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バックナンバー Vol.27

モーターサイクル・ダイアリーズ
みんな誰かの愛しい人
春夏秋冬そして春

号泣ブームもいいけど、次はみんなで笑いましょうよ
〜第17回東京国際映画祭レポート〜
■ ■ ■
 今年の東京国際映画祭は〈アジアの風〉部門として、アジア各国の最新映画の上映が倍増。 特別招待作品やコンペティションも含め、アジア文化を濃密に堪能してきた。印象に残ったのは、今勢いのある韓国の2人の監督のコメント。 失恋の原因究明のため女の子が元カレたちを訪ね、ハプニングを巻き起こすラブコメディ「Sダイアリー」クォン・ジョンクァン監督と、 極真空手の創始者・大山倍達をモデルにした同名人気漫画が原作の「風のファイター」ヤン・ユノ監督、それぞれ質疑応答の場で「韓国よりも笑い声が少なかった。 面白いと思ってもらえたのでしょうか?」と逆質問が出た。
 今年、日本では泣ける映画・ドラマ・本が大流行。確かに映画館で泣く人は多くても、声を出して大笑いする人って少ないなー。 でも、作り手にとって、大勢の観客の反応を自分の目で見ることは、著名な批評家以上にわかりやすい評価なのでは?映画を見て笑う。あるいは泣く。 映画館で私たちが喜怒哀楽を明示した方が、もっと幅広いジャンルで面白い作品が生まれるのかも。
(波多野えり子)
=1点、=0.5点。最高得点=5点
モーターサイクル・ダイアリーズ

監督:ウォルター・サレス
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、ロドリゴ・デ・ラ・セルナ
配給:日本ヘラルド映画
http://www.herald.co.jp/official/m_cycle_diaries/
モーターサイクル・ダイアリーズ

伊藤洋次    ★★★★☆
 すぐにでも旅に出たい気分にさせられる、いい映画でした。観終わった後、展示されていた南米の地図を見ながら、しばし余韻にひたってしまうほど。 ラスト近く、ゲバラの誕生日を祝うシーンは、その辺のドキュメンタリーを超えるくらい自然な表情が撮れていて感動! 主人公を演じたガエル・ガルシア・ベルナルも実直な性格のゲバラを好演。 モノクロ写真のようなカットを入れるところや、最後の終わり方には少し不満はありますが、さわやかな気持ちになれる作品です。
山本聡子    ★★★★☆
 久々にすがすがしい映画を見た。放浪好きな私にとって、この映画はとても旅情をそそる。ひとつの旅が人生を変えることもある。 ゲバラはこの旅の4年後、ヨットでカストロとキューバに上陸する時にメスを武器に持ち替えることになるが、 革命家の小さな萌芽はこの旅で生まれたのかもしれない。それとこの映画、カメラワークがとてもいい。ローアングルから映された南米の大地はとても広大。 土地の住民を出演させたためか、出会う人々の表情も素朴で自然。今すぐ南米旅行に出発したくなった。そして、なんといってもガエル君ですよ。 アモーレスペロスのワイルドな今風の若者や、背徳のアマロ神父もいいけれど、今回も最高にかっこよかった!志高き若き日のゲバラを生き生きと演じきっていた。 これからもラテン映画にこだわって出演してほしいな。
にしかわたく  ★★★☆
 永遠の青年・レッドフォードが製作っちゅーことで隅から隅まで青臭い映画でしたが、個人的にラテンアメリカが好きなのと、 主演のガエル・ガルシア・ベルナルのファンなのとでちょっとじんと来ました。ガエル君の目はいつ見てもキラキラしているけど、 本物のゲバラってさらにかわいい目をしているんだよなぁ。多分本物はガエル君以上にモテたと思います。 このウォルター・サレスって監督は「セントラル・ステーション」を撮った人なんですが、次回作は「仄暗い水の底から」のリメイクだそうで。 いろんな意味で大丈夫なのか?


みんな誰かの愛しい人

監督:アニエス・ジャウイ
出演:マリルー・ペリ、アニエス・ジャウイ
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
http://www.gaga.ne.jp/dare-ai/
みんな誰かの愛しい人

鍵山直子   
 ★★★★
 人間臭いダメ・キャラたちが織り成す、ジャウイお得意の人間劇場。ドラマティックな展開もなく、日常的エピソードの積み重ねだけで、 ここまでコクとキレのあるドラマを作り上げるなんて!紋切り型でないハッピー・エンドにも大満足。
中沢志乃    ★★★★
 人気作家の父エチエンヌと広末涼子をかなり太らせた感じの娘ロリータ、それにその周囲の人々の複雑な人間関係。 前半はその関係が淡々と描かれていて、正直、飽きそうになった。ところがクライマックス。ロリータの歌の発表会のシーンで感想は一変。 なるほど、今までの流れは全てこのワンシーンのためにあったんだ、と納得した。 娘から父親への届かない想い。どんなに綺麗な歌声を届けようと頑張っても、父親は聞いてくれない。そして悲しみは時に、人を芸術的に飛躍させる。 …なんて思ってたら、最後はびっくり、どんでん返し。でもハッピーエンドだからいっか、満足!って感じでした。
伊藤洋次    ★★★
 個性豊かなキャラクター6人が繰り広げる軽妙なストーリー。有名作家の父と娘、お互いに近づきそうで近づけない、理解できそうで理解できない・・・。 それぞれの意見や気持ちのズレを丁寧に描きながら、ラストでうまくまとめていて楽しめました。それにしても気になったのは、6人以外の登場人物の面々。 冒頭のタクシー運転手に始まり、歌のレッスンの生徒まで、一見普通そうに見えるものの、 こちらもひとクセありそうな人ばかりでとても興味をそそられる存在でした。


