波多野えり子 ★★★★☆
娼婦として暗い世界で生きてきたアイリーンにとって、恋人セルビーは天使だった。 しかし逃避行のストレスが重なるにつれて、彼女のアイリーンに対する依存心はより強大なものに。
そんな彼女を何とか守ろうと、アイリーンは殺人を繰り返すという悪循環にはまっていく。残酷すぎる。 13キロ増量で話題を呼んだC・セロンの作品にかける意欲にも感心したが、印象に残ったのはC・リッチ。
直接もの申したくなる位に、子猫のように純粋な危うさと寄生ともいえる依存心をあわせもつセルビーを見事に演じきっている。 アイリーン・ウォーノスは非人間的なモンスターではなく、愛を貫いたひとりの女性でもあった。
そんなメッセージを完成させたパティ・ジェンキンスの今後に期待。 |
タカイキヨコ ★★★★
次々と人を殺めた罪はけっして許されないことだが、主人公アイリーンの追い込まれた痛々しさがひしひしと伝わってきて、彼女を完全に否定することはできない。 かといって、そう生きるしかなかった社会の犠牲者として擁護することもできない。現実から目をそらし、夢に逃げていたアイリーンはあまりに弱すぎる。
そういう意味で、殺人犯と社会のどちらか一方の肩だけを持つことなく、じつに中立的にこの現代社会の縮図といえる実在の事件を深くえぐっているように思う。 これも監督の視点の確かさと、シャーリーズ・セロンの説得力ある演技と、クリスティーナ・リッチの悪魔のような眼力の賜物だろう。
ただ実際のアイリーンの容姿にこだわるならフランシス・マクドーマンでよかっただろうし(もちろん演技力もあり!)、 あんなに醜く変身して……と下手に努力点を稼ぐことなくセロンらしく「罪深き女の性」を演じてほしかった。 |
中沢志乃 ★★★★
怖い!怖かった…。ふー。この映画でアカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞したシャーリーズ・セロンの変貌ぶり(その太りようと顔のシミ!) と渾身の演技にもびっくりだが、内容にも圧倒された。ストーリーは2002年に死刑になった連続殺人犯の実話を基にしているが、
これを見て「無知は罪なり」の言葉の意味を再び噛み締めた。私たちには重罪を犯す人の気持ちを全て分かるキャパもないのに、その人を死刑にするなんて…。 自殺を考えていた彼女が殺人に至った理由は、好きな子と幸せになれる希望が見えてきたから。人の物を奪って生きる、これが彼女の「戦争」だった。
昔、勤めていた人権擁護団体で話し合った死刑廃止論について、平和について、また色々と考えさせられた。 |
三笠加奈子 ★★★★
本当の地獄を見た人間ほど騙されやすい。いったい、どうしてなのか? 私はその理由をずーっと考えてきたが、 地球の裏側に住む3歳年上の女の子も同じ答えを探していたらしい。父親から打たれ殴られ蔑まされた女の子、シャリーズ・セロン。
しかし一足早く、彼女は連続殺人鬼アイリーンの中に1つの答えを見つけ出したようだ。
愛しい恋人セルビーにビーチハウスをプレゼントするため、殺人に手を染めるアイリーン。 かぶれた肌と醜い脂がアイリーンを“モンスター”のように映し出すが、本当の“化け物”が実はセルビーであることに、観客の誰もが気づきはじめる。
セルビーがいつか裏切ることも読めるし、アイリーンだけが馬鹿を見ることも読める。 でも、なぜだろう、アイリーンに扮するシャリーズ・セロンの狂気が爆発していく様を、ゾクゾクしながら見てしまった。
地獄から這い上がってきた人間が、また地獄に落ちていく様を、なんて悔しい現実!なんてファックな世の中!と、ハラハラしながら見てしまった。 アカデミー賞の壇上で、シャリーズは地球上で最も愛するママに「ありがとう」と言って泣いていた。自分を殺そうとした父親を(正当防衛で)撃ってくれたママ。
殺人鬼アイリーンは親子2人が味わった狂気のカタチである。 |