第13回 診断書の提出で年金が増えることもある!(1)
昼下がりの午後、30代ぐらいの女性と60代と思われる女性が二人で相談に来た。相談対象者の60歳の女性はひどくくたびれた表情をしている。 親子かな?年の離れた姉妹かな?ただの友人かな? いろいろあるだろうけど、年金相談には関係ないので手続きを進める事にする。
——年金の手続きですね。お持ちの書類を拝見します。
緑の大きな封筒から、誕生日の3カ月前に送られてくるターンアラウンド裁定請求書を取り出した。住所、お名前、生年月日、基礎年金番号等を確認して、ページをめくる。
昭和30年1月1日生まれ、女性。 厚生年金が1年以上かかっていれば、60歳から厚生年金の報酬比例部分が受給できる人だ。
次のページは職歴欄だ。
——厚生年金は21年くらいかかっているようですね。職歴はこの欄に記載されているだけで間違いないですか?
「はい。間違いないです」
——今はお仕事されていますか?
「今は専業主婦です」
少しぎこちない返事が返ってきた。緊張しているのかもしれない。
職歴欄から直近10年以上は国民年金という記録がわかる。それにしても何か違和感がある。職歴欄をじっと見ると何か不自然だ。
転職を繰り返している人は沢山いる。転職を繰り返している人でも、その都度きっちり手続きをした人は不明年金は発生しない。しかし、転職を繰り返す人はおうおうにして年金の手続きもおざなりになりがちだ。つまり、転職を何度も繰り返している人は不明年金がありがちだ。
しかし、この人の職歴は不明年金がある不自然さとは何かが違う。
事務職の人だと良く分かると思うが、いつもいつも沢山の書類を見ていると、ミスや嘘があると書類が話しかけてくる。まさにこの職歴欄も狸に何かを語り掛けている。 しかし、それが何なのかよく分からない。
違和感を感じながらも本人が「間違いないです。」と言うのでそのまますすむ事にした。同行している30代の女性は、じっと見ているだけで何も語らない。
職歴欄から4枚めくると配偶者の欄だ。
配偶者は、昭和10年5月1日生まれ。 年の差20歳。
もちろん、既に年金を受給している。
——ご主人の年金は幾らぐらいですか?
「主人は国民年金しかかかっていないので凄く安いんです。いつも年金をちゃんと掛けておけば良かったと悔やんでいます」
しどろもどろな言葉が返ってきた。
年金相談が始まって30分以上立つのに相変わらず、しどろもどろな答えが返ってくる。
それより、問題は返答の時の仕草が不自然だ。
——生活大変な事ないですか?
「市役所で支援しています」
同行している女性が初めて口を開いた。同行者は市役所の職員さんだった。
それで全て納得した。
ご主人の年金収入は月に約3万円。ご主人は国民年金だけだが、殆どの期間保険料免除にしていたようだ。奥様は専業主婦。この金額では普通は生活ができない。そこで、生活保護を受給していたという事だろう。
先程来の疑問を思いきって聴いてみた。
——障害者手帳等はお持ちですか?
「持ってないです」
同行の女性が目配せしてきた。
「私、障がい者じゃありません」
——失礼しました。
もう一度同行の女性に目をやると、困った顔をしていた。
狸は医者じゃないので断定してはいけないが、年金相談の経験から推測すると障害年金3級程度には該当しそうだ。 しかし、本人は請求したくないのだろう。(つづく)
2015.4.27 掲載
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