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第9回 年金が少ない


「私、年金が少ないんですよ」

年金相談で「私、年金が多いんです」という人は珍しい。ほとんどの人は「少ない」という。この日の67歳の男性も、「年金が少ない」という相談だった

「また、年金が減ったんです」

年金は、物価に連動して支給額が上がったり下がったりするのが原則だ。従って、物価が上がった時は年金の支給額が上がるが、物価が下がった時は年金の支給額が下がる。 ところが、過去に物価が下がって年金の支給額を下げるべき時に、年金の支給額の減額が年金生活者に与える影響や、物価に与える影響を考慮して、支給額を下げなかった。
  このような事由で、本来の年金支給額より2.5%高い年金額が支給されていた。しかし、何時までも高い水準の年金を支給するのは好ましくないということで、平成25年10月から段階的に年金額を減額し、適正な水準にする事にした。

具体的には、

    平成25年10月分より 1.0% 減額
    平成26年4月分より 1.0% 減額
    平成27年4月分より 0.5% 減額

合計2.5%減額して、適正な支給水準にする計画だ。
  ところで、年金は偶数月の15日に支給されるが、原則として後払いなので、上記の減額は

    平成25年10月分 → 平成25年12月支給より減額
    平成26年4月分 → 平成26年6月支給より減額
    平成27年4月分 → 平成27年6月支給より減額

となる。ところで、平成26年4月分は本来なら1.0%減額の予定だったが、物価が0.3%上がったので、差引0.7%減額となった。

彼の「また、年金が減ったんです」という言葉は、平成26年4月分について、平成26年6月からの支給が減額になりますという通知が来たという事だ。 この通知は彼だけでなく、全ての年金受給者に送られている。つまり、彼だけが減額になったわけではない。

——物価の関係で皆さん年金が下がりましたから、仕方がないですね。

「それにしても、少ないと思うんです」

——65歳時に一度増えませんでしたか?

原因を確認するためにいろいろと聞いてみる。

「はい。増えました」

65歳で年金が増えたという事は、厚生年金の期間が1年以上有り、60歳から年金を受給していたという事だ。

——年金は幾らぐらいですか

「2か月に1回で13万円ぐらいです」

国民年金の満額の金額とほぼ同じだ。すると、

  1. 厚生年金期間以外の期間は国民年金に加入していなかった。
  2. 年金が支給されていない。

のどちらかが考えられる。

——年金証書はお持ちですか?

「これの事ですか?」

年金証書を確認した。発行日は平成24年の日付が入っている。つまり、65歳の時の年金証書だ。老齢基礎年金(国民年金)の欄に金額が入っている。しかし、老齢厚生年金の欄は空欄だ。

やはり、年金が支給されていなかった。

65歳前から年金を受給している人は、65歳になった時点で、引き続き年金を受給するか、受給を少し待って金額を増やせるかを選べる。
  法律的には、60歳代前半と後半の年金は別の年金だから、65歳の時点で60歳代前半の年金が終了し、65歳以降の年金について裁定請求をするか、しないかの選択となる。裁定請求をすれば、年金が引き続き支給されるが、裁定請求をしないと年金は支給されない。年金が支給されない状態の事を繰り下げと呼んでいる。年金の繰り下げは、老齢基礎年金(国民年金)と厚生年金を同時にしてもいいが、別々にしても良い。 これにより、65歳以降は次の組み合わせが選べる。

  老齢基礎年金(国民年金) 老齢厚生年金 ※備考
(1) 受給 受給 通常の人です。
(2) 繰り下げ 受給  
(3) 受給 繰り下げ  
(4) 繰り下げ 繰り下げ  

年金の繰り下げをした人は何時でも年金の支給を請求できるのだが、年金額を増やそうと思えば1年以上繰り下げをしなければならない。1年以上繰り下げすれば、65歳時点から起算して1カ月あたり0.7%年金が増額される。
  狸のように自営業等で年金額が少ない者には有益な制度だ。

彼は65歳の時点で、うっかり厚生年金の繰り下げをしてしまったようだ。そのために、老齢基礎年金(国民年金)だけが支給され、老齢厚生年金が支給されていない。そんな間違いがあるのかと疑問に思う人がいると思うが、65歳の時に、日本年金機構から下の年金請求書が届く。

年金請求書(老齢年金)

一般に「現況届け」とか「生存確認の葉書」といわれているが、正しくは年金請求書だ。

前述したように、65歳前と65歳以後では別の年金となるので、65歳の時点で再度年金請求書を提出する必要が有るわけだが、普通の人はそんな事良く分からないので、日本年金機構から簡素化した年金請求書が届き、それを送り返したら、年金の手続きが完了となる。

ところが、この年金請求書の一番下に繰り下げ欄がある。
  この欄に○を付けると繰り下げになる。

従って、(1)の人は何も○を付けずに返送すればよいわけだ。また、老齢基礎年金(国民年金)又は老齢厚生年金のどちらかだけを繰り下げしよう思う人(2)又は(3)の人は、繰り下げしたい方の年金に○を付けて返送すれば手続きは完了だ。両方とも繰り上げしたい(4)の人は、両方に○を付けて返送しても良いが、そもそも返送しなければ、年金は支給されないのだから自動的に両方とも繰り下げとなる。

彼はうっかり老齢厚生年金に○を付けてしまったんだろう。本来、老齢基礎年金(国民年金)と老齢厚生年金が支給されるところ、老齢基礎年金(国民年金)しか支給されなかったのだから、「年金が少ない」と感じて当然だろう。

彼の老齢厚生年金は2年間支給されていないのだから、

    0.7%×24月=16.8%

増額となる。

ところで、年金の繰り下げのつもりはなかったのに、うっかり繰り下げをしてしまった人のために、繰り下げ後の年金の支給開始の手続きをする時に、

    (A)そのまま繰り下げの年金を受給する
    (B)繰り下げをせず、65歳に遡って受給する

を選べる。繰り下げをすれば今後の年金額は16.8%増額となる。しかし、増額をせずに65歳に遡るとなると、過去2年分の年金が一時金として支給され、その後は増額されていない本来の年金が支給される事になる。

いずれにしても、彼の年金額は増える事になる。 めでたし。めでたし。


2014.11.15 掲載

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