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第13回 「歐林洞(おうりんどう)」(1993〜)


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鎌倉駅から「鶴岡八幡宮」へとまっすぐに延びた「若宮大路」。その二の鳥居と三の鳥居の間の小道を「段葛(だんかずら)」と云います。「段葛」は鎌倉時代、源頼朝が妻の北条政子の安産を祈り、京都の朱雀大路に倣って造らせました。大鳥居から先は、源氏の氏神として建立された「鶴岡八幡宮」の境内です。

「太鼓橋」を過ぎ、数え切れぬほどの蓮を浮かべた「源平池」に心和ませながら足を進めてゆくと、正面には当時「若宮」の回廊であった「舞殿」があります。平家討伐後、頼朝と対立して姿を隠した弟、義経の愛人であった静御前は吉野山で捕らえられ『吉野山 峰の白雪ふみわけて 入りにし人の跡ぞ恋しき』『しづやしづ しづのおだまきくり返し 昔を今になすよしもがな』と義経を慕う歌をこの場所で詠み舞ったのです。

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長い石段を登り、漆の朱が美しい「御本殿」横から鎌倉街道を渡ったところには、「平家池」に迫り出すように「神奈川県立近代美術館」があります。「神奈川県立近代美術館」は1937年のパリ万国博覧会における日本館の設計で建築の国際舞台で初めて認められた人物、坂倉準三(1901〜61)により日本初の近代美術館として1951年に設計されたもので、日本を代表するモダニズム建築として有名です。そのコンセプトは、彼の師であり、現代建築の巨匠と呼ばれるル・コルビュジエの「無限発展の美術館」を踏襲したものでした。

そんな表現者たちの残した様々な思いを心に浮かべながら鎌倉街道の坂道を北鎌倉方向へ足を進めてゆくと、間もなく坂の途中の右側に異国的な趣を漂わせた白塗りの美しい建造物が目に入ってきます。それが「歐林洞」です。

世界的な活躍を続けるシェフが妥協なき素材から作り出す高級洋菓子、豊かな香りを醸し出す紅茶、鎌倉彫りなどの一流の工芸品や美術品、そして上階にはコンサート用に設計されたホールを有するギャラリー・サロン。12年前に鎌倉の地に開業した当初より、そのひとつひとつにおけるクオリティとカスタマー・サティスファクションに徹したサービスの高さに対して多くの賞賛と支持を受けてきました。

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「歐林洞」の名物ともなったコンサートの形態に変化が現れ始めたのは1999年の12月。ニュー・ミュージック界の歌姫と呼ばれる尾崎亜美の出演を皮切りに、それまでのクラシック中心のコンサートから一転し、ジャパニーズ・ポップスのアーティストたちが続々とライブを行うようになりました。そこには『大好きなミュージシャンやリスペクトしているアーティストに気持ち良く演奏してもらえる場を提供したい・・・・』という「歐林洞」のオーナーK氏が以前より抱いていた思いがあり、やがて時満ちて実現へと進んでいきました。そんなK氏の思いに導かれるように、尾崎亜美を初め、吉田美奈子、稲垣潤一、石川セリ、ブレッド&バター・・・・といった数多くの一流アーティストがこれまでに「歐林洞」のステージに立ちました。

「歐林洞」の基本的なライブ構成は二部に分かれており、その一部と二部の間の休憩時間には一階のデザート・ラウンジにおいて、ワイン、紅茶、ケーキが振舞われます。ファンの方々はしばしの間、「歐林洞」から贈られた素晴らしいパフォーマンスの中で、ここでしか味わえないコラボレーションを五感を使って満喫します。そして柔らかな心を抱いて迎える二部では、オーディエンスは自然なことのようにアーティストと共に特別な空間を創造しつつ、特別な時間を味わっているのです。

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アーティスト自身にとってライブとは、自分がアーティストであることの喜びを最も感じられる至福の時です。そしてその喜びを得る為の「場」は、ただ「スペース」ということではなく、そのアーティストを伝える為に多くの人々の思いが詰まった「場」なのです。ライブを実現させる為には、アーティストを理解し、その音楽を楽しみ、そして共に誰かに届けたいと願う協力=サポートの存在が必要となるのです。また「場」というものの特性としてアーティストの新たな一面を引き出すことがあり、それがオーディエンスの心にも作用し、やがて「場」そのものに感動がフィードバックされてゆく・・・・。まさにそこは「無限発展の場」なのです。そんな恵まれた多くの要素に支えられた「歐林洞」は、今やそのロケーション以外の部分においても特別な場所であることを、ライブを愛してやまない人々から認識されているのです。

旧所名跡として観光の名所である「鎌倉」。そこは数百年の昔より数々の歴史的なドラマだけではなく、後世に受け継がれる多くの芸術と感動を生み出し育んできた場所でもありました。そんな「鎌倉」の新たな名所として根付いてきている「歐林洞」は、人の心に普遍的である感動を伝えたいと願い続けるアーティストたちの「舞殿」なのです。

2005.10.15 掲載

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