バックナンバー Vol.25
華氏911
カーサ・エスペランサ
誰も知らない
昨今の韓国人男性は「アジアのイタリア人」と呼ばれ、ドラマの俳優のみならず一般人もモテているらしい。
実にストレートに愛情表現をするところが女心を鷲掴みにしている所以らしいが、話題のドラマ「冬のソナタ」がとろけそうな甘い言葉のオンパレードかというと、 そういうわけではない。むしろ、相手のことを深く思いやるが故に自分の思いをぐっと飲み込む。
が、ここぞというときには男であろうと涙をこぼし、素直に思いをぶつける。ときにはじれったいほどに慎ましやかでありながら、ときには大胆。 そしてその奥に貫かれる一途な想い。この芯のある剛柔が男をいっそう男らしくさせるのだ。世のおじ様方、「冬ソナ」を見て思い出して下さい。
(タカイキヨコ)
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小松玲子 ★★★★★
「エンターテイメント」の語源は、エンター(中に入って)+ステイン(突き刺さる)つまり“心をえぐるくらいの感動”の意味。 決して“娯楽”じゃないんだ、本当は。作者のムーアは、この映画を「ポップコーンを食べながら楽しめるようなエンターテイメントとして撮った」という。
さすがに後半の殺戮や地雷、子供の死骸などを見ながら「ポップコーンを食べながら」というわけにはいかないと思うが (事実、すすり泣く声が会場から聞こえた)、心の中に突き刺さる、心をえぐるという意味では、最高のエンターテイメントでした。
井筒和幸監督などを筆頭に、この映画をこき下ろすムキもあるらしい。 前半、ブッシュとビンラディン一族との関係や石油の利権を解説するシーンが説明ばかりだからイケナイんだとか。
私は「そうか、実はこういう世論があったんだな、アメリカには。私たちに報道されないだけで」。 CNNもNステも報道してくれなかったから知らなかったことを見せてくれたので面白かった。
(私たちもまた常に編集され手を加えられた報道を見ているだけなのに、なぜにムーアの編集だけこきおろされるのか) オスマ・ビンラディンが見つからないのも単に「ブッシュがやる気ねえだけ」というのも新解釈で面白かった。
「説明ばっかだから」(前半だけだろ)こんなの映画じゃないという井筒さん、映画とは手法のことではない。表現に王道があるはずもない。 心を突き刺すものがエンターテイメント、でしょう。説明じゃなかろうと、正統な手法(?)で撮っていようと、つまらなくちゃしょうがないじゃない。
一昔前の「芸術映画じゃないものは評価しない」みたいな屁理屈みたい。全編を通じ漂っているのは、ムーア監督の弱い者へのいたわり、やさしさ。 とりわけ後半は圧巻。 |
中沢志乃 ★★★★
中沢志乃 上映終了後、映画館の席を立って泣きたい気分になった。息子や家族を戦争で亡くした人達に同情したのか、ブッシュ大統領が情けなくなったのか、 はたまた外国でこんなことが起きている間ものほほーんと毎日を過ごしていた自分が情けなくなったのか、理由は、はっきりとは分からないけれど…。
確かにムーア監督の視点で作られたドキュメンタリーなので内容が100%公平かは分からないが、 イラクの惨状、死にゆくイラク人とアメリカ兵を目の当たりにして、ショックだったのは事実。「ブッシュさんも小泉さんも、どうにかして。
戦争がいいわけないでしょ!そんな簡単なことが分からないの?」と声を大にして言いたい。全国の人に見て欲しい。 |
三笠加奈子 ★★
そもそも、ムーア監督の作品はドキュメンタリーとは決して言いがたく、すべての映像にムーア印100%の悪意とジョークと主張が込められていますが、 今回の『華氏911』は、そのムーア印さえ消沈しているなぁ。CNNやFOXが流している映像を、ブッシュがおバカに見えるようにカットしてつなげただけのような。
(監督がゼロから作り出した映像が今回は少ない!)タイトルにもなった9.11の映像を一度も流さないのは監督の演出なんでしょうけど、 逆に言えば、ラストにあの映像が流れて、「そうか、だから飛行機はビルに突っ込んだのか」とナットクする話の筋書きがほしかった。
それぐらい独断と偏見に満ちてこそ、盛り上がるテーマなのに。 |
山本聡子 ★★★★
