て涙したことが一度しかないため、現在は泣ける映画を探索中。
タカイキヨコ : 1966年愛媛県生まれ。企業勤めの後、1年間のロンドン遊学を経て、フリーの翻訳者に転身。映画のプログラムなどエンタテインメント関連の翻訳をしています。ストレート・プレイ、ミュージカル、バレエ、歌舞伎などの観劇も大好き。
カザビー : 1978年生まれ。映画とお笑いをこよなく愛するOL。好きな監督は周防正行、矢口史靖、SABU、ペドロ・アルモドバル、セドリック・クラピッシュなど。今年、嬉しかった出来事は矢口監督からサインをもらったことと、田口トモロヲ監督「アイデン&ティティ」のエキストラに参加したことです。
三笠加奈子 : 1978年、食事の美味しい富岡産婦人科で生まれる。映画とタバコ厳禁の10代を送ったので、20代は反動のシネマ生活に。会いたい芸能人は『完全なる飼育』の小島聖ちゃん。そうそう、私の職業はライター。「キネマ旬報」5月下旬号で『パッション』について執筆。著書『友達より深く楽しむ外国映画の歩き方』(こう書房)。
中沢志乃 : 1972年5月8日、スイス生まれ。小学校時代に映画好きになり友達と劇を作る。一時は別の道を目指すもやはり映画関係の道へ。 5年間、字幕制作に携わった後、2002年4月、映像翻訳者として独立。夢はもちろん世界一の映像翻訳者です。代表作は「ユー・ガット・サーブド」(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)。
山本聡子 : 1973年生まれ。2年前に脱OLして編集者を志す。現在は自然の中を歩く本などを製作中。都会の喧騒に疲れると、吸い込まれるように映画館に行く。
見るのはアメリカ映画よりもヨーロッパ映画が多い。映画も男もラテン系が好きです。
鍵山直子 : テレビ&FMラジオの構成作家。現在、i-modeとauの携帯サイトで『シネマ通信』、ボーダフォンで『シネマ・エキスプレス』を担当中。
遅れてきたヒュー・グラント・ファンです。
古東久人 : 1959年生まれ。交通新聞社勤務。キューブリックで映画に目覚め、1980年代にキネ旬常連投稿から映画ライターへ。 「キネマ旬報」「フリックス」などの映画雑誌に執筆。編著は「相米慎二・映画の断章」(芳賀書店)。
生涯のベスト1はブニュエルの「皆殺しの天使」と長谷川和彦の「太陽を盗んだ男」。
にしかわたく : 漫画とイラスト描いて暮らしてます。映画好きが高じて現在『季刊ロゼッターストーン』に「でんぐり映画館」連載中。 映画とコーラとポップコーンがあれば基本的に幸せ。「飲食禁止のスノッブ映画館を打倒する会」主宰(嘘)。
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