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第64回−番外編− 知られざる名俳優  江頭2:50


江頭2:50。今回、僕が選んだ六人の天才的な俳優の中で、唯一いっしょに仕事をしたことがない方です。

江頭さんといえば、水中素潜り世界新やバラエティー番組の乱入タイツ男として有名です。でも、彼が素晴らしい俳優であることはあまり知られてはいません。僕ですら、それを知ったのは2000年に入ってからでした。

なぜでしょうか。やはり、それは日本という国の文化が、テレビ主体のテレビ文化国だからだと思います。テレビでついたイメージを払拭するには、テレビの中でまた違うイメージを作るしかないのです。簡単そうに見えて、これが大変。タレント一人の個人の力ではどうにもなりません。番組編成、番組制作サイド、所属事務所の理解などなど、とても面倒なことがおおいのです。

ですから江頭さんにはあの上半身裸の過激なタイツ男、というイメージが染みついていて、優秀な俳優さんであることはいまだにお茶の間では知られていないのです。

別にいまさらそれを批判しようとは思いませんが、悲しいことであることには違いありません。アメリカなら映画、イギリスならロックと芝居。あくまでアーティスト性重視の文化に対し、日本のテレビというのは、わけのわからない視聴率と製作サイドの狭い了見で作られる文化なのです。

もちろん例外はあります。ちゃんとした自分たちの意志や意見で作品を作っていらっしゃるテレビマンの人たちも現実にいます。しかし、それはやはり少数です。その人たちが大半を占めるには、まだまだ時間はかかりそうです。

話を江頭さんに戻します。彼を最初に俳優として認識したのは、彼が所属するお笑い集団、大川興業の本公演のときでした。

大川興業の本公演は笑いだけではありません。ちゃんとしたストーリーがあり、芸人たちは一つの役をしっかり演じるのです。 とくに江頭さんは凄い。全てにおいて全力投 球。決して手を抜くことはありません。一球入魂ならぬ一演入魂です。次の日のことなんか考えていないかのように、死ぬ気で演じてくれます。汗と涙をしたたらせ、男エガちゃんは突っ走るのです。

その生きいそぐかのような演技者に、こちらはただただ感動するばかり。

生きいそぐ。これはエガちゃんのためにある言葉のようです。

2003年、「江頭ソロライヴ」と銘打たれた公演の時でした。数あるエピソードの一つとして、彼は町長選だか村長選だかの一人の立候補者を演じていました。

立候補者といっても、ただの立候補者ではありません。ボトル焼酎「大五郎」を片手に持ち、着ているものはラクダのシャツと股引だけの見るからに悲しい泡沫候補です。手作りのミカン箱の上にのぼった江頭候補者は、
「有権者の皆様、わたくしは今日、落選しました?」
酔っぱらいながらも淡々と誰もいない選挙事務所で語り始めます。

ひとしきり敗戦の弁を語った彼はポツリと呟きます。
 「今朝、妻のサチコが死にました・・・・・。」

そこからは彼の真骨頂。死んだ妻のことを淡々と愛情を持って、ときにはだらしなく、ときには人間味あふれ、語るのです。聞いているこちらは涙を流すしかありません。だらしのない泡沫候補が芸人江頭2:50と重なって、とても切ない人間像を作り上げたのです。

演出:大川豊、主演:江頭2:50。この二人の男が創りあげた入魂の一作。お茶の間で見られないのが残念です。

その後、エガちゃんは体調を崩し休養に入りましたが。ここ最近、再びテレビなどに復活し始めています。だけど、相変わらずのタイツ男です。

誤解のないように言っておきますが、僕は決してタイツ男が嫌いなのではありません。僕自身とっても好きだし、ステキだと思っております。でも、ああいった爆発力を持った芸は寄る年波にはかないません。若い頃と比べてパワーが落ちるのは当たり前です。問題なのは、江頭2:50という芸人が、パワーが落ちて満足するようなヤツではないということ。パワーを持続させようと、結局は無理をして、己を潰さなければいいのだが・・・・・・。というのが僕の心配です。

いらぬお世話かもしれませんが、正直、そう思います。そのためにも、僕は俳優:江頭2:50のお茶の間登場を心待ちにしているのです。 その昔、渥美清が演じた「泣いてたまるか」 を江頭2:50で見たいと思います。

江頭2:50様。その日まで、どうか、お身体御自愛下さいませ。

2005.10.1 掲載

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