世界的な人気画家ゴッホの複製画を20年にも渡って描き続けている中国人男性が、「本物のゴッホの絵を見る」という夢を実現するため、本場アムステルダムを訪れるまでを描いたドキュメンタリー。
予告編を目にした時点から強い興味を抱きましたが、上映開始直後から釘付けに!
まず、中国・深セン市近郊に、こんなに複製画制作が盛んな町があることを全く知りませんでした。
画工が、なんと約1万人もいて、世界の複製画市場の約6割が、ここで制作されているとのことで…。驚きを禁じえません。
ぼくは大の美術ファンなので、美術館のある所ならば世界中どこにでも出かけていきます。
本作の目的地であるアムステルダムにも二度訪れ、お土産屋さんで、実際に直筆の油絵による複製画を見たことがあります。それがまさか、中国で描かれていたとは想像もしませんでした。
本作の主人公であるシャオヨン氏の工房では、多い時には毎月6~700枚のゴッホの複製画を全世界へ輸出している、といいます。
優雅な絵の世界とは正反対といえる、工房の凄まじいまでの仕事っぷり。その必死さに心打たれると同時に、何ともいえない気持ちも。
さらに、そんな工房に支払われる額が、かなり安い一方、取引先は高値でそれらを販売。絵画ビジネス、複製画ビジネスの現実が浮き彫りになります。
シャオヨン氏は20年の間に10万点以上のゴッホの複製画を描いてきたにも関わらず、ゴッホの本物の絵を見たことは、ただの一度すらありません。でも、ゴッホへの畏敬の念は誰にも負けない熱いものがあります。いつか一度でいいから本物のゴッホを見たい、という夢を抱き続け、ついに、その機会が訪れます。
多くの日本人にとっては、オランダ旅行は、その気になれば、いつでも行けるような感覚に近いと思いますが、彼には違う。資金をつくるのにも一苦労、渡航にあたってビザの取得も必要、とまさに一生に一度の機会、といえるもの。アムステルダム行きに懸ける彼の想いの強さが、ひしひしと伝わってきます。
憧れの地アムステルダムに行ってからどうなったのかは作品を見てのお楽しみ、とさせていただきますが、とにかく、いろいろ考えさせられます。
芸術家と職人、都会と田舎、欧州と中国、富める者と貧しき者、本物とニセモノ、そして夢と現実。
一人の複製画職人、複製画ビジネスを通じて、世界経済や現代中国社会もが見えてきます。さらには、中国における都市戸籍問題も。
撮影に6年もの年月を費やしただけのことはある、凄まじい魂の大作です。こんなに心揺さぶられる作品は、そうそうない。
アートに興味がある方はもちろん、自分の人生や生き方に何か思うところがある方、ぜひ見てください!
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2017監督賞受賞。
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