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第7回 どこでも迷子


以前、下馬(世田谷区)に住んでいた。祐天寺駅から徒歩12〜3分。引っ越した次の日は迷いもなく駅から逆方向に歩いていき、家に着くのに結局1時間かかった。

その後がんばってはみたが結果が伴わず、数ヵ月後、祐天寺駅から徒歩2分のところに引っ越し直した。さすがにそこへは最初から迷わず帰れた。それ以来引っ越す部屋は、駅から徒歩5分以内、道を曲がるのは2回以内の場所と心に決めた。

こういう現象は何も引越し直後だけに起こるわけではない。駐車した車を見つけられない・・・レストランやコンサート、映画館で席を立つと戻れない・・・とまあ、日常茶飯事だ。

つい最近も、あるレストランでトイレに行ったら席に戻れなくなってしまった。しかたがないので一緒に来ていた人に電話して、入り口まで迎えに来てもらった。その人は私が逆方向に向かっていくのを見て不思議に思ったそうだが、まさか迷っているとは考えもつかなかったらしい。レストランの入り口に来てくれた彼の表情は、確実に呆気にとられていた・・・。

そもそも私には方向感覚がない。方向音痴とかそういうレベルではなく、その感覚が全く存在しない。今回は取りあえずトイレからすんなり出て来られたから上出来で、普段は、女性用のトイレから出て席に戻ろうとすると、間違って男性用のトイレに入ってしまう。私も中にいる人も驚きだ。

こんな話をしても、大抵の人は何を言っているのか意味が分からないようだ。しかし時として私のレベルに近い人と遭遇した場合は「分かる!分かる!!」と、もの凄く共感してくれて、とたんに強い絆で結ばれる。それは迷い込んだジャングルの奥地で、奇跡的に言葉が通じる生物に出逢えたぐらいの感動だ。

こんな私の精一杯の対策として、いつでもどこでも迎えを呼べるように、1分たりとも携帯電話は手放さない。そして電波が届かない場所では、何があっても決して人から離れない・・・。

イラスト

2005.7.25 掲載

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