第120回　　不思議な後遺症

今年の初めの入院騒ぎから、二ヶ月が経過した。入院前と比べ、肉体的な変化や後遺症はまったくといっていいほどない・・・と思われる・・・が、ちょっと気になることがある・・・ので、その話をしよう。

一つは夢。入院前は月に１回見るか見ないか、という感じだった夢を、退院後は毎日のように見るようになった。昔からそうなのだが、見る夢の内容が、基本的に明るくない。というか、はっきり言って暗い。誰かに追いかけられたり、殺されそうになったりする夢が多く、朝起きたときの気分は最悪なときが多い。

いちばん嫌な夢は、この世にたったひとり、自分だけしか生き残っていない夢で、起きた瞬間からとてつもなく絶望的な気持ちに落とされる。夢なのだから・・・とすぐに頭を切り替えられればいいのだけれど、絶望的な気持ちがそのまま居座り、それがこれまでの過去の嫌な出来事を思い出す呼び水になって、一日中苦しい思いをすることになる。たかが夢なのに、その夢に引きずられ、大事な一日をウンウン苦しんで過ごさなくてはいけないなんて、もうかったるくて仕方がない。

こんな日は人に会わないのがいい。会えば、その人に絶望感という棘を刺してしまう恐れがあるから。だけど、中には断れない約束があって、そんなときは絶望を丸抱えしたままその人と会うことになり、ネガティブな空気と言動で相手に多大なダメージを与えてしまう。ごめんなさいごめんなさい、と心の中で頭を下げるという無意味なことをくり返しながら家に帰り、そのまま寝室に直行。頭から布団をかぶっての大自己嫌悪大会。

たかが夢が周りに与える影響はデカイ。今朝の夢なんか最たるもので、まず真っ暗。内容が暗いのではなくて、夢の中に色がない。真っ暗な闇夜。その闇夜の中で、兄と死んだはずの母が肩を振るわせて泣き叫んでいる。ギャー！ギャー！！ううう・・・恐い・・・・、そのまま十年ぐらいかかったことがなかった金縛りに会い、んんんん・・・と苦しむ。こんな状態で目覚めた朝は、もう気分が悪くてたまらない。今日は絶対に人に会うことはやめとこう。殺人者にだけはなりたくないから。

ああ・・・それにしても、どうして楽しい夢が見られないのだろう・・・夢の中だけでもいいから、ディズニーランドで大はしゃぎ、ばんざーい！！・・・なんてことにはならないのだろうか。うーん、なるわけないだろうなぁ。

気になることの二つ目はデジャブ。「デジャブ」とは、「既視感」といって、実際は一度も体験したことがないのに、すでにどこかで体験したことのように感じること。

このデジャブが実に多い。ほぼ毎日のように感じている。これもおかしい。電車の吊革につかまってはデジャブ、道端で佇んでは、デジャブ。そのつど驚き、考えあぐねる。ああ、こんなこと、以前にもあったわね・・・なんてことを一々思ったりして、疲れて仕方がない。

あと、その逆もある。たとえば、いつも歩いていた道なのに、初めて通る道のように感じてしまうことがある。これはこれで妙。頭の中では知っている道が、感覚としては初めて通る道。なにかがズレている。この先もこんな症状が続くようならちょっと心配。ひょっとしたらマジで頭がおかしくなってしまったのかもしれない。なんといっても頭にウイルスが入ってしまったのだから、それぐらいのことはありえるわけで・・・。取り急ぎ、医者に相談すると「まっ、様子をみましょう」としか言って貰えなかった。

それにしても後遺症というやつは、どうして自分にとって都合の悪いことばかりなのだろう。もっと自分にとって都合のいい後遺症というものはないのだろうか。たとえば、性格が素直になるとか、人に対して優しくなれるとか、毒舌が薄まり、褒め言葉がポンポンと口をついて出てくるようになるとか・・・。そんな夢のような後遺症ならいつでも歓迎なのに、世の中そうはいかないみたいだ。

まぁ、そんなことばかり考えていると脳が疲れてしまうので、今は何も考えずに脳を休めてあげるのがいい、そうお医者さんは言うのだけれど、長年の癖でついつい考え込んでしまう。当分は「悩まず」「悔やまず」「考えず」でいかないとまた倒れてしまう。気をつけないと。

さて、もうじき４月になる。そろそろ大学の授業が始まる。今年から平成生まれがドンと入学してくる。だりィー、めんどくセェー、ヤル気ねぇー、これが平成生まれの三大口癖。これは手強い。今の精神状態で、彼らと接するのはシンドイとは思う。だけど、ある意味刺激があっていいのかもしれない。楽しみだ。いつまでもうじうじクヨクヨしていても仕方がない。ゆっくりだけど始動です。

2008.3.31　掲載