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川島佑介のtasting time

第1回 宇宙戦争(1953年/米国・パラマウント)


52年の時を経ていよいよ今年、スピルバーグ監督、トムクルーズ主演により再び、スクリーンにSF映画の普及の名作「宇宙戦争」が帰って来ます。巷の映画ファンの間では、スピルバーグ監督と、同時期に公開される「スター・ウォーズ最終章」のジョージ・ルーカス監督との師弟対決ということがひとつの大きな話題にもなっているみたいですが、僕にとってこの「宇宙戦争」という映画は、特別な意味を持つフェイバリットな映画なのであります。そう、僕が思い入れているのは52年前のオリジナル版「宇宙戦争」。

僕がこの映画と出会ったのは、13歳の頃。ビートルズに夢中だった少年が見つけたもうひとつのロック、それがSFであり、そのバイブル的存在がこの映画「宇宙戦争(1953年/米国・パラマウント)」でした。

photo当時からSF小説が大好きな僕でしたが、もっぱら星新一、筒井康隆など国内の作家の、それも読みやすそうな作品ばかりを読み漁っていて、小難しそうなイメージのあった外国人作家の作品にはまったくといって良い程、手を付けていませんでした。しかしそんな僕でさえも、この映画の原作者であり、SFの創始者的存在のH・Gウェルズの名は知っていましたし、彼の代表作のひとつ「タイムマシン」は後にTVドラマシリーズ化された「タイムトンネル」で毎週楽しみに観ていました。

映画「宇宙戦争」との出会いはブラウン管の画面を通してでした。原作は1989年にウェルズよって書かれ、小説の発表から映画化までに64年もの年月を必要とし、さらにまた長い年月を経て、やっと僕は観ることが出来たわけです。その映画を観るその日まで僕は「地球防衛軍(1957年/日本・東宝)」と「宇宙大戦争(1959年/日本・東宝)」こそがこの世に存在するSFの最高傑作だと信じていました。

映画「宇宙戦争」を観終わった時、僕はそれまでのどの映画を観た時よりも大きな衝撃を受けていました。そして後日、その映画が日本のそれらの映画よりも数年前に製作されていたことを知りさらにショックを受けました。

この作品はモノクロだったのですが、当時はその恐ろしさに、思わず目を背けたくなるシーンがたくさんあったのですが、僕が何より怖かったのは、迫りくる火星人の攻撃に対して十字架をかざして立ち向かう牧師があっさり殺されてしまうシーンです。

後で冷静に考えてみれば、地球征服を目論んでいる、慈悲というものさえあるとも無いとも判らない異星人に対して、丸腰に十字架で立ち向かって行くのですから無茶と言えば無茶なんですが・・・・。未知なる邪悪なものという意味合いではエクソシストの登場も頷けるところではあります。でもそういう衝撃的な場面を目の当たりにさせてもらって初めて戦争というものの残虐さが理解出来るという愚かさ、それも人間の一面ですよね。

また侵略者によって牧師が殉教させられるこの場面や侵略者撃退の為に原爆を使ってしまう場面、そして映画のラスト、神に祈り続ける人々が集う教会が攻撃されそうになるところで、突然、侵略者たちが絶命してしまうという場面には宗教や政治に対する創作者の強いメッセージを感じたりもします。

photo対異星人というドラマの設定の中で現代社会が抱えている問題などについて表現する手法は後の「スタートレック」に通じるものがあるようです。100年以上も前に書かれていた作品だというのに今の社会にもぴったり当て嵌まってしまうのは著者が凄いということだけなのか、それとも人類が進歩していないということなのか・・・・。

実はこの映画の原作本は1938年のハロウィーンの夜、映画「市民ケーン」や日本製ウィスキーのCFなどでも有名なオーソン・ウェルズ氏によって臨時ニュースを装ったラジオドラマとして制作され、そのあまりのリアリティさに聴取者であった600万人のアメリカ国民が大きな恐怖の渦に巻き込まれ、うちの100万人が家を出て教会へ逃げ込んだというエピソードもあったそうです。

その後、1988年にTVのミニシリーズ版「新・宇宙戦争」としてリメイクされ、僕も一通り観たのですが、やはりオリジナルの面白さ、インパクトには届かなかったように感じてしまいました。それも僕があまりにオリジナル版に思い入れがあるせいでしょうか?機会があれば、そちらの方も観比べてみて感想を教えて下さい。

今でこそCG技術が進み、あらゆる映像をスクリーン上に構築することが可能になっていますが、ふたつの画面を合成することさえ大変だったこの時代に近代映画に劣らない程の楽しさを伝えることが出来たのは「溢れるほどの情熱と創造力」の成せる業なのでしょう。

昨今のCG多様のSF映画やスペクタル映画を観慣れている方は、これらの古い時代の映画やB級と呼ばれている映画を楽しむ前に、時代考証や人物について知っておくことをお奨めします。意外な楽しみに繋がりますよ。でも知識を溜め込みすぎてあまり頭でっかちになり過ぎるとあなた自身が「絵に書いた火星人」になってしまうのでご用心!

僕はこのモノクロの「宇宙戦争」という映画を観た後、外国製SF映画とSF小説にどっぷり嵌り、片っ端から漁り続けて、少年期の早い時期の想像力を飛躍的に高めてゆきました。現在、僕が「ものつくり」をしているのは、この映画を初めとして素晴らしいSF作品たちに触発されたことが大きいと確信しています。

この夏、僕は新たな解釈が添えられ、新たな手法で生まれ変わった、スピルバーグの「宇宙戦争」との出会うため、いそいそと劇場へ足を運ぶつもりです。

そしてまたあの少年の頃のキラキラとした心とときめく心を抱きながら、もう一度、あの懐かしいモノクロの「宇宙戦争」にも会ってみたいと思っています。

2005.4.10 掲載

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