いわゆる負け犬と呼ばれる人種に属する私にとっては、何かと考えさせられる映画だ。6人の女たちの悩みや焦燥感は人ごととは思えず、 自分の近未来なども考えてしまう。が、彼女たちのキャラよりも、米国vs南米のバトル映画のように感じてしまった。
無計画に生まれる子供を養いきれない国があり、“輸入”してまでも子供を欲しがる国もある。 情の深いアイリーンは貧しい子供に本を買ってあげるが、字の読めない飢えた少年にはなんの役にも立たない。
アメリカ人なんて大嫌いなのに、生きていくためには手厚くもてなさなければならないetc。なかなかこの二つの大陸には言葉と同じくたかーい壁がある。 そんな中でアイリーンとホテルの従業員が、言葉が通じないながらも子供への夢と思いを語りあうシーンは素晴らしい。
映画のすべてがここに詰まっていると思った。 |
にしかわたく ★★☆
ベテラン監督の域に入ってきたジョン・セイルズ。作家性が強いイメージがありますが、「ハウリング」「アポロ13」といった娯楽作の脚本も書いたりしてます。 アメリカのインディーズとメジャーのパイプ役?芸術家ぶったところがなくて、好きな監督です。本作は通好みながら豪華な女優陣が勢揃い。
ギャラも大してもらってなさそうなだけに、この人がハリウッドで尊敬されてるのがよくわかります。で内容はというと・・・うーんイマイチ。 押しつけがましいところがないのがこの監督のいいところなんですが、今回はそのユルさが悪い方に出たかなー。あんまり映画見た感じがしませんでした。
キャストで光ってたのは断然ダリル・ハンナです。「キルビル」以来僕の中でダリル・ハンナが大ブーム。この女、かっこええ。 |
波多野えり子 ★★☆
離婚寸前、アルコール依存症、流産etc…色々な事情を抱えた6人の女性の様子をドキュメンタリータッチで追いかける。 正直、自分には全く経験のない想いを抱く彼女たちに特別な感情移入はできず。私が共感できたのは、むしろ養子になる赤ちゃんたちだったかも。
運命のもと見知らぬ国の人間にもらわれて、これから始まる人生に対する希望と不安。 まだ笑ったり、泣いたりでしか意思表示ができないけど、赤ちゃんもいろんなことを感じているはず。
子供も大人も“希望”だけは捨てちゃいかんな、と自分自身を励ましてみました。 |
伊藤洋次 ★★★★★
4人の子どもたちの日常をリアルに紡ぎ出した、見事としか言いようがない作品。季節とともに、少しずつ変わっていく彼らの生活。 そんな4人だけの世界でささやかに、しかし、たくましく幸せを見つける姿に、胸を打たれました。
一番印象的 だったのは、次女のゆきが「お母さんを迎えに行く」と言って聞かない場面。少し足に合わなくなったキュッキュサンダル。 最後の一つになったアポロチョコ。広い車道の真ん中を歩く明とゆき。2人で見上げるモノレール……。
淡々と進む展開とは反対に、激しく心を揺さぶられるシーンでした。 |
タカイキヨコ ★★★★☆
せつなかった。無力な子供は社会の矛盾や大人のエゴをもろに受ける被害者だ。いや、無力ではない。子供はそれでも生きる。健気に、たくましく。 そしてその澄み切った瞳でしっかりと大人を見抜いている。世の中を学んでいる。人間は相反する複雑な感情を生きていかなければならない。
言葉よりも雄弁なディテールを巧みに積み重ねることで、生きていくことの悲喜交々がじわじわと心に染みこんでくる。 そのうちに子供たちを放って男の元に走った身勝手な母親さえも、
この社会の荒波の中では自分の心に忠実になることでしか自分を支えられない弱者のような気がして責めきれなくなってきた。 そして席を立った後、無性に誰かに会いたくなった。 |
カザビー ★★★★
是枝監督作品を観ると、毎回とてつもないエネルギーを消費する。もれもなく今回もへろへろになってしまった。 是枝監督の演出は完璧以上で、最後までこれでもかというほど激しく観客の心を揺さぶり続ける。「パッション」や「ドッグヴィル」以上に衝撃的だった。
ハンパな気持ちで観ると火傷してしまう、そんな作品。 |
中沢志乃 ★★★★
日本映画は久しぶりに見たが、うん、良い映画だった。実質、母親に捨てられたような4人兄弟姉妹のどうしても4人でいたい気持ち、 でも4人で暮らしていけるのか、何も分からないけど精一杯頑張る子供たちの複雑な気持ちがよく表れていて、ジンとした。
