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第146回 「字幕の中に人生」戸田奈津子晩餐トークショウ

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戸田奈津子さん

9月12日、映画字幕翻訳の第一人者、元映画翻訳家協会会長戸田奈津子さんが半世紀にわたる字幕翻訳にかけた想いをプレスクラブ会員とゲストを前に熱く語った。題材が翻訳なので、同時通訳や逐語通訳で“Lost in translation”(翻訳中の混乱)を避けるため講演は敢えて日本語で行われたが、会場からの質問に歯切れよく答え、また参加者にアメリカ映画の字幕翻訳に挑戦させるなど満席の会場は大いに盛り上がった。

子ども時代から映画ファンだった戸田さんは、日本敗戦後に輸入されてきたアメリカやヨーロッパ映画が描く文化や生活の豊かさに魅せられ、英語を学ぶため津田塾大学に進学した。英語を生かしての二十数年の苦闘と努力の後、1980年フランシス・F・コッポラの「地獄の黙示録」で大ブレークして字幕翻訳家として認められるようになった。

筆者が戸田さんに初めて会ったのは1971年。婦人公論4月号別冊付録150ページほどの“I Hate Housekeeping”「家事嫌いの家事整理学」の翻訳が間に合わないというので、中央公論社の編集者だった友人に助っ人として呼び出された時だった。「字幕翻訳を目指している」と話す戸田さんがいかにも可愛らしいのでつい割り当て分を引き受けたが、その後彼女の名前を映画のタイトルロールで見るにつけ、初志貫徹されたことを喜んでいた。

そして50年、彼女の名前をプレスクラブ新入会者に発見した時に、当然のことながらトークショウを企画したわけである。

[戸田奈津子晩餐トークショウの写真]

戸田奈津子さんは、世界では映画の「アテレコ」吹替版が主流なのに日本ではアニメ以外で字幕版が残っているのは、観客が映像だけでなく、俳優の音声にも関心があり「ゲリー・クーパーの声を聴きたい」などという好みがあるからと述べた。そのため字幕翻訳は台詞1秒間に日本語3~4字、3秒1行に10文字程度をあて画面と字幕を同時に見られるようにすると説明した。

パソコンでDVDを操作しながら参加者に「ゴッドファーザー」と「ミッション:インポッシブル」の字幕に挑戦させた。また会場からの映画、翻訳、好きな俳優などの個別の質問に答え、著者のサインを求める本などを預かった。アボカドとシュリンプ・サラダで始まった晩餐も参加者に好評だった。

さて、今回のトークショウの直前に、字幕翻訳志望者には映画以外に活躍の道があると知った。「眼鏡字幕」である。劇団四季ミュージカルでは5種類の字幕を用意し、観客は眼鏡をかけて出演者の胸元を見ると英語、中国語(簡体字、繁体字)、韓国語、日本語(聴覚障がい者向け)から選んだ字幕がでる。現在は「ライオンキング」(東京公演、福岡公演)、「リトルマーメイド」(大阪公演、札幌公演)のみだが、来年度竹芝に生まれ変わる文化と水辺の町「WATERS takeshiba」に新設されるJR東日本四季劇場「春」杮落としで上演される「アナと雪の女王」でも眼鏡字幕が計画されている。

2019.9.28 掲載


著者プロフィール
渡辺 晴子(わたなべ はるこ) : HKW、シカゴ・サン・タイムズ、アジア新聞財団(東京支局長)を経て、現在HKW代表メディア・リポート特派員。30年来の(社)日本外国特派員協会会員で、副会長、理事、監事、選挙管理委員長を歴任し、現在は特別企画委員長、永世会員。同協会の取材活動、文化事業を企画している。また上智大学講師、ユネスコ「女性とメディア」開発コンサルタントとして内外のジャーナリストを育成。
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