第8回 障害年金をもらっていない人でも受け取れる、障がい者の特例がある!
一般の年金の相談に来た人に、念のため聞いてみた。
——お体は健康ですね。障害年金等は受給していないですね。
「障害年金は受けていないです。」
穏やかな彼女が落ち着いた口調で答えた。
しかし、今までの会話と違い、少し「は」の音が強いように感じた。
——お体の具合はどうですか? 例えば、健康状態とか、いかがですか?
「健康と言えば健康ですが・・・・心臓につながる血管が人工血管です」
——人工弁ではなく人工血管ですか?
「弁は自分の弁です。心臓に繋がる血管が人工血管です」
心臓の弁を人工弁にしていると、障害年金3級に該当する。しかし、心臓に繋がる血管は障害年金の表に記載がない。
——もう少し、詳しくお聞かせ頂けますでしょうか?
「弓部大動脈が人工血管となっています」
——いつ頃発病されました?
「若い頃です。発病自体は学生時代かもしれません。40代の頃には既に人工血管となりました。最初は人工血管の箇所が短かったのですが、だんだんと、人工血管の周りの血管も悪くなり、その都度人工血管の箇所が増えてきました」
障害年金の手続きをするためには、初診日を特定する必要が有る。しかし、何度か引っ越しをしている関係で、その都度病院も替わっている。同じ病院にかかっていれば、カルテが残っているのでカルテから初診日を特定する事ができる。
しかし、カルテの保存年限は5年間だから、病院が替わった場合は、替わる前の病院は5年間しかカルテを保存していない。つまり、替わる前の病院に問い合わせてもカルテが残っていないため証明して貰う事ができない。
「人工血管が何か問題がありますか?」
「年金が貰えなくなるのですか?」
——いえ、そうではなくて、人工血管が障害年金に該当するかどうかを考えているのです。
「私は、若い頃からこの病気で悩まされてきました。もう、そっとしておいて下さい。」
——まぁそういわず、もう少し教えてください。確認したい点は、弓部大動脈を人工血管に置換している事が、障害年金3級に該当するかどうかです。
「障害年金はもういいです。若い頃何度か相談しましたが、ダメでした」
——そうですね。確かに、人工弁は障害年金に該当しますが、人工血管は障害年金の等級表に載っていません。
「だから、ダメなんでしょう」
——しかし、先ほどの話では、人工血管の周りの血管が傷みだして、どんどん人工血管の範囲が長くなっているのですよね。
「そうです。その結果、弓部大動脈全てが人工血管になりました。どうしても、自分の血管と人工血管の接続部が傷みやすいようです。でも、全て人工血管になったので、これ以上悪くなる事はありません。いったい何が問題なんですか?」
——初診日から1年6カ月(障害認定日)に障害年金に該当すれば、今から5年間遡り障害年金が支給されます。そして、これからの分は、老齢年金と障害年金で金額の高い方を選んで頂く事が出来ます。障害認定日に障害年金に該当するほど病状が悪くなくても、その後、障害年金に該当するほど悪くなっていると、障害年金を請求した日の翌月からの支給となります。つまり、今後、老齢年金と障害年金のどちらか金額の高い方となります。
「5年分、余計に年金が貰えるという事なんですか?」
——そうです。しかし、障害年金の手続きをするためには初診日を特定する必要が有ります。
「初診日はわからないです」
——初診日が特定できなければ、障害年金の請求は難しいんです。
「そもそも、人工血管は障害年金にならないんですよね」
——そうです。しかし、先ほど、人工血管を自分の血管の接合部が悪くなりやすいとおっしゃいました。つまり、そこで血の固まりが出来やすいと思います。弓部大動脈は脳に血液を運ぶ血管ですから、その血の固まりが脳に運ばれる危険性が高いという事ですよね。
「そうです。ですから、医者には運動は止められています」
——やはりそうですか。 障害年金自体は、初診日が特定できないので難しいと思います。しかし、今日手続きをして頂いている特別支給の老齢厚生年金に障がい者の方の特例があります。
「なんですか、それ?」
——障がい者の方、具体的には障害年金3級に相当する障がい者の方が、会社を退職して老齢厚生年金を受給する場合は、65歳まで配偶者加給年金と定額部分が支給される特例があります。
「でも、障害年金は受給できないんでしょう。だから、障がい者の特例もだめでしょう」
——障がい者の方の特例は、障害年金を受給していなくても、支給されます。今のお体の状態が障害年金に該当するかどうかが問題です。障害年金を受給していなくても、お体の状態だけで判断します。
「金額はどれくらいですか?」
——ご主人は、お仕事は何をされています?自営業でしょうか?会社員でしょうか?
「主人は大工です。自営業です。それが何か関係があるんですか?」
——つまり、ご主人は国民年金なのか厚生年金なのかを確認したかったんです。
「主人はずっと大工で、国民年金です」
——ご年齢は?
「2つ下です」
——すると定額部分と配偶者加給年金であわせて約120万円です。この金額が60歳から65歳までの5年間支給されます。つまり、合計約600万円となります。
「かなり、大きな金額ですね」
——だから、頑張って悩んでいるんです(笑)
「どうすればいいですか」
——問題点がいくつかあります。
- 「医師が人工血管により脳血栓ができやすい状態で危険だ」 と言う内容の診断書を書いてくれるかどうか?
- そもそも、1.の内容で、障害年金3級に該当するかどうか?
「どうすればいいですか?」
——だめもとで、やってみますか?
「はい」
——費用がかかっても良いですか?
「お金がいるのですか?」
——診断書は病院にもよりますが、1枚3,000円から10,000円かかります。金額は病院が自由に設定できますので、幾らになるかわかりません。
「それぐらいなら、ダメもとでやってみます」
* * * * *
後日、診断書が提出されて、障害者特例の認定が出ました。本人さんから「若い頃からのこの病気に悩まされてきたが、初めて病気で得をした」とお礼を頂きました。「得をした」お金の問題ではなく、いままで、病気に悩み、病気を憎んでいたのに、病気と打ち解けあえたみたいです。病気に対して心が穏やかになれた事が最も得をした事でしょう。
2014.6.23 掲載
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