びわこの狸・特別寄稿 「運用3号」の適用についての疑問
平成23年1月1日(平成23年1月4日)より、運用3号の適用が始まりました。
例えば、ご主人が会社員で、会社を退職し、半年ぐらいして再び会社員になったような場合の専業主婦の奥さんは、ご主人の転職に合わせて、
国民年金第3号被保険者→国民年金第1号被保険者→国民年金第3号被保険者
と種別変更されるのですが、うっかり種別変更届の提出を失念し、最初から国民年金第3号被保険者のままでいる方がいます。
従来ですと、このような方は、裁定請求の際に、正しい形に修正します。
修正したことにより、国民年金第1号被保険者期間の保険料納付が発生します。
ところが、国民年金第1号被保険者となった期間が2年以上前の期間だと保険料の納付ができなくなり、その期間の分国民年金の給付額が下がることになります。
給付額が下がるだけならまだしも、その結果25年の納付期間を満たさなくなり、受給権が発生しない人もいました。
例えば、
|
平成1年4月 |
|
平成1年5月 |
|
平成16年10月 |
|
平成16年11月 |
ご主人 |
厚生年金 |
→ |
国民年金 第1号被保険者 |
→ |
国民年金 第1号被保険者 |
→ |
厚生年金 |
奥さん |
国民年金 第3号被保険者 |
→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→ |
国民年金 第3号被保険者 |
|
となっていた奥さんの記録が修正されると
|
平成1年4月 |
|
平成1年5月 |
|
平成16年10月 |
|
平成16年11月 |
ご主人 |
厚生年金 |
→ |
国民年金 第1号被保険者 |
→ |
国民年金 第1号被保険者 |
→ |
厚生年金 |
奥さん |
国民年金 第3号被保険者 |
→ |
国民年金 第1号被保険者 |
→ |
国民年金 第1号被保険者 |
→ |
国民年金 第3号被保険者 |
|
となるのですが、平成1年5月から平成16年10月までは保険料を支払っていませんし、今から支払うにしても2年の時効が過ぎているため、遡って支払うこともできません。すると、この期間15年6カ月間は保険料未納期間となります。40年から引きますと、24年6カ月になりますので20歳前に厚生年金に加入していた期間がない場合は、60歳以降に厚生年金に加入するか、国民年金に任意加入しないと受給権が発生しません。年齢や他の納付期間の関係で受給権が発生しない方もいます。
このような期間は、本人の届け出忘れが原因で発生するので、それにより、給付額が下がったり、受給権が発生しないとしても、元々本人に責任があり仕方がないことなのですが、オンラインシステムが発達していない頃は、対象者への告知が十分でなかった等の理由により、救済策が講じられるようになりました。
具体的には、国民年金第3号被保険者の期間を取り消して国民年金第1号被保険者とせずに、最初から最後まで国民年金第3号被保険者期間として認めようという制度です。この制度により認められた国民年金第3号被保険者の期間を運用3号といいます。
もちろん、運用3号が認められるのは2年以上前の期間、つまり、時効で保険料納付ができない期間に限られます。従って、今後法律が改正され、10年間遡り保険料が納付できるようになると、10年以上前の期間に限定されるかもしれません。
ここでは受給権がなくなる仕組みがわかりやすいように、運用3号の期間を15年と6カ月間とする極端な例を用いましたが、実際には、ご主人が転職する間の3カ月とか1年程度が運用3号になると見込まれます。しかし、運用3号の期間が3カ月とか1年程度であっても、それ以外の未納期間が長い方だと受給権がなくなる場合があります。
こうした人々を救済する運用3号の適用は一見すばらしい制度に思えますが、この制度は非常に不公平です。法律に基づき種別変更届を出して保険料を納付した人と、うっかり届けを出さずに放置し保険料を払わなかった人が同じ年金額を受給できることになります。同じ年金額ならまだしも、種別変更届を出して第1号被保険者になり、保険料の支払いができなかった人は、保険料免除期間や保険料未納期間が発生しています。つまり、まじめに手続きをした人の方が、手続きをしなかった人より年金額が少なくなるというばかげた事態になります。