春夏秋冬そして春

監督:キム・ギドク
出演:オ・ヨンス、キム・ジョンホ
配給:エスピーオー
http://www.kimki-duk.jp/spring/mainframe.html

伊藤洋次    ★★☆
 この作品はロケーションの勝利。こんなに見事な景色の場所があることにまず感動。そしてその四季のうつろいも見事。 さらに子どもがヘビを全く恐れずにもてあそんだり、鶏で舟を引き寄せたり、猫の尻尾でお経を書いたりなど、 それぞれのシーンは鋭さと渋さと滑稽さがうまく表現されていました。…と、ほめ言葉を並べたものの全体としては散漫な感じ。 一つひとつのエピソードは面白いのですが、それらが線としてつながっていない印象だったのが少し残念です。
鍵山直子    ★★
 フランス人ならZENだよ!ZEN!と大喜びしそうな、ブッディズム香る人生訓映画。幻想的で神々しい風景。 人の一生を四季になぞらえた知的構成。懐深い作品には違いない。しかし退屈と言えば退屈。どこか説教臭いのも気になった…のだが。
タカイキヨコ   ★★
 私もほぼ人生の半ばまで歩んできて、多少は人生の悲喜交々も味わってきたし、四季に例えた人生の流れを楽しみに席に着いたが、 私には正直あまり響いてこなかった。私がまだまだ未熟ということなのか。仏教の人生観には大いに共感するも、この寺での教えは「目には目を」的に映ったし、 〈冬〉の場面での主人公の行動はキリストの贖罪と重なって見えた。これが韓国と日本の仏教の微妙な温度差なのだろうか。 ただ極力少ない台詞で美しい絵画を思わせるような映像から、観る人それぞれが読み解く楽しみがある。 そして人はそれぞれの〈石〉を心に抱えていかなければいけない人生の重みも伝わってくる。
シネ達日誌
イラスト  「ザ・ゴールデン・カップス/ワン・モア・タイム」完成披露試写会に行く。ゴールデンカップスはGSだと思っていたが、ロックバンドであることを教えられた。 それだけでもこの映画の作られた意味は大きい。でなきゃ、忌野清志郎など多くのミュージシャンたちがリスペクトするはずもない。俳優としてのデイブ平尾は、 沢田研二が3億円事件の犯人を演じたTV「悪魔のようなあいつ」のクラブ「日蝕」のマネージャー役が印象に残る。(古東久人)
著者プロフィール

波多野えり子 :  1979年元旦の翌日に東京・永福町にて誕生。映画好きかつ毒舌な家庭で育ち、「カサブランカ」からB級ホラー作品まで手広く鑑賞する日々を過ごしながら、現在編集者を志しているところ。最近は、まんまと韓国映画とドラマにハマっています。

伊藤洋次 :  1977年、長野県生まれ。専門紙の会社員(営業)。メジャー映画はなるべく避け、単館系しかもアジア映画を中心に鑑賞。映画を観て涙したことが一度しかないため、現在は泣ける映画を探索中。

山本聡子 :  1973年生まれ。2年前に脱OLして編集者を志す。現在は自然の中を歩く本などを製作中。都会の喧騒に疲れると、吸い込まれるように映画館に行く。 見るのはアメリカ映画よりもヨーロッパ映画が多い。映画も男もラテン系が好きです。

にしかわたく :  漫画とイラスト描いて暮らしてます。映画好きが高じて現在『季刊ロゼッターストーン』に「でんぐり映画館」連載中。 映画とコーラとポップコーンがあれば基本的に幸せ。「飲食禁止のスノッブ映画館を打倒する会」主宰(嘘)。

鍵山直子 :  テレビ&FMラジオの構成作家。現在、i-modeとauの携帯サイトで『シネマ通信』、ボーダフォンで『シネマ・エキスプレス』を担当中。 遅れてきたヒュー・グラント・ファンです。

中沢志乃 :  1972年5月8日、スイス生まれ。小学校時代に映画好きになり友達と劇を作る。一時は別の道を目指すもやはり映画関係の道へ。 5年間、字幕制作に携わった後、2002年4月、映像翻訳者として独立。夢はもちろん世界一の映像翻訳者です。代表作は「ユー・ガット・サーブド」(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)。

タカイキヨコ :  1966年愛媛県生まれ。企業勤めの後、1年間のロンドン遊学を経て、フリーの翻訳者に転身。映画のプログラムなどエンタテインメント関連の翻訳をしています。ストレート・プレイ、ミュージカル、バレエ、歌舞伎などの観劇も大好き。

古東久人 :  1959年生まれ。交通新聞社勤務。キューブリックで映画に目覚め、1980年代にキネ旬常連投稿から映画ライターへ。 「キネマ旬報」「フリックス」などの映画雑誌に執筆。編著は「相米慎二・映画の断章」(芳賀書店)。 生涯のベスト1はブニュエルの「皆殺しの天使」と長谷川和彦の「太陽を盗んだ男」。

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