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川島佑介のtasting time

第4回 優駿(東京競馬場にて)


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観るものに大きな感動を与え続ける日本中央競馬の三歳牡馬クラシックの頂点『日本ダービー(正式名称は「東京優駿」)』。今年もいよいよその「競馬の祭典」の季節になりました。かの有名な「シンザン」「ミスターシービー」「シンボリルドルフ」「ナリタブライアン」等もこのレースを勝利した後、秋の「菊花賞」で三冠馬となり伝説の名馬として殿堂入りを果たしました。今年も数千頭の中からサラブレットの頂点を極めるために選りすぐられた18頭の優駿たちが陽春の東京競馬場のターフの上に立ちます。競馬に携わる多くの人たちが注ぎ込んだ熱い思いが、いくつもの季節を経て、一頭のダービー馬を誕生させるのです。この日を目指し、産まれ、育まれてきた馬たちによる競争は今年も多くの人々の心を虜にすることでしょう。

三歳の春、一生にたった一度のダービーという大舞台。パドックから内馬場へと続く地下馬道を通り抜けて本馬場へと胸を張って入場してくる彼らの凛々しい姿は、観るものすべての心をこれから繰り広げられる大きな感動のドラマへといやが上にも昂ぶらせます。その一群の先頭にあって、美しさと優雅さとでこの「競馬の祭典」を一際華やかに彩るのは「誘導馬*」と呼ばれる馬たちです。

*「誘導馬」=競馬場にて、パドックから本馬場までの道のりを誘導する馬のこと

馬という生き物はとても神経質で臆病な動物です。言い方を変えると非常にデリケートで優しい心を持っている動物なのです。ダービーが行われるこの時期のサラブレットは人間の年齢で言えば、二十歳にも満たない頃ですから、スタンドに詰め掛けた十数万人の観客の大声援に異常な興奮を憶え、慣れ親しんだ騎手の奮闘をもってしても落ち着かせることが困難な状況になってしまうこともしばしば。スタート前、ゲートの中で暴れだし、不本意な怪我をしてしまう馬や何とかスタートだけは切れたものの、すぐに躓いて騎手を振り落としてしまうというような馬もいます。もし万が一、骨折という事態が発生し、「予後不良」との診断が下されるようであればどんな名馬であっても即刻、安楽死させられてしまうのです。

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競馬においては馬と同様に騎手も命がけです。馬の胴の部分に垂れ下がった鐙(あぶみ)という器具に足先を掛け、膝を締めただけの状態で時速六十数キロの速さで走りきるわけですから、騎乗馬が冷静さを失くし、興奮状態のままレースに入ることは非常に危険なことなのです。

せっかく素晴らしい競争能力と、それを発揮する舞台を与えられながらも、その敏感な気性ゆえに実力を発揮出来ないケースは数多くあるのです。「誘導馬」はそんなデリケートな状況にある出走馬たちを導き、落ち着かせ、各々が持つ能力をレースで存分に発揮できるようにし、競走馬と騎手を危険から守っているのです。

彼ら「誘導馬」も昔はターフを賑やかせた競走馬でした。しかし輝かしい実績を残せたわけでなく、血統的背景から後世に素晴らしい子孫をコンスタントに残せるという期待もかけられなかった者たちには、華々しい種牡馬としての余生は与えられません。競走馬としての現役を退いた後、「誘導馬」への道を歩むことになった者たちは厳しい訓練を経て、現役競走馬たちを栄光の道へと導くという使命をやっと授かるのです。今年で72回目を迎えるダービーの長い歴史の中には、彼らの働きのお陰で無事にレースを走り終え、栄冠を得ることが出来た馬がきっといたに違いありません。

「誘導馬」に与えられた仕事は他にもあります。それは土、日曜日などの競馬開催日に子供たちをその背に乗せて歩くことだったり、多くの人と触れ合い体験をすることだったりします。それらのことも彼らの担っている大切な役割のひとつです。人々は優しく美しい彼らに触れ、彼らと共に生きることの喜びをレース以外の場所でも感じられるのです。ギャンブルとしての競馬にちょっと疲れを感じたなら東京競馬場東門近くにいる彼ら「誘導馬」たちに会いに行ってみましょう。きっと競馬というものがまた違った素敵なものに見えてくるはずだと思います。僕は彼らに会うたびに、個々人が活かされる道は様々であり、また幸せというものにはいろんな形があるのだろうと感じさせてもらいます。

競走馬とはまた違った部分でサラブレットの持つ素晴らしさを伝えてくれる「誘導馬」・・・・。そう彼らは僕にとっての「19頭目の優駿」なのです。

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最後に馬券について・・・・。馬券は正式名称を「勝馬投票券」と云います。つまり自分が勝つと思う馬、または勝ってほしいと思う馬に一票を投じるというのが正しい馬券の買い方ということですね。さてそんな気持ちでパドックを周回する馬たちを眺めてみてはいかがでしょう。あなたにとっての特別な一頭が見つかるかもしれませんよ。でもどれ程に気に入ったとしても先頭にいる「誘導馬」の馬券は売ってくれませんからお気をつけ下さいね。

2005.5.25 掲載

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