また、運用3号の期間は、国民年金第3号被保険者と違い保険料の納付が全くありません。国民年金第3号被保険者の期間は被用者年金各法(厚生年金保険、共済年金等)より基礎年金拠出金として国民年金第2号被保険者にあわせて国民年金第3号被保険者の分の保険料が支払われますが、運用3号の期間は保険料が全く支払われない期間となります。
すると、年金の受給権という権利の発生のために必要な義務の履行である保険料の納付が全体の2分の1未満となり、権利性が薄くなります。
年金の受給権は憲法で保障する生存権から直接発生する権利であるというのが通説です。憲法が保障する権利ですから法律で制限を加えることができません。物価の上下により些少の調整はできても、国家財政が赤字だからと言って、国民年金特別会計から埋蔵金と称する資金を出して、特別会計が減った分、年金の給付額を半額にするというような乱暴なことができないわけです。
ところが、権利性が薄くなると言うことは、法律で制限ができると言うことになります。保険料の納付とか各自が請求する必要があるとか年金は面倒くさいと思われがちですが、全てを自動にして快適にし、そのかわり、その時代の政情や政権により自由に減額されるという不安定さを選ぶのか、やるべきことはしっかりとやって自分の権利は自分で守るのかの選択だと思います。
解決策としては、運用3号の期間に対して保険料納付の特例を認めると良いと考えます。つまり、修正すると国民年金第1号被保険者になる期間を第3号被保険者期間として認めるのではなく、国民年金第1号被保険者だったはずの時期に未納だった年金を追加で納められるようにするのです。例えば、運用3号の期間が見つかった場合は、運用3号の期間を合算対象期間とし、年金の受給権を確保しておき、当該期間がみつかった日の翌日から、当該期間×2の期間(老齢基礎年金を受給している期間を含む)まで保険料の納付できる期間を延長するという制度です。先の例でいえば、当該期間(平成1年5月から平成16年10月までの15年と6カ月間)が見つかったら、その間未納だった国民年金保険料を、見つかった日から31年かけて支払ってもらうのです。
当該期間×2としたのは、60歳未満の第1号被保険者に運用3号がみつかった場合は、現在の国民年金保険料と同時に運用3号の保険料を支払うことになりますので、負担が大きくなることを考慮して、2カ月で3カ月分(現在の国民年金保険料2カ月+追納1カ月分)支払えば良いという考え方をしました。
(老齢基礎年金を受給している期間を含む)としたのは、運用3号の期間に追納を認めるとなると、納付する期間が長期になることがあります。老齢基礎年金を受給している期間を除くとなると、実質的に納付できなくなることがあるので、未納期間の納付に準じて、老齢基礎年金を受給している期間を含むとしました。
未納期間については、通常2年以上前の期間は認められませんが、運用3号の期間は2年以上前の期間が原則ですので、2年以上前の保険料免除の期間の追納に準じて、保険料にかかる利息も加算するべきだと思います。
また、前納ではなく過去の分の支払いですから、当然一括納付も認めるべきでしょう。
これで、手続き忘れの人については、受給権発生前に納付が完了したら、その時点で当該期間分の年金が受給できますし、老齢基礎年金受給後も払い続ける場合は、支払いの都度年金額が増額し、支払い完了で当該期間分の年金が受給できるようになります。
運用3号の期間について保険料の納付という義務の履行が行われますし、義務の履行が遅れると受給額が減るという当然の不利益も発生します。受給権発生前に完納した人についても保険料に利息の加算という不利益が発生します。この不利益の発生により、きちんと手続きをして保険料をきちんと支払った人との公平性を保つことができると思います。
平成23年1月1日から始まった運用3号の制度は現状ではあまりにも不公平で理不尽です。世界一、年金制度が発達し、安全で自由な国、日本の国民の一人として、世界に恥じるような政策はやめて欲しいと思います。
2011年1月11日 びわこの狸。。。○
|