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バックナンバー Vol.13

名もなきアフリカの地で
フリーダ
シェフと素顔と、おいしい時間

夏のみならず、世界は祭で溢れているのです。 ■ ■ ■
花火大会も盆踊りも冷夏のなかひっそりと終わり、気がつけばそのまま秋の訪れを迎えてしまいそうな気配。 なんだかちょっと物足りない…とお思いの、祭好きのアナタ。国内発行部数54万部を誇る『ぴあ』の「オフシアタースケジュール」欄を開いてみよう。 今やっている特集上映・映画祭は一目瞭然。あとは鼻の向くまま気の向くままに街に出るだけです。
 その一つ、9月6日(土)・7日(日)に京橋の映画美学校で行われた“世界一小さな映画祭”と謳う「チェコ映画祭2003」は アニメや人形劇ばかりが注目されがちなチェコ映画の真髄が余すところなく伝わる2日間のイベントでした。 定員88名、1日5作品の入替制ですが、ほとんどの人が一日券を買って遠足のように楽しんでいました。丸一日チェコ漬けのなか、 休憩時間にはフロアで販売されたチェコの木製おもちゃを買ったり、チェコ語講座のパンフレットに真剣に見入ったりと、楽しそう。 作品も素晴らしく良かったけれど、こんなお祭りで、自分の肌に合うものを探してみるのもいいかもしれません。 翻訳もパンフ作りも関わる人の想いが伝わる映画祭でした。
http://www.i-love-cinema.org/ (高野麻結子)
=1点、=0.5点。最高得点=5点
名もなきアフリカの地で

監督:カロリーヌ・リンク
出演:ユリアーネ・ケーラー、メラーブ・ニニッゼ

山本聡子   
★★★★☆
2時間半の長作ながら、終わってしまうのがとても悲しい。いつの間にか私もケニアの魅力に取りつかれていたようだ。 ナチス支配下のドイツからケニアに亡命してきたユダヤ人のレジーナは、チョコレート色の肌の料理人オウアから色んなことを学ぶ。 これだけだとウルルン滞在記だが、そこに戦争や夫婦の問題が絡んできて、実話の重みが加わる。雄大な映像に癒され、素朴な会話に和む。 お涙ちょうだい的な過度の演出もなく、自然な演技に静かに感動。涙は心を枯らすからと、ふらりと散歩に行くように去るオウアの細長い後姿にほろりと涙。 戦争の裏側の、こんな出会いを知ることができて本当によかった。
にしかわたく ★★★☆
『ビヨンド・サイレンス』のカロリーヌ・リンク監督というわけで、舞台が大きくなっても味わいは小品のまんま。家族の映画です。 もっと言うと、夫婦の映画でした。女流監督だけあって女の描き方に容赦がない。結婚するのが怖くなる映画。 ラスト近くで家族3人ベッドで川の字になってるシーンがあるんですが、奥さんに振り回され続けた旦那が「僕の人生のすべての幸せがこのベッドの上に・・・」 としみじみ思うところが泣けました。
波多野えり子 ★★★
とある金曜の夜に劇場へ訪れると、混み混みの立ち見…というわけで地べたに座っての観賞。とても良質な映画を見たというのが率直な感想。 上映時間も少し長めで、これぞ人類の起源と思わせる広いアフリカでの生活や、ナチスの脅威の中で必死に生きる親子3人の描写が丁寧に描かれている。 起承転結が分かりやすい構成なのに、いやそうだからこそか、感情が急激に高ぶる瞬間があまりなかったかも。でも不思議なことに、他に文句をつけたいところもない。 だからオスカー獲れたのかしら?
増田統    ★★★
ヒロイン、レギーナのアフリカへの接し方が好きだ。彼女はまず靴を脱ぐ、そして裸足で土の感触に馴染むのだ。故郷を離れたことによる両親の齟齬や、 生きるための母の密通など、実はどうでもいい。レギーナのアフリカへの同化こそが、この映画の胸躍らせる醍醐味だからだ。現地の言葉を軽やかに習得し、 一見、神秘主義に思える彼らの習慣を、生きる知恵として自然とその身に取り込む彼女は、ヨーロッパ文明の芥をアフリカの大地の泥で洗い落とすのだ。 思春期の娘へと成長した後も、彼女は幼馴染みの現地青年に誘われるまま無邪気に衣を脱ぎ捨て、木登りに興じる。恥じらいや気取りとは無縁なのだ。 偏見がないとは、まさにこういうことだ。そのアプローチは、どこかクレール・ドゥニの『ショコラ』を想起させる。果たして、これは少女特有なのだろうか、 ふと興味が湧いた。


