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第12回 「きみがしらないひみつの三人」
「きみがしらないひみつの三人」(徳間書店)
ヘルメ・ハイネ作・絵
天沼春樹・訳
定価:1365円(税込)
私的おすすめ年齢 3歳〜
「人はいつか必ず死ぬ」ということを
ボヤンと理解しはじめたら
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ぼくのなかにも「ちっちゃいぼく」がいっぱいいて、
病気のときは大変だ〜って大騒ぎしてるのかな?
「あなたが大切よ」「世界一好きよ」
と言ってあげるのが親ならば、
「誰もが大切な命なんだよ」
と教えてくれるのが、この本です。
子供の事件が増えています。
親とうまくいっていなかったうんぬんと、毎日ニュースが流れます。
彼らがバクハツする前に、この本を読んでいたらどうだったのだろう……と思います。
「きみがうまれた日、三人のともだちはやってきた」
とお話は始まります。
三人とは、
アタマはかせ、ハートおばさん、いぶくろおじさんです。
アタマはかせは、
「きみ」が見たり聞いたりかいだりしたことをカードに書きとめて、いつでも思い出せるようにしてくれる。
夜におばけの夢をみたりするのは、「はかせがカードをまちがえたとき」なのだそう。
ハートおばさんは、
左胸の隅に住みついて、
「きみ」のこころにわいてくるいろんな気持ちの世話をしてくれます。
「なみだでびしょびしょのきもちはかわかしてくれる」し、「けんかしてこわれたきもち」は、のりで直してくれる。
そういういろんなきもちを、
だいじにしまっておいてくれるのです。
それは、
「きみがだれかをすきになったときのため」。
いぶくろおじさんは、うでききのコック。
食べたものを、もう一度おなかのなかで料理してくれる役です。
「冷たいのみものはおなかをこわさないようにあたためてくれる」し、「熱いものはフーフーさましてくれる」そうです。
彼らがけんかをして、
そろってだんまりを決め込むと、
「きみ」は病気になる。
赤ちゃんのときから、ずっと一緒。
女の子でも男の子でも同じ。
いつも「きみ」から離れずに、応援してくれるのがこの三人なのでした。
「きみ」のためにがんばって、ずっとついていく三人。それは、「きみ」がこの世からさよならする日までーー。
これで終わりじゃあありません。
見守ってくれてました、チャンチャン♪
ではないのが、この絵本のすてきなところ。
「きみ」が死んだ日に、三人はばらばらになるのです。
いぶくろおじさんは、仕事をくれた「きみ」にお礼をいいながら一緒に眠りにつきます。
アタマはかせは、
他の人たちの頭を訪ねて、
「きみ」のことを話してまわります。
「きみ」が立派だったときのこと、失敗したときのこと、夢見ていたことを。
ハートおばさんは、
「きみ」がまいた愛の種を育ててくれます。
そして、「きみ」が残した愛を集めて、
みんなの心に刻んでくれる。
もう、
「アタマはかせは、他の人の頭を……」
のあたりから、
わたし自身が涙をこらえるので必死でした。
わたしにも、ひみつの三人がいるのかもしれない。こんなに「きみ」のことを、思ってくれているような三人が、と思い始めたら、涙腺がゆるみっぱなしです。
彼らはわたしたちに、
「生きていてくれてありがとう」
と、見えないけど大切なメッセージを送ってくれているのです。
アタマにハートにいぶくろ。いつもありがとう!
自分が大切にされなかったとき、落ち込んだとき、生きているのが嫌になったとき、
親や友達、配偶者やきょうだいから、
「大好きよ」
と言われても、心に響かないことがあります。
「大好きよ」「大事なのよ」「愛しているのよ」
と言う言葉が、日本語でうまく活用されていないからかもしれません。
そんなときに、この絵本です。
子どもはもちろん、
大人の心にも染み入ります。
「死」を子どもが怖がらないように、
優しく教えてくれる1冊です。 |
2006.9.16 掲載
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