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第136回  左手は布団の中の徘徊者

今年の初め、左手の薬指がバネ指になったことは以前ここに書いたと思います。そのバネ指にまたまたなりそうなのです。場所は前と同じ、左手の薬指。指を握ったり開いたりする動作がぎこちないのです。

なぜ再び? なぜ左手の薬指? 以前感じた疑問が再び頭の中にわき起こりました。今回こそはしっかりその原因を掴もうと思い、しばらく探偵のように左手に密着してみました。散歩の時、トイレの時、食事の時、とにかく普段ほとんど関心のない左手の薬指に注目してみたのです。
  しかし、なかなか左手を酷使するような場面に出くわすことはありませんでした。よく使う、利き腕である右手と違い、やはり左手は右手のサポートに徹しているようで、普段は影のような存在。

でも今回は諦めるわけにはいきません、同じ轍を踏むことは私の美学に反します。影の部分にスポットを当てるが如く、左手を観察すること一週間、なんとなく原因らしきものが見えてきました。それは寝相です。実は私、寝相が悪いのです。眠りにつく時は、たしかにしっかりと敷布団と掛布団の間に収まっていたはずの身体が、起きたときはまるで天地がひっくり返った様。敷布団から随分離れ場所に、掛布団をロールケーキ状に自分に巻きつけたまま倒れていることが多いのです。

この時です。この時の倒れ方に原因があったのです。うまく説明できるかどうかわかりませんが、こういうことです。どうやら眠っている間に、寝相の悪い私は枕とおさらばし、最終的に左腕を枕にして寝てしまっているのです。長時間、この重たい頭を乗せた左腕はどうなりますか。朝目覚めたころには、左腕に乗っかった頭の重さが、左腕に流れるはずの血を堰き止め、血流を悪くし、たいへんな痺れをもたらすのです。

目が覚めてしばらくは、左腕の感覚がなく、あっ!左腕がもげた!!と思うこともしばしば。日々のこの、眠っているときの左腕の血流の悪さが、指の中でも最も先にある薬指に悪い影響をもたらし、結果バネ指にいたるのではないか、という素人考えで予想をたて、医者に話をしたら「うーん、原因はそれにほぼ間違いないでしょう」と言われたので、「じゃあ、どうすればいいのですか?」と訊ねると、「なるべくそういうことはしないで下さい」と言われ、そんなもの「なるべくそういうことはしないで下さい」と言われても、事件はこちらが眠っているときに起こることなので、どうしていいのかわからない。

それでもこちらとしては、「はい気をつけます」としか言いようがなく、その日から、今度は布団に入った後の左手の行動を監視をすることにした。寝床に入る、はじめは胸の上にシッカリと置かれた左手、しかし数分後、もぞもぞとお尻の下に移動。そういえばこの移動はなんだかスムーズだ、それにこのお尻の下というポジショニング、とても落ち着く。これはひょっとしたらいつもやっている行動かもしれない。

そう考えていると、なんだか敷布団とお尻の下に挟まれた左手が痺れてきた。あっ、いかん、そう思い直し再び手を胸に。あぶないあぶない、痺れは血液の流れが良くないことの証拠、それによってバネ指が再発するおそれがあるのだから、いくら楽チンな手の居場所だからと言ってお尻の下は駄目だ、左手の定位置は、胸の上胸の上。

けれど数分後、手持ちぶさたの左手は痺れを切らし、ご主人様の許しのないまま勝手に自由行動。今度は背中の裏までの遠出だ。だけど、移動中にその単独行動に気がつき、痺れが来る前になんとか捕獲。三度左手を胸の上に。が、またまた数分後、またまたこちらの気がつかないうちに左手の徘徊がはじまった。左手の次にとった行動は、なんと!枕と頭の間に浸入することだった!!

頭の下に左手という、あまりに自然な移動と行為にこちらもまったく気がつかない。ああー、この姿勢は楽チンだ、心の中で本当にそう思っていた。が、あっ!と気がついたときにはすでに痺れが!!もう、まったく!こちらが注意を向ければ向けるほど、心の油断をついてどこかの隙間に潜り込もうとする左手。それはもう生きもののように、こちらを上手にそそのかし、体と布団との隙間に隙間にと移動して行き、ごくごく自然にどこかに収まっていく。この己の心さえも自然に欺くナチュラルな行動にもうお手上げの状態。気づけばこちら、いまはあちらと、とにかく落ち着くことなく左手は居場所を移動し続ける。

こんなこと、この48年の間、まったく気にしたこともなかった。私の左手は、布団の中の徘徊者。50歳手前で気づく自分の癖。夜になると自分の意志とはお構いなしに、自己主張をはじめる己の左手を、大人しくさせる方法はいったいあるのだろうか。やはり監視しかないのか、しかし監視を始めて数時間、とうとう睡魔が訪れ、いつの間にか眠りに入ってしまった。目覚めたときにはヘルニアの腰の下にすっぽり嵌っていた。痺れはビリビリ、薬指は痛みを伴っている。これでは昨年の二の舞に。これ以上指が悪くなる前に予防線を張るしかない。しかし・・・良いアイディアがなにも思い浮かばない。かといってこれ以上夜通し左手を監視するのもこれまた無理な話。人間は眠らなければ生きていけないのだ。さてどうするか、と悩んだあげく、試しに左手だけ手袋をはめて寝てみることにした。

これがどうだろう、手袋に包まれた左手は、借りてきた猫のようにすっかり大人しくなってしまった。これで今年のバネ指は防げるはず。そう思っていたのだが、夜中に左手に汗をかくみたいで、今度は左手が痒くて痒くて仕方がない。指と指の間に、とうとう湿疹のようなものができてしまった。ああ、あちらを立てれば、こちらが立たず。まるで政治の世界で起こるような出来事が自分の体内で起きているのだから面白いことは面白いのだけれど、痛いのはもう勘弁して欲しいと思う。

どうか、みなさん、もしよろしければどなたか、このバネ指対策に良い解決策があったらこっそり教えて下さらないでしょうか。
  年の瀬の痛みは、いつも以上にこたえます。



2008.12.24 掲載

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