フリーダ

監督:ジュリー・テイモア
出演:サルマ・ハエック、アルフレッド・モリーナ

にしかわたく   
★★★★☆
全然期待してなかったけど、めちゃめちゃ面白かった!クレジット見たら監督がジュリー・テイモア。変てこシェイクスピア映画『タイタス』を撮った人です。 この人の演出はなんか知らんが僕には全部ビシビシ決まるんですわ。サルマ・ハエックは演技がどうこうというより、 この映画を完成させたことを誉めてあげたい(制作もやってる)。友情出演してるスターさんたちもそれぞれ味出してて楽しいんですが、 一番すごかったのがアシュレイ・ジャッド。この人はええ女です!こんな奴そばにおったらころりとやられますな。 ラストに流れるカエターノの歌も最高だし、知る人ぞ知るブラザーズ・クエイのパペットまで見れちゃうのだ。 あーおもしろかった。久々に入場料の1800円が安いと思えた。
中沢志乃   ★★★★
十代で事故に遭い、体中の骨を折って歩くこともできなくなるフリーダ。ボロボロの体でありながらも絵を描き、人生を200%生き抜いた女性。 辛いことに遭う度に「あの時死んでいれば…」と彼女は考えただろうか。それでも生きたのは、やはりディエゴへの愛ゆえか、ただ勝ち気だったからか。 いや、死んだような体だからこそ好き放題に生きたのか。あんなに辛い人生のその心境は計り知れないが、辛いからこそ強く弱く優しく人生を彩れる彼女が痛ましい。 彼女のリゾート風テーブルセッティングはすっごく可愛かったです!
波多野えり子 ★★★★
なんてカッコイイのだ、フリーダ=カーロ!彼女のことは今までよく知らなかったが、2時間ですっかりその魅力の虜に・・・。 10代の学生役から演じきったサルマ・ハエックの健闘ぶりも讃えよう。切り落とした髪や流れる血、流産した子供など目を背けたくなるものをも描き、 リアルな女の気持ちを表した彼女の絵はとても興味深い。絵画をよく知らなくても、彼女の情熱的なロマンスを軸としたストーリーだけで十分に楽しめる。 コスチュームと音楽が放つ色と光も印象的で、ひと言で言えば「アーティスト全員集合!」といった作品か。
山本聡子   ★★★★
目を覆いたくなるような痛々しい人生。苦痛に耐え、悲痛な叫びをキャンパスにぶつける。ハンディキャップが大きいほど人は強くなれる、 なんていう常套句で片付けたくはないが、やはりすごい女性だ。真っ直ぐで正直、強いのに繊細。愛憎入り混じったディエゴとの関係も、 かなりの度肝が座ってなきゃ耐えられまい。要所要所で使われた絵の効果も面白く、単調になりがちな伝記映画に、ピリッとしたスパイスとなっている。 音楽もまた良し。なんだか生きる力をもらった気がした。カラフルな彼女の世界から抜けて、劇場を出たら、日本の町並みがとても色褪せて見えた。 その色彩が、彼女の人生そのものなのだ。


