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第15回 「Before sunrise 〜 Before sunset」
      (1995、2004、米映画)


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ヨーロッパを横断する長距離列車の中で出会い、意気投合したアメリカ人男性ジェシー(イーサン・ホーク)とフランス人女性セリーヌ(ジュリー・デプリー)は、それぞれの国へ帰るまでに残された時間を共に過ごす為、ウィーンの街に降り立ちました。わずか14時間という限られた時間の中で二人は真剣に見つめ合い認め合いながら、愛を深めました。二度と会えることを期待しないという誓いを立てながら・・・。

そして迎えた別れの朝、発車間際のプラットホームに立った二人は、互いの幸福を願う言葉を伝え合ううちに、この後は自分の人生に関わりない存在になってしまうその人への愛しさが突然に溢れ出してきました。『半年後の昨日、12月6日午後6時にこの場所で再び会おう』と、溜まらず新たな約束を交わした二人は「保証のない確かな希望」を胸に携え、元の生活へと戻っていったのでした。

それから9年の歳月が流れ、場所はパリのとある書店。小説家としてプロモーションをするために世界中を周っていたジェシーの元へ、その活躍で彼の所在を知ったセリーヌが突然現れました。長き間に積み重ねてきていた互いへの思いと自分の生活について、たった85分という限られた時間の中で必死に伝え合う二人。表向きはそれなりの社会的ステータスを築いたジェシーとセリーヌでしたが、その心の中と云えば、それはとてもパリの美しい街並みにはそぐわない悲壮なものでした。もし「半年後の約束」が守られていたなら、せめて互いの連絡先だけでも尋ね合っていたのなら、違う今があったのか?でもただの後悔ならばしたくはない・・・そんな思いに揺れ動きます。

残された時間もほんのわずかになり、二人がセリーヌの家の前まで来た時、ジェシーは彼女に彼女自身が作った歌を聴かせてほしいとせがみます。彼女はジェシーへの思いをしたためた曲を語り始めました。彼女の爪弾くギターと彼女の思いを乗せた優しい歌声の中に、ジェシーは彼女と自分の間にずっと求めていたとても温かいものを感じました。それまでのジェシーへの気持ちが一番素直な形で心から溶け出したセリーヌは、大好きなニーナ・シモンの歌に合わせ体を揺らしながら、『ベイビー、早くしないと飛行機に乗り遅れるわよ』と一言。さりげなく投げかけた彼女の言葉に対してジェシーは『分かってるよ』と答えます。そして長い間に自分が求めてきた安らぎと希望をやっと取り戻したかのような柔らかな微笑を彼女に返したのでした。

ウィーンでの出会いから14時間を描いた映画「Before sunrise」。そしてその続編としてパリでの再会の場面を描いた映画「Before sunset」。『じっくりと温めて意味のある続編を作りたい』と考えた製作側が必要とした時間は9年。主人公のジェシーとセリーヌを演じる俳優たちの風貌や精神的な成熟度にもドラマの設定に沿ったとても自然なリアリティを感じました。全編に亘り、そのほとんどの場面が二人の会話で埋め尽くされていることも、ラブストーリーものの映画としては珍しいものに思われます。そこには見詰め合う二人の真剣さやもどかしさを引き立たせる効果がありました。

求め合い、与え合う心とは何と美しいものでしょう。その甘美を一度知ってしまった者の心は、伝え合うことへの恐れや不安などを何度でも越えてゆこうとするものです。そしてそこでの体験が自信となり、臆病な心を前向きへと変えさせる原動力となって、時に痛みに対する抗体をも作り出させてゆくのでしょう。

しかし自分の心の中でだけ思い悩んでいるうちは何も解決することは出来ません。実際に伝え合おうと行動してみれば案外に容易かった・・・ということも現実には多いことなのではないでしょうか。この映画の中で、「半年後の約束」が守られなかったことに対してジェシーが、またそれを守ることが出来なかったことに対してセリーヌが、それぞれの心の中で勝手な失望を抱いて長い年月を生きてきたということを実際に伝え合うことによって、それまでの心の闇が嘘のように消えてゆきます。そしてジェシーは次のような言葉を呟くのです。『生きているうちは何度でも思い出を変えることが出来る』

真に心を映し合える人に出会ったと感じられるまでの心の状態を「夜明け前」だとしたなら、そう感じられた人との別れを予感している時の心の状態は「日暮れ前」ということなのでしょうか。ジェシーは言います。『生きているうちにそんな風に感じられる人と出会えたことは奇跡だ』と。僕は、人生の奇跡を信じ、そして願いながら生きている人たちに、この映画をぜひ観て欲しいと思います。

2005.11.10 掲載

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