第11回 「愛しのローズマリー」(2001年20世紀FOX)
『女は外見だ!』という無茶な教えを9歳の我が子へ今際の際に残して逝った父・・・・。その父の言葉に洗脳されて、外見にだけ女性の価値を認め、それを公言してはばからない偏った人間として育ってしまった主人公ハルは、美女にしか興味を示さないという男でした。何とかして美女と付き合えるようになりたいと願っていたハルは、偶然知り合った精神カウンセリングの大家であるアンソニーから治療を受けることにしました。
どうしたものかと考えたカウンセラーは、人の内面が外見としてハルの目に映るよう催眠術をかけました。そしてハルは我が目に絶世の美女と映るローズマリーと出会い、恋に落ち、やがて愛を注ぐようになりました。彼女は病院のボランティア活動を行いながら、他国の開発援助を目的とする平和部隊への再入隊を待ちわびる心優しい女性でした。また彼女の父親が自分の勤める投資信託会社の社長であるという幸運な偶然によって、彼から娘の素敵な恋人としても、また仕事における有能な右腕としても認められてゆき、ハルはまさに人生最高の喜びの日々の中で有頂天になってしまいました。
ローズマリーは、レストランのスティール製の椅子さえ、ただ座っているだけで壊してしまうほどの巨躯を持つ自分の外見までも「パーフェクト!」と褒めちぎるハルに対して、当初、戸惑いも感じていましたが、次第に素直な自分を出せるようになり、いつしか愛し合うことにも自信を持ち始めてゆきます。
ハルの親友であるマウリシオは、自身の心の中に身体的なコンプレックスとそれに伴うトラウマを持っていました。その為、自分に対して好意を抱く女性と知り合う機会があっても、相手の外見的な不満点を指摘しながら深く立ち入られることを拒否してしまう男でした。彼は、体重が136キロもある女性に恋焦がれてしまっているハルの姿を見るにつけ、報われぬ日々があまりに続いたことから、ついに彼はおかしくなってしまったのだと思い込んでしまいます。しかし、ハルがそんな状態になってしまった原因は精神カウンセラーがかけた催眠術にあると知ったマウリシオは、アンソニーを訪ね必死の説得の末、催眠を解く呪文を聞き出しました。そしてすぐさまハルを助けるべく、電話口で呪文を繰り返し唱えました。
そしてハルの目の前から絶世の美女の姿は消え、ただあるのは現実の姿のローズマリーでした。『何で催眠術を解いてしまったんだ!』と親友に向かって訴えかけるハル。『自分にとって最高の人ならばそれでいいんだ!周りがどう思っていようと気にしない!』と思わず口にした、その自分の言葉の中に自分の真実の「思い」があるとふと気づくのでした。
『愛しのローズマリー』という邦題に至った理由には、グウィネス・パウトロウ演じるローズマリーにスポットを当て、ラブストーリー的なイメージを前面に出そうとする考えがあったようにも感じられたのですが、もしかするとそのことが、差別視される女性の立場というものを観る側に強く意識させ過ぎてしまったということが少なからずあったのかもしれません。しかし原題の『Shallow
Hal』を訳せば『浅薄なハル』『上辺のハル』ということになり、実は製作者たちの意図としては、観るものに対してまた違った捉え方を望んでいたようにも感じられるのです。そうして考えてみると、タイトルひとつ変えることさえも、受け手側の意識や解釈に対して大きな影響を与えてしまう重要なファクターなのです。
この作品では、主人公の滑稽さに苦笑し、彼の心が真に求めるものを見つけてゆく様に感動を覚えた方々も多かったのではないかと思います。同じ人間であっても、その立場や見る角度、また向き合う気持ちによって感じることも大きく異なってくるものです。
ヒロイン役であるグウィネス・パウトロウは、催眠にかかっているハルが見ているスレンダーなローズマリーの役と特殊メイクで造られた現実のローズマリーの役とを一人でこなしましたが、ある日撮影の合間に、特殊メイクをしたままの300パウンドの姿で食事に行った時、自分を見る目や態度が普段とはひどく違うことに大きなショックを受け、そのような悩みを持つ女性の気持ちを感じたそうです。映画とは観るものにとっても、また演じるものにとっても、通常では感じられないことを想像よりもっとリアルな形で体験出来るものでもあるのです。
現在の僕等は物事や人というものをどれだけ深いところで感じ、そのひとつひとつの存在の素晴らしさを、また自分にとっての大切さをどれほど知っているのでしょうか?そして誰かにとっての自分の存在がかけがえのないものであることをどこまで信じているのでしょうか?
アンソニーという人物は実在するアメリカの人気カウンセラー、アンソニー・ロビンスのことで、ピーク・パフォーマンス・コーチとしても有名です。この映画の中では本人自身がその役を演じており、彼が作品中で語った『美は見るものの目に宿る』という台詞は、映画を観終わった後も僕の心の中で強く響き続けています。
2005.9.10 掲載
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