シェフと素顔と、おいしい時間

監督:ダニエル・トンプソン
出演:ジュリエット・ビノシュ、ジャン・レノ

中沢志乃   
★★★★★
ジャン・レノとジュリエット・ビノシュの熟練の演技が光りまくった傑作!忘れるべき恋にしがみつく2人の男女が、ひょんなことから巡り会い…と、 これ以上は言いたくない。外は雨。鏡を見ながら化粧をキメて自分を励ます女性の姿。オレンジジュースを前に彼の「朝は独りになりたい」 という言葉を思い出す女性の表情。それが太陽がサンサンと射すアカプルコになると…。話したい感想は山ほどあるけれど、是非!とにかく、とにかく見なきゃ損!! 見れば温かでハッピーすぎる気分になること間違いなし。「こんなこと、あるある!」広い空の下、大手を振って恋愛を謳歌しよう!と絶対思うはず!! (ところで、あの頻出するアジア人女性は誰??)
増田統    ★★★
シチュエーション・コメディの舞台として、スト中の空港は絶妙だ。といって、密室劇という演劇的効果を狙うのではなく、空港ホテルとそのキッチン、 はたまたプールやサウナと、映画的効果たっぷりな空間へ物語を押し広げるところに作家の意思を感じる。ジュリエット・ビノシュとジャン・レノは、 そのキャリアの違いからも相容れないことは承知の上だ。彼らの往き方の違いは、演技メソッドの違和感に繋がる。そんなふたりのぎこちなさを、 百戦錬磨の監督ダニエル・トンプソンは、ローズとフェリックスという役柄に持ち込んだ。劇中、彼らの歩み寄りは、各々の居場所を共有することだ。 だからこそ、一台の携帯電話が取り持つ彼らの絆は、さながら母国を代表して英米の映画界に殴り込む同士愛のごとき連帯感に思える。 そこに、プロの創り手としての心意気があり、何より胸躍らされる。
Kozo    ★★
ジュリエット・ビノシュが老けていたのに驚いた、 ストーリーがあまりにもハリウッドB級映画だったのにはもっと驚いた。 よくよく調べてみると10年前にアメリカ映画用に書かれた脚本だったらしい。面白くないとは言わないが、 メチャクチャ綺麗な女性と初めてのデートで観るにはいいだろう。映画はちょこっと観て後は彼女だけを見つめていても、後でこの映画について語れる。 つまり、内容が月並みで薄い。ブラックユーモアの効いた軽快なフランスコメディーのつもりで観ると痛い目にあう。
イラストコトー日誌
9月21日、オフィス・トゥー・ワン創立40周年公演「大川わたり」(ル・テアトル銀座)を観る。オフィス・トゥー・ワンと言えば、 「ニュースステーション」の製作で知られるが、この長寿番組も来春、久米宏の降板とともに幕を閉じる。 Nステ出身で、現在は他局や他の番組で活躍しているキャスターやタレントも多い。 金曜チェックなど思い出に残るコーナーもあったが、最後に復活させてみてはいかが?  小宮悦子や最近は女優としても活躍している真中瞳や乾貴美子などオールスターでのフィナーレも見てみたい。(古東久人)
著者プロフィール

高野麻結子 :  1976年横浜生まれ。編集者(助走中)。 専門書店のガイドブック製作中です。本も映画も横丁の飲み屋も、引き返そうかな、と思ったら、もう一歩入るとキラリと輝くモノに出会えるみたいですよ。喜びもときめきも幾歳月。

山本聡子 :  1973年生まれ。2年前に脱OLして編集者を志す。現在は自然の中を歩く本などを製作中。都会の喧騒に疲れると、吸い込まれるように映画館に行く。 見るのはアメリカ映画よりもヨーロッパ映画が多い。映画も男もラテン系が好きです。

にしかわたく :  漫画とイラスト描いて暮らしてます。映画好きが高じて現在『季刊ロゼッターストーン』に「でんぐり映画館」連載中。 映画とコーラとポップコーンがあれば基本的に幸せ。「飲食禁止のスノッブ映画館を打倒する会」主宰(嘘)。

波多野えり子 :  1979年元旦の翌日という中途半端な日に東京・永福町にて誕生。現在はブライダル情報誌の編集部で修業中。 映画好きかつ毒舌な家庭で育ち、「カサブランカ」からB級ホラー作品まで手広く鑑賞する日々を過ごす。 最近はエモーショナルな韓国映画やドラマがお気に入り!

増田統 : 1967年、大阪市生まれ。高校時から映画に嵌り、大学入学と同時に上京。卒業後は、 映画雑誌「FLIX」編集部を経て、’97年よりフリーに。 フランス映画をこよなく愛するが、最近はアジア映画に浮気心を刺激されている。

中沢志乃 :  1972年5月8日、スイス生まれ。小学校時代に映画好きになり友達と劇を作る。一時は別の道を目指すもやはり映画関係の道へ。 5年間、字幕制作に携わった後、2002年4月、映像翻訳者として独立。夢はもちろん世界一の映像翻訳者です。

Kozo :  1970年、鹿児島生まれ。故・我王銀次主宰の劇団「大阪バトルロイヤル」で俳優として映画、TVに出演。 L.A.C.C.映画科卒業後C.S.U.L.B.に編入しスピルバーグと一緒に卒業。現在は林海象監督と”Cinema Showcase”を主宰し毎月、短編映画を上映中。

古東久人 :  1959年生まれ。某出版社勤務。キューブリックで映画に目覚め、1980年代にキネ旬常連投稿から映画ライターへ。 「キネマ旬報」「フリックス」などの映画雑誌に執筆。編著は「相米慎二・映画の断章」(芳賀書店)。 生涯のベスト1はブニュエルの「皆殺しの天使」と長谷川和彦の「太陽を盗んだ男」。「皆殺しの天使」のDVDをぜひ出して欲しい!

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