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第8回 号泣の理由


私にとって、なんとも辛い季節になってしまった。「暑いから」・・・ではない。問題は「虫」だ。
  「ゴキブリきら〜い」なんてレベルではなく、とにかく羽が付いたものは全部ダメ。「じゃー毛虫はいいの?」とよく切り返されるが、極端に言えばOKだ。ただ念のために言っておくが、決して毛虫が好きな訳じゃない。地を這うものなら、遭遇した場合でも逃げ切れるからだ。運動神経が鈍い私でも、毛虫とのかけっこには勝てる自信はある。

いつから虫がダメなんだろう?物心ついた時には、既に私にとって脅威だった。

子供の頃留守番をしていたら、アゲハ蝶が窓から入ってきた。恐ろしさのあまりすぐさま外に避難し、その後母が帰ってくるまで3時間、ずっと外で待っていた。

数年前、事務所のビルのエレベーターに乗ったら、よりによって事務所のある階の「7」のボタンに蛾がはり付いていた。どいて頂く勇気が持てず、しょうがないから階段で7階まで上った。

昨年の夏、家のベランダにずっと蝉がとまっていた。怖くて外に出られず、おかげでハーブに水をやれなくなり枯らしてしまった。

そしてつい最近の出来事。知人の家に遊びに行った時、そこの息子さん(5歳)が嬉しそうに私に近づいてきたかと思ったら、可愛い小さな手をグーにして私の目の前に差し出した。「何が入っているのかな〜?」と私が問いかけたら、彼は満面の笑みを浮かべて、その手をパッと広げた。そこにあったものは、なんとクワガタ!私の目の先、約10cmのところにクワガタ!!私は恐怖のあまり「ギャー!!!」と大声を上げて号泣した。

もちろん彼は私に嫌がらせをしようとした訳ではない。自分の宝物であるクワガタを私に見せてくれたのだ。しかし虫を目の前にした時、そんないじらしい子供の気持ちに応える余裕は全くなかった。

彼に対する申し訳ない気持ちと虫への恐怖で、私はただただ大声を上げて泣き続けた。そして彼は、ただただ呆然と私の前に立ち尽くしていた。

イラスト

2005.8.15 掲載

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