カンヌ国際映画祭で柳楽優弥君が最優秀主演男優賞を獲得したことは日本でもビッグニュースになったが、彼に加えて、 YOUやその他の子供たちの演技も見事!というか、ほとんど演技とは思えないほど自然で監督の力量を感じた。
本当にとても良い映画!だけど、「誰も知らない」というよりは「役所だけが知らない」というどうでもいいことも考えてしまった。 |
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シネ達日誌
土持幸三写真展はおかげ様で好評のうちに終了しました。皆様、ご来場ありがとうございました。 なお、先日の定例会には俳優の加藤賢崇さんにご参加いただきました。映画代表作は黒沢清監督の「ドレミファ娘の血が騒ぐ」や伊丹十三監督の「タンポポ」など、
また吹替えなどでも活躍されています。映画の話をいろいろ聞かせていただきました。(古東久人) |
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小松玲子 : 1970年生まれ。雑誌・新聞を中心にフリーライターとして活動中。わが心のベストシネマは『さらば我が愛〜覇王別姫』。作家になったら、ああゆう愛憎ものが書けるようになりたい。売れっ子ライター目指して、現在まだ夢の途中。
中沢志乃 : 1972年5月8日、スイス生まれ。小学校時代に映画好きになり友達と劇を作る。一時は別の道を目指すもやはり映画関係の道へ。 5年間、字幕制作に携わった後、2002年4月、映像翻訳者として独立。夢はもちろん世界一の映像翻訳者です。
三笠加奈子 : 1978年、食事の美味しい富岡産婦人科で生まれる。映画とタバコ厳禁の10代を送ったので、20代は反動のシネマ生活に。会いたい芸能人は『完全なる飼育』の小島聖ちゃん。そうそう、私の職業はライター。「キネマ旬報」5月下旬号で『パッション』について執筆。著書『友達より深く楽しむ外国映画の歩き方』(こう書房)。
山本聡子 : 1973年生まれ。2年前に脱OLして編集者を志す。現在は自然の中を歩く本などを製作中。都会の喧騒に疲れると、吸い込まれるように映画館に行く。
見るのはアメリカ映画よりもヨーロッパ映画が多い。映画も男もラテン系が好きです。
にしかわたく : 漫画とイラスト描いて暮らしてます。映画好きが高じて現在『季刊ロゼッターストーン』に「でんぐり映画館」連載中。 映画とコーラとポップコーンがあれば基本的に幸せ。「飲食禁止のスノッブ映画館を打倒する会」主宰(嘘)。
波多野えり子 : 1979年元旦の翌日という中途半端な日に東京・永福町にて誕生。現在はブライダル情報誌の編集部で修業中。 映画好きかつ毒舌な家庭で育ち、「カサブランカ」からB級ホラー作品まで手広く鑑賞する日々を過ごす。
最近はエモーショナルな韓国映画やドラマがお気に入り!
伊藤洋次 : 1977年、長野県生まれ。専門紙の会社員(営業)。メジャー映画はなるべく避け、単館系しかもアジア映画を中心に鑑賞。映画を観て涙したことが一度しかないため、現在は泣ける映画を探索中。
タカイキヨコ : 1966年愛媛県生まれ。企業勤めの後、1年間のロンドン遊学を経て、フリーの翻訳者に転身。映画のプログラムなどエンタテインメント関連の翻訳をしています。ストレート・プレイ、ミュージカル、バレエ、歌舞伎などの観劇も大好き。
カザビー : 1978年生まれ。映画とお笑いをこよなく愛するOL。好きな監督は周防正行、矢口史靖、SABU、ペドロ・アルモドバル、セドリック・クラピッシュなど。今年、嬉しかった出来事は矢口監督からサインをもらったことと、田口トモロヲ監督「アイデン&ティティ」のエキストラに参加したことです。
古東久人 : 1959年生まれ。交通新聞社勤務。キューブリックで映画に目覚め、1980年代にキネ旬常連投稿から映画ライターへ。 「キネマ旬報」「フリックス」などの映画雑誌に執筆。編著は「相米慎二・映画の断章」(芳賀書店)。
生涯のベスト1はブニュエルの「皆殺しの天使」と長谷川和彦の「太陽を盗んだ男」。
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