日本人が、お正月、お祭り、お彼岸などハレの日に食べるスイーツといえば、おモチ! では、ドイツ人が大晦日、キリスト教の祝祭、カーニヴァルなどハレの日に食べるスイーツとは……ドーナツなのである。意外にも、ドイツはドーナツ発祥の地のひとつ。(オランダだという説もある)。 とはいえ、ドイツのドーナツはアメリカ風ドーナツのように穴が空いていない。その地方ごとにそれぞれのカタチがあり、それぞれの呼び名がある。
まるで黄金の湖や〜!!なにゆえドーナツがドイツの農村から誕生したのか?そのカギを握るのが、牛である。その昔、ドイツの農村でもっとも羽振りが良かったのが、牛をたくさん飼っている酪農家だった。そして、酪農家がたくさん持っている財産といえば牛。牛からはミルクがとれて、ミルクからはバターがとれる。そして、このバターを煮立て、水分とチーズ分をカットすると、「シュマルツ(Schmalz)」と呼ばれる黄金の脂が姿をあらわす。これはインド料理で使われる神聖な脂「ギー」とほぼ同じものだ。 貴重なミルクからとれる貴重なバターを煮立て、ようやく姿をあらわす黄金の塊・シュマルツ。ドイツの酪農家たちはハレの日を迎えると、シュマルツを熱で溶かし、パン生地を浮かべ、揚げ菓子を作り、貧しい農民たちに配った。これがドーナツだ(総称:シュマルツゲペック Schmalzgeback)。純白のパン生地をキツネ色に変える贅沢な油シュマルツを、農民たちはこう讃えた。「まるで黄金の湖や〜!!(wie ein goldener See!)」。
で、ドイツのドーナツはおいしいの?ドーナツは大きくわけて3つのタイプがある。パンとほぼ同じイースト菌をまぜた生地を揚げるイーストドーナツ(モチモチっとした食感)。ホットケーキの素とほぼ同じベーキングパウダーをまぜた生地を揚げるケーキドーナツ(サクサクっとした食感)。そして、シュー生地を揚げるクルーラー(クシュっとした食感)。ドイツのドーナツは、ほとんどがイーストドーナツだ。
■イーストドーナツ ■ケーキドーナツ ■クルーラー どのタイプが好きかは人それぞれだろうが、今流行りのドーナツショップ「クリスピー・クリーム・ドーナツ(Krispy Kreme Doughnuts)」の前で行列に並ぶ熱意のある方なら、ドイツの味にもハマるだろう。クリスピー…(もう長いから略)がイーストドーナツの進化形なら、ドイツのドーナツは元祖。この味を例えるなら、小さい頃に3時のおやつに食べた「商店街のパン屋さんで売っている揚げパンの味」と似ている。決して洗練されていないが、お小遣い80円程度でお腹いっぱいになれるボリュームと、単純明快な昭和の甘さがそこにある。
ドーナツをつかった小学生風のイタズラ街の数ほどあるドイツのドーナツの中で世界的に有名なのがベルリンの銘菓「ベルリーナー(Berliner)」だ。ヨーヨーのような丸いカタチをした生地をふっくら揚げたあと、巨大注射器でジャムをつめる。意外とイタズラ好きな一面をもったドイツ人は、祝日になるとベルリーナーの中にカラシをこっそり注入して恋人や友達に食べさせる。ドイツ人はいくつになってもこの手のドッキリが大好きなのだ。
2009.12.15 